FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1892

「コートジボワールへ行ったんだって」国際刑事裁判所検察部での報告を終えた翌日、私は梢を伴って日本大使館へ防衛駐在官の近藤1佐を訪ねた。近藤1佐には自衛隊記念日の祝賀会食の時に調査に赴く予定を伝えていたので、私の赤く日に焼けた顔を見て事情を察したようだ。
「はい、在コートジボワールの日本大使館は昨年8月1日に再開したばかりなので防衛駐在官も内戦の実態調査に着手できる状態ではないでしょう。ならば近藤1佐から市ヶ谷へ通知していただこうと思いまして」「それは有り難う」私の説明に近藤1佐は素直に謝辞を述べた。防衛駐在官は赴任している国の国防省や軍からの情報収集だけでなく各国駐在武官を通じての情報交換も任務だが、私の場合は国際刑事裁判所からの情報漏洩なのかも知れない。
「コートジボワールは一般の日本人が考えているアフリカとは少し違うことを理解しないと今回の内戦の実態は見えてきません」近藤1佐に勧められてソファーに座ると前回と同じオランダ人の女性職員が紅茶を持ってきた。私と梢が目礼してからカップを鼻の下に運び、湯気を嗅ぐと近藤1佐は視線を少し強めて身を乗り出した。
「コートジボワールは世界一のカカオ豆の輸出国なので国家財政は非常に豊かです。そのため市内は整備されていて国民の教育も行き届いています。おまけに国土はカカオ豆の耕作地になっているので未開の地と言うイメージとは程遠い近代国家なんです」「ケニアも同じことが言えるんだよな」近藤1佐の返事に私も高校時代に呼んだジョモ・ケニヤッタ大統領の評伝を思い出した。明治以降の日本人には「近代国家に仲間入りした唯一の有色人種」と言う屈折した自意識があり、アジアやアフリカを画一的に見下すところがある。しかし、どこの国にも優秀な人材は存在し、政治は国家を豊かにして国民を幸福にするための努力を続けているのだ。
「そんなコートジボワールで内戦が発生したのは33年間の長期政権を維持して国家建設を成し遂げたボワニ初代大統領が死去した後の混乱と権力闘争に部族対立も加わったことが直接の原因です。ところが鎮静化した後にアメリカの対イスラム戦争が始まってイスラム教徒とキリスト教徒の対立が激化した上、そこに国連の常任理事国であるフランスが不当に介入したことで内戦が再発したんです」「ふーん、国連の公式見解とはかなり違うようだね。モリヤ2佐の国際司法裁判所は戦争犯罪容疑で前の大統領を逮捕しているじゃあないか」コートジボワールのバグボ前大統領は2011年4月11日にフランス軍に身柄を拘束され、国際刑事裁判所に送検されて現在は同じスフラーフェン・ハーグ市内に拘禁されている。
「日本政府としては騒乱状態になった首都で大使公邸が暴徒に襲撃された時、フランス軍に救助してもらった恩義があるからフランス側に立たざるを得ないだろうけど幹部自衛官が現地で調査した見解として通知する必要はあるな」「コートジボワールの日本大使館があるのは首都ではなくて最大の都市のアビジャンです」ここで悪癖が出て細部の誤りを指摘してしまったが、近藤1佐も慣れてきたのかここでも素直にうなずいた。
「ところでフランス語の通訳探しで悩んでいたけどどうしたんだね」3人が適度に冷めた紅茶を飲んだところで話題が換わった。確かに祝賀会場でもフランス駐在武官のデュブラ大佐に日本人の外人部隊兵士の貸し出しを依頼し、それを断られると在フランス大使館の在外公館警備官の同行まで模索していた。
「コートジボワールはイギリスともカカオ豆の取引をしているそうで意外に英語が通じるんですよ。フランス軍に通訳を依頼しましたが、若い女性士官だったのでデートしたようなものでした」その時、隣に座っている梢が私の二の腕を力一杯つねった。やはり嫉妬の火は消えていないらしい。そんな2人を近藤1佐は冷やかしたように苦笑しながら見ていた。
その夜、ベッドに横になると私の身体に異常事態が発生した。東京拘置所での勾留生活のストレスで喪失していた生殖能力が唐突に復活したのだ。
「梢、下半身裸になってワシの上に座れ」私は掛け布団をめくって腕枕されようとしている梢に命令すると自分もパジャマのズボンと下着を脱いだ。
「・・・これって」梢は30年ぶりに見る私の猛々しい男根に言葉を失ったが、そのまま下半身裸になると腰を下ろして私自身を受け入れた。
「東京でも1、2回起ったことはあったが、1人じゃあ萎むまでの時間を測っているしかなかったんだ。だけど今日はお前がいたから人生最後の性交を果たすことができたよ」「私も貴方に抱かれて身体が甦ったみたい」梢の身体の中に入っていたのはほんの数分間だったが、この奇跡は涙が出るほど感動的だった。東京の官舎で起った時には「人生最後のセンズリをしよう」と思いながら虚しく過ごしたが、今夜は梢がいてくれたおかげで願いが叶った。これは佳織に対しては不貞行為だが、私の人生最後の相手としては梢の方が相応しかったようだ。
三浦リカイメージ画像
スポンサーサイト



  1. 2020/04/21(火) 12:47:48|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<振り向けばイエスタディ1893 | ホーム | 4月20日・プロとアマ対立の発端・柳川事件が発生した。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/6090-43edf3be
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)