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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1867(実際の会話に近いです)

「雄馬、外国から手紙だよ」「アンタに読めるの」愛知県豊川市のモリヤ家で同居している近野雄馬が帰宅するとリビングでテレビのドラマを見ていた祖母が手紙を渡し、母が水を差した。女2人の声を聞いて弟の聡馬も振り向いた。雄馬は会社を終えた後、市内のサッカー・チームの練習に参加してくるため1人だけ夕食が遅いのだ。
「ミッフィーの切手かァ」「可愛いね」「何言ってんの、ウサギならパックス・バーニーに決まってるじゃん」雄馬と祖母が封筒に貼ってある切手を見て誉めると横から母が嫌みを言った。この母は根っからのディズニー狂だが、このウサギが主人公のアニメがワーナーの作品であり、正しくはバッグス・バニーなのを知らないらしい。ヒョッとするとタイニー・トゥーンと一緒にしている可能性もある。何にしてもこれがモリヤ家とその娘の近野家の知的水準だから読めない横文字の手紙は床に置いたまま触れずに放置していたのだろう。
「雄馬、晩ご飯は読んでからにする。先にする」夕食の準備に台所へ向かった祖母が声をかけた。雄馬は横文字の「Moriya」と言う差出人の姓が「モリヤ」であり、伯父ではないかと推理した。しかし、伯父は実家と絶縁しているため淳之介からのメール以外に情報がなく外国に住んでいると言う話も聞いていない。伯父からの手紙であれば中身は日本語のはずだ。雄馬は返事の代わりに食卓の横の棚に置いてある棚の引き出しからハサミを取り出し、それを見て祖母は椀に注いだ味噌汁を鍋に戻した。
「伯父さん、オランダに転勤したんだァ」冒頭の説明を読んで雄馬は大声を上げてしまった。それを聞いて聡馬も立ち上がって手元の手紙を覗き込んだが、それを見えないように隠すのが雄馬の性格だ。この小意地が悪いところは手紙の差出人を除くモリヤ家の血筋かも知れない。
「何だ、日本語じゃない。英語の手紙が読めて雄馬は凄いなァって感心して損しちゃった」すると知らない間に背後に来ていた祖母が皮肉を言った。こちらの血にも少し意地悪なところがある。その点、雄馬と聡馬の母は意地悪するほど知恵が回らない。
「オランダかァ、フランダースの犬だよね」祖母と息子の騒ぎを聞いて母が反応したが、これは間違っている。「フランダースの犬」の舞台になったアントワープはベルギー北部の古都だ。それでも景色に風車が出てきて木靴を履いていればオランダになり、それを訂正する者がいないから間違った知識に納得するのがこの家だ。
「国際刑事裁判所って何をするところなの」雄馬が手紙を読み上げると工業高校3年生の聡馬が質問した。ここで質問相手を指定すると回答できないことを「恥をかかせた」と激怒されるため独り言にするのがこの家で生きていく上での知恵だ。案の定、誰も答えない。聡馬は質問したことを反省しながら聞き役に回った。母も4年生までは伯父と同じ矢作南小学校に通っていたが、仕上げが宝飯郡一宮町内の小学校だったことが致命傷になっているようだ。
「この人はあかりさんのお母さんじゃあないの」伯父も実家の知的水準を踏まえて必要最小限の短文にしており、もう1枚の紙にはとてつもなく広いリビングで仲睦まじそうにたたずむ男女の写真が印刷してあった。雄馬がそれを回覧すると聡馬が余計なことを発見した。この中で淳之介とあかりの結婚式に出席したのは従兄弟の雄馬と聡馬だけだ。祖母と母も佳織には会ったことがあるが、15年近く前なので顔を覚えていない。祖母が引っ手繰るように奪い取ると自室でテレビを見ている祖父を大声で呼んだ。
「あかりの母親って任人の昔の恋人じゃあなかったっけ」「今は元カノって言うんだよ」祖母の質問に母親が馬鹿な答えを返した。すると祖父は感心したようにうなずいた。この父親の娘への溺愛は永遠に続くらしい。
「そうだよ。お祖母ちゃんが引き裂いたんでしょう」この家では祖父を責めることは禁句で、都合が悪いことは一番立場が弱い者に押しつけるのが作法だ。伯父がいればその役になる。
「何で昔の元カノと一緒に暮らしてるんだ。不倫か」祖父は母の説明を中途半端に流用した。ただし、2人がつき合っていたのは30年前なので「昔の元カノ」でも間違いではない。
「堅物の兄ちゃんがそんなことするはずないだらあ」「でもあかりのお母さんも素敵な人だったよ」「伯父さんってもてるんだね」すると話が迷走を始めたが、聡馬の一言に祖父は対抗意識を燃やして睨みつけた。現在のこの家では伯父の代役は聡馬が演じているらしい。
「アイツは淳之介の母親と結婚しながら佳織と子供を作ったんだ。やっぱり寺の祖父さんに似たんだな」「お祖父さん、聡馬の前でその話は・・・」祖母は責任を自分の父親に押しつけられたことには反論せず、高校生の聡馬の前で不倫を揶揄したことを嗜めた。
「寺の祖父ちゃんってスケベだったの」「部屋に外人女の裸のカレンダーを貼ってたね」「お兄ちゃんと一緒じゃん。グェッ」ここで聡馬が雄馬の秘密を暴露したためいきなり腹を殴られた。
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  1. 2020/03/27(金) 12:25:53|
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