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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1832

「こんばんは、こんばんは、こんばんは、も1つおまけにこんばんは。ゆきうさぎです」今夜は照子のローカルFM番組の日だ。11月1日付で森田士長が旭川の第52普通科連隊第2中隊に転属して予備自衛官になり、広橋牧場での仕事を始めて間もなく入籍し、年末年始には森田家の墓参を兼ねて四国へ新婚旅行に出かけた。照子は個人を特定できる情報には細心の注意を払いながらも惚気話を披露して新妻DJぶりを発揮している。
「最初のメールは旭川市愛別にお住まいの・・・縁起でもない地名でスミマセンって書いてあります。そんなことないですよ。だって愛別って言う地名は町内を流れている矢川をアイヌの言葉でアイベットって言うのが語源で、漢字は当て字じゃあないですか」いきなり話が大きく反れて地理講座になってしまったが、この自由奔放=野放図な進行も照子の番組の魅力ではある。
「愛別は大雪連峰の麓で桜の名所だし、屯田兵の私の旦那さまは愛別のマークが大好きなんですよ」ついでに惚気(のろけ)になった。愛別町の町章は矢川を表す黄色い矢羽根と青色の川の流れの中央に旭川を意味する旭日が描かれている自衛隊の部隊章のようなデザイなのだ。
「ごめんなさい。前置きが長くなりました。ラジオネーム、ヒグマのプーさんからです」確かに前置きが長かった。ヒグマのプーさんはラジオを聴いていて愛別からの投稿者が他にいるのかと気を揉んだことだろう。尤も照子の番組をいつも聴いていれば慣れているはずだ。
「ゆきうさぎさん、新婚生活は本当に幸せそうで安心するやら羨ましいやらです。旦那さんは牧場の仕事には慣れましたか・・・はい、元気で頑張っていますよ。旦那さんは屯田兵としての訓練にも励んでいるそうですが、両立はできていますか・・・はい、牧場を4周回ると丁度10キロになるから冬の間はノルディックで、今は駈け足で20キロ走っています」本当は旦那さま=森田士長は5月に猟銃所持の初心者講習を受け、学科試験に合格したので医師の診断書などを添えて申請書を提出し、教習射撃を実施してようやく乙種狩猟免許を修得した。今は広橋家に備えているライフルを持って射場に通っているのだが、あえて触れなかった。
「それではヒグマのプーさんからのリクエストは婚婚ネタです・・・ありがとう。コブクロの2004年のヒット曲で『永遠にともに』です」前置きが長くなり過ぎてガラスの向こうで痺れを切らしていた担当者がCDを操作するとピアノの伴奏が流れた。
「心が今とても 穏やかなのは この日を迎えられた 意味を何よりも尊く感じているから・・・」照子の結婚式は愛媛の森田家の佛檀の前で三々九度を交わした和式と春になって牧場に名寄の自衛隊の森田士長の同僚と旭川や札幌の照子の友人たちを招いてのガーデン・パーティーの洋式だった。ガーデン・パーティーでも友人たちはこの歌を唄おうとしたのだが、2007年に結婚した芸能人夫婦の豪華ホテルでの披露宴で、新郎がピアノを弾きながらこの歌を熱唱する映像が流れて視聴者を感動させておきながら、2009年に夫の不倫が発覚して離婚していたため「縁起でもない」と互いに制止し合っていた。それで自衛官が代わりに長渕剛の「乾杯」を唄ったが、こちらも離婚しているから大差はない。
「・・・やっとここから 踏み出せる未来 始まりの鐘が今 この町に響き渡る 共に歩き 共に探し  共に笑い 共に誓い・・・」あの芸能人夫婦の醜悪な顛末を知らなければ感動的な名曲だからリクエストしてくれたヒグマのプーさんの気持ちには感謝したいのだが、そうするには3年半前では記憶が生々し過ぎる。
「私たちの結婚は佛檀で旦那さまのご先祖さまに『永遠にともに』生きることを誓ったんです。だから響いたのは佛檀の鐘でした。それから新婚旅行中に除夜の鐘も聞いたから町に響いたのは『ゴーン』と言う音でした」茶化している訳ではないが、重く受け止めるよりは救いがある。照子自身も離婚歴があるが不倫が原因でなかっただけに、芸能人夫婦の豪華な披露宴の美談的演出から破局までの顛末が許せないのだ。
「次はラジオネーム、シャケのぼるさんからです。私のDJネームも夏には変ですけど、シャケさんも俎上するのは秋だからお互いさまですね。シャケさんは最初に中島みゆきの『ファイト!』をリクエストしてくれた時からですけど、あの歌の2番は川を昇っていく魚の鱗が光情景があります」照子は時計を見て前置きは短めに切り上げた。
「今日のリクエストもやっぱり中島みゆきですね。『遍路』・・・私、四国でお遍路さんに会いましたよ」照子は能天気に惚気たが、この曲は最後まで女の不幸・不運な逸話が続くので、いつまでも新婚気分に浮かれている照子に浴びせる冷水なのかも知れない。
「初めて私に スミレの花束くれた人は サナトリウムに消えて それっきり戻って来なかった・・・初めて私に永遠の愛の誓いくれた人は 2人で暮らす家の 屋根を染めに登りそれっきり・・・」ここまで縁起が悪いと逆に苦笑して聴けるから不思議だ。
旭川市愛別町章旭川市愛別町の町章
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  1. 2020/02/21(金) 13:43:24|
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