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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1827(一部、実話です)

「閣下、よろしいですか」私は今出てきたばかりの法務官執務室に曹長を連れて入った。1曹は電話番として事務室に残した。
「二村事務官が何かやらかしたんだな」法務官は1曹がコーヒーを持ってきた時に「私物の携帯電話で通話中」と説明したことから明察した。人事教育課の担当者に国際刑事裁判所の検事の任期を確認させているところだったらしく、机の上には関係資料が置いてある。
「曹長から説明します」「先ほど閣下とモリヤ2佐が面談中に二村事務官の私物の携帯電話に連絡が入りまして、毎度のようにその場で通話を始めたのです」ここまでで既に曹長は立腹している。曹長の前の職場では勤務中は私物の携帯電話を通話不能にするように指導されていたそうだ。その点、私の弁護士としての業務連絡は私物のスマートホーンに入るため前の曹長や1曹、二村事務官にも禁止はしていない。それでも曹長と1曹は自主的に着信をメール限定にしていたが二村事務官は自由気ままに使っている。
「すると相手に礼を言われているような応答をして、言葉の端々にA日新聞と言う名前が出ていたのです」「なるほど」法務官は努めて軽く相槌を打っているが表情は渋くなってきた。
「最後に『私はモリヤ2佐が東京高裁に行く日を答えただけで』と言い訳していましたが、前後の脈略から見てモリヤ2佐の言動について詳しく話していたようです」3月に着任した曹長には私と1曹が時事問題を対等に語り合っていることに面喰らったようだが、二村事務官が配置換えになった頃の無礼千万な態度は目撃していない。これでもかなり改善したのだ。
「失礼します。二村事務官が帰りました」その時、ノックの後にドアを半開きにして1曹が声をかけた。続いて異様に緊張した顔の二村事務官が押し込まれた。
「二村さん、こちらに来なさい。曹長はもう良いだろう」法務官は固まったようにドアの前に立っている二村事務官に微笑みかけると曹長に退室を促した。曹長が二村事務官に厳しい視線を送りながら退室すると法務官は立ち上がってソファーに歩いていった。
「二村さんはA日新聞の佐々木記者とはどう言う関係なんだね」再び1曹がコーヒーを持ってきてから私が事情聴取と言うよりも尋問を切り出した。3人掛けの長椅子の中央に座っている二村事務官は前に並んでいる法務官と私の顔を怯えたように見比べたが、2人とも優しい笑顔を浮かべている。その不気味さに慄いたように分厚い唇を噛んだ。
「去年の暮れに韓国で従軍慰安婦の少女像ができた時、モリヤ2佐が『従軍慰安婦はA日新聞の捏造だ』って言ったから電話で確認したんです」「それは誤解しているぞ。私は『日本軍が韓国の女性を強制連行して慰安婦にしたと言うのはA日新聞と吉田雄兎が共同で捏造した虚構だ』と言ったんだ」相手の証言に訂正を加えるのは虚偽や誤解も公判で利用する尋問としては有り得ないことだが、そこは職場の上司としての服務指導の一環だ。
「二村さんの自宅はどこの新聞を取っているんだね」私の口調が叱責になったようで、不貞腐れたような顔になって眼鏡のレンズ越しに睨んだ二村事務官に法務官が優しく声をかけた。
「二村の家はY売新聞ですが、実家はA日新聞でした。両親から『A日新聞を読めば頭が良くなる』『大学受験の問題に出る』って言われて読んできたから、嘘が書いてあるなんて信じられなかったんです」「だからってA日新聞に確認したのかい」あまりにも馬鹿げた証言に私は大声で独り言を吐いてしまった。ここは呆れて唖然とするべきだったかも知れない。
「それで記者が誠実に対応してくれて交流を持つようになったんだね」「はい、国連の人権委員会の従軍慰安婦問題の会議でもA日新聞は証拠として採用されている。そんなに国際社会で信用されているA日新聞が嘘を書くはずがないって丁寧に説明してくれました」どうやら二村事務官は私を信用しておらず、感情的に嫌っているらしい。
「今までどんな話をしてきたのかな」「こちらから電話することはありませんが、電話で質問してきたことには正直に答えてきました」法務官の質問に答えた二村事務官の目に一瞬、恍惚の色が走ったのを私は見逃さなかった。昭和47年の沖縄の本土復帰に際して佐藤栄作内閣がアメリカのニクソン政権と交わした密約をM日新聞の西山太吉記者が外務省の大臣秘書だった蓮見喜久子事務官を誘惑して肉体関係を持ち、コピーさせて入手した卑劣極まりない情報漏洩事件がある。西山記者は入手した資料を基に書いた記事が編集長の判断で採用されないと、それを社会党の議員に渡して国会で追及させたため、一連番号から漏洩元が発覚して蓮見事務官は家庭が崩壊した。足元に冷風が吹いたようで私は背筋が寒くなった。
「本当は会ったことがあるんだろう」「いいえ、電話だけです」今度は音量を下げて独り言を呟くと二村事務官は即答した。この態度は限りなく怪しいが、あの事件の蓮見事務官はミニスカートが似合う知的美人だったが、真逆の二村事務官なら大丈夫だと信じたい。
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  1. 2020/02/16(日) 13:38:33|
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