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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1891

コートジボワールから帰国した翌日は午後からの出勤で、梢もオランダ語教室を午後の講座にしてあるので朝はユックリ熟睡できた。トイレに行きたくなって目を覚ますと梢は腕の中で私を見ていた。昔も目を覚ますと腕枕のままこちらを見ていることがあったが、私が抱えている苦悩をその目で見通し、包み込んで和らげてくれるようだ。
「朝昼兼用で良いよね」移動を含めて11日分たまっていた新聞に目を通してから食卓に着いたのは自衛隊で言う早飯の時間=11時30分だった。最近は顎が弱くならないように固めのフランス・パンに香ばしく焦げ目をつけるのが定番だ。
「カロリー計算上は2食分にしないから晩ご飯を少し豪華にできるでしょう」「それは楽しみだな」単身生活では食事制限も自己管理で自己責任だったが、こうして気を遣ってもらうと腹に入る以上の栄養が心に満たされてくる。梢がいつから糖尿病患者の食事管理を研究し始めたのかは不明だが、すでに熟達の域に達している。確かに朝昼兼用の食事の蛋白質の摂取量を押さえればその分を夕食で摂ることができるから肉や魚の切り身が厚くなる。そう言えば最近は乳飲料も「美味しい」と感激していたオランダ産の牛乳ではなく低脂肪乳になり、パンに塗るのもヨーロッパでは定番のバターからマーガリンになった。昔から質を落とさずに妥協する生活の知恵は梢の得意技だったからここでも本領を発揮してくれているようだ。
午後からはモレソウダ首席検察官の部屋でリミッド次席検察官も交えて私の報告を兼ねた話し合いが行われた。今回もモレソウダ首席検察官自から濃いコーヒーが振舞われた。
「今回の告発はフランスが問題化して、そこにワタラ政権も捜査を要請してきたことで調査に着手したと聞いていますが」「まだ内戦が継続中で私は何度も銃撃戦を目の当たりにしたよ」プロシアの戦争哲学者・クラウゼヴィッツ少将は「軍人は苦難や危険を経験したことを誇示する個癖を有する職業人だ」と喝破しているが検察官も該当するようだ。特にリミッド検察官は現職の軍人=自衛官である私よりも危険な状況下で職務を遂行したことに優越感を抱いているのかも知れない。私としては不用な体験談の応酬は避けて話を勧めた。
「確かに文民殺害や不当な戦闘行為は頻発していたようですが、それをバグボ政権の命令による組織的な戦争犯罪と結論づける証拠を確認できたのですか」「できたから告発に踏み切ったんだ。我が国際連合が派遣したPKF=平和維持軍を攻撃してきたことだけでも平和に対する戦争犯罪と断ずるに十分だろう」リミッド検察官は私の質問を挑発と受け取ったようで、インテリの紳士らしく語気は荒立てず声量だけを上げて反論した。
「その根拠の大半はPKFに参加したフランス軍とアフリカ連合軍関係者の証言でしたね」「物的証拠については共通の武器を使用していたため現場で回収した弾丸などの識別は不可能だった。ただし、PKFが攻撃を受けている動画は多数提供されているから、それを証拠としての事実認定は可能だった」モレソウダ首席検察官はこの説明に同意して刑事告発に踏み切っただけに私を見る目が険しくなっている。そこで私はお手ずからのブラック・コーヒーを多めに飲んで「美味い」と呟いてから攻勢に転じた。
「コートジボワールは世界最大のカカオ輸出国だから国家財政は健全で、国内の近代化はかなり進展していて国民生活も安定していました」「それをバグボは破壊したんだ」ここは話の進行を誘導するためだけの反論を無視した。
「その一方で何処にでもある部族対立はここにも存在していましたが生活の安定によって協調融和を選択させていたようです。ところが・・・」この間の取り方は日本の法廷で身につけた論法だが、丁々発矢の論争用の言語である英語では上手くいかない。
「アメリカが対イスラムの戦争を始めたことでもう1つ存在した宗教対立が先鋭化したようです。ご存知のようにコートジボワール国内にはイスラム教徒が38.6%、キリスト教徒が32.8%、土着宗教の信仰者が11.9%、特定の宗教に属さない者が16,7%存在しますが、キリスト教徒はフランスの植民地時代の上流階層だった人間なので今では多数派になっているイスラム教徒に対する侮蔑と敵意は根強く、攻撃は加えなくても執拗な嫌がらせは横行していたようです」これは私が慰霊の礼拝のために立ち寄ったモスクで聞いた話だが、すぐにウラマーが出てこなかったのも異教徒に対する警戒心が理由とのことだった。
「そうしてこージボワール国内でくすぶり出した火種をカカオ豆の生産から輸出までを独占していた企業の排除に着手したバグボ政権が邪魔になった安全保障理事会の常任理事国政府が利用したとは考えられませんか」「わずか1週間の調査で・・・」オージェ大尉を酷使して各方面をピン・ポイント攻撃して訊き集めた私の見解にモレソウダ首席検察官の目が不思議な光を放ち、私の禿げ頭の額が反射した。
ファトゥ・ベンソーダ首席検事イメージ画像
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  1. 2020/04/20(月) 13:43:45|
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