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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1825

「今、朝鮮戦争の話が出ましたが、8月10日に日本では竹島と呼んでいる独島に韓国の李明博大統領が上陸したことはどう考えていますか」やはり口が滑ったようだ。A日新聞なら現職の幹部自衛官が韓国の政権を批判したことを取材名目で政府要人に伝え、外交問題に発展させるくらいのことは平気でやるはずだ。むしろ今もそれを狙っているのかも知れない。
「自衛官は自衛隊法第53条に基づき施行規則第39条で定める『服務の宣誓』で政治的活動に関与できませんからその質問には答えません」「なるほど。流石は弁護士先生ですね。自衛官に取材していて政治的な質問をすると『政治的行為の制限』を理由に断ることが多いのですが、自衛隊法を調べるとこの61条の規定は被選挙権と選挙活動に関する制限で拒否する理由にはならないんです。それを指摘すると焦って答えてくれるんですが、先生については諦めます」どうやら佐々木記者は誉めてくれたらしいが油断はできない。そこで反撃に出た。
「それにしても君は『日本では竹島と呼んでいる独島』と言ったが、日本での地名よりも韓国の呼称の方が正当だと考えているのかね」A日新聞が考えていることは紙面を読めば訊くまでもないが記者の口から聞き出すのは一興だ。電波法で政治的中立が義務づけられているテレビ局とは違い、新聞は広告掲載の減少と定期購読の契約が解除されない限り、言いたい放題書きたい放題なのだ。しかも近年では支社の統合整理によって使わなくなった主要都市に保有している土地の貸地収入が企業収益の中心になっているため遠慮する必要もなくなっている。
「我が社は近隣諸国の立場に配慮した紙面造りを心掛けていますから・・・」「すると日本海も東海と呼ぶんだね。紙面では気がつかなかったがな」私の追及に佐々木記者は目では不快感を全開にしながら口元には苦笑を浮かべた。法廷とは違い対戦相手との距離が近いので表情で心理を読み、読まれながらの論戦になる。これはこれで疲れる。
「それではモリヤ先生は日本には戦没者慰霊施設は必要ないと言う考えなんですね」「誰もそんなことは言っていないぞ。そもそも靖国は同じ日本人でありながら戊辰戦争の戦没者を差別しているじゃあないか。そんな靖国に戦没者慰霊施設を名乗る資格はない。しかし、国家を守るために命を捧げた英霊に礼を尽くすのは国際慣習でもあるから非宗教の施設を作るべきだね。無宗教ではなくて非宗教だぞ」これも他の言論人からは聞かれない意見らしく佐々木記者は口で確認しながらメモを取った。
「具体的にはどこが好いと思われますか。やはり千鳥ヶ淵ですかね」やはり戦没者を侵略戦争の犠牲者と考えているA日新聞としては千鳥ヶ淵の無名兵士の墓が好みらしい。
「千鳥ヶ淵も悪くはないが、個人的意見としては横須賀の記念艦三笠の公園が良いと思う。戦艦三笠なら世界的な知名度があるし、第2次世界大戦に限定した慰霊施設ではないことも理解される」この調子で話が長引くと単なる感想ではなく私個人のインタビュー記事になりそうだ。そうならないためにもこの辺で立ち話を打ち切らなければならない。
「本来、国家鎮護は奈良の東大寺と全国の国分寺が担ってきたんだ。それで1000年以上も平和が保たれてきた。ところが明治の廃佛毀釋で国家神道が盗って代わった途端に戦争が続発して77年で大日本帝国は滅亡した。国家神道の復活に賛同する政治屋の踏み絵になっている靖国なんぞは廃止して花見の名所の公園にするべきだ。これもあくまでも個人的意見だぞ。以上。昼飯を喰う時間がなくなるぞ」一気に捲し立てるとメモをしている佐々木記者に掌を見せて私は歩き出した。完全に喋り過ぎなのは自覚しているが、自衛隊に関する内容はないので保全規則上は問題ないはずだ。それにしても松川国家公安委員長は民政党の議員でありながら南京虐殺や(いわゆる)従軍慰安婦問題を否定している数少ない良識派なので批判はしたくなかった。問題は松川委員長が8月15日に「みんなで靖国神社に参拝する議員の会」の一員として踏み絵を踏んだ後の記事でどう使われるかだが、服務規律違反に該当しなくても厄介払いで崇徳上皇のように四国に配流してもらえれば佳織との近距離別居生活が再開できる。
「モリヤ2佐、やられたな」翌日の朝礼前、私は法務官に部屋に呼ばれた。ドアを開けると法務官は机の上に新聞を広げていて、前に立つと「靖国参拝は国家神道復活の踏み絵?」と言う見出しが目に飛び込んでいた。法務官は座ったまま私を見上げ、無表情に声をかけた。
「君が東京高裁でA日新聞の記者から取材を受けたことは報告を受けているし、内容もその通りだが、ここまで大きく取り上げられるとは思わなかったよ」法務官室で取っている新聞は法務官が呼んでから事務室に回ってくるためA日新聞はまだ読んでいない。
「これでは発言者が君だと特定されてしまうな」そう言って法務官は記事の隅の写真を指差した。そこには頭に毛がない制服姿の自衛官が佐々木記者の前に立っている後姿が写っていて、写真の紹介欄には「インタビューを受ける自衛官の弁護士=東京高裁」とある。おそらく別のA日新聞の記者が背後から望遠レンズ付のカメラで撮影したのだろう。見事だ。
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  1. 2020/02/13(木) 12:05:11|
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