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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1912

「先に島豆腐を作るけど、食べ方は本土の豆腐料理にする」翌日、オランダ語教室の帰りに買い物をしてきた梢は昼休み中の私のところへ寄った。片手には食材が入った布製の買い物袋、反対の腕には家電製品の箱を抱えている。家電は昨日言っていたヨーグルト・メーカーらしい。布製の買い物袋は日本ではまだ普及していないがヨーロッパではスーパー・マーケットやコンビニエンス・ストアのビニール製の袋が有料なので自分の袋を持っていくのだ。
「島豆腐と本土の豆腐は食感だけじゃあなくて作り方も違うのか」流石に島ナイチャー(=本土の沖縄人)の私でも唐突に訊かれては即答できない。島豆腐は肉代わりにチャンプルにするが、本土の豆腐は冷や奴に湯豆腐だから調理方法や味付けが違うのだと思っていた。尤も禅寺の小坊主を経験している私は師僧=祖父直伝の豆腐を使った精進料理は数多く知っている。
「本土の豆腐は水を吸わせてからミキサーにかけるけど、島豆腐は先に砕いて水に漬けるのから早くできるのさァ。だから少し繊維質な感じがするでしょう」「そう言われても島豆腐の冷や奴を食べないと判らないよ。絹と木綿の違いは冷や奴で食べ比べたけど島豆腐は試したことがないからな」私の理尽くめの返事を聞いて梢は手に提げている買い物袋を持ち上げて重さを確認した。この様子ではかなり大量に買ってきたようだ。
「だったら両方作ってみるさァ。でも冷や奴には生姜か削り節が要るんじゃあなかったっけ」「ワシはドレッシングでも好いぞ」今まで冷や奴にこだわりがあるようなことを言っておいて、実は全く正統派ではないことを自白してしまった。沖縄での独身時代に基地の食堂で冷や奴が出ると全国各地出身、幅広い年齢層の同僚たちは十人十色の食べ方をして、それを交代で私に勧めたため生姜に醤油、削り節に醤油、刻み葱に醤油などの正統派の食べ方は破壊されてしまったのだ。単身赴任の小父さんの七味唐辛子に醤油や山葵(わさび)に醤油、ポン酢まではまだ許容範囲だが、先輩たちはマヨネーズやソース、ケチャップに各種ドレッシングまで洋風の調味料のオンパレードで私も世代が近いだけにこれにハマってしまった。
「それじゃあ豆腐サラダにすればいいんだね」「はい、期待しています」どうやら今後の我が家では沖縄料理の豆腐チャンプルと一緒に豆腐サラダが食べられるようになるらしい。考えてみると梢が作る島豆腐には砕いたピーナッツやグリーンピース、トウモロコシが入った特別製もあったからサラダにしても違和感はなさそうだ。
「先ずは本土のからやるさァ。大豆を100グラムだから4カップくらいだね」家に帰った梢は早速、豆腐を作り始めた。作り方は知人の那覇市内の本土の料理店の女将から聞いてきた。先ず手順を筆記したメモを読み返して確認するのが梢流だ。
「これを水洗いして水に漬ける。時間は水温プラス時間で30だったわね」どうやら温度計でボールの水の温度を測らなければならないようだ。室温が18度設定なので水も似たような温度になるはずだ。仮に15度とすれば15時間漬けなければならない。それでは30度のぬるま湯ならかけるだけで良いかと言えば10時間から20時間と言う基準も教えられている。どちらにしても明日の朝までになるので丁度良い。
「島豆腐はお母さんに習った通りで良いよね」今度は独り言を口にしながら仕事を始める。こちらは先に大豆を金槌で叩いて割ることからだ。
「お盆の中にまな板を置いて叩くと皮が飛び散っても片づけが楽なのよ」今回も量は同じだ。梢は私が日本から送った大工道具セットから金槌を持ってくると雑巾で金具を拭いてから大豆を叩き始めた。ヨーロッパでは生活音に対する苦情を遠慮しないので、盆とまな板の間に雑巾をひいた。そう言えば母は苦汁(にがり)ではなく海水をそのまま使っていた。次回は海水を試して成功すれば茶山元3佐夫妻に迷惑をかけないでもすむ。モリヤの好物で持病のカロリー制限にも有効な豆腐が確保できれば腕の奮い甲斐があると言うものだ。梢の金槌を打つ音が妙にリズミカルになってきた。
「ただいま」「お帰りなさい」家に帰ると梢は台所に立っていた。豆類を加熱した匂いがするので豆腐作りに励んだようだ。沖縄の作り方では大豆の固い皮を割ると笊(ざる)に入れて強風に晒して皮を吹き飛ばすのだが、梢は水の中で洗って浮いた皮を取り除いた。その後、指で胚芽を取り除いてから3から4時間水に漬け、ミキサーにかけて布で包んで絞れば豆乳が取れる。これを鍋で1時間ほど泡を小まめに除きながら炊き上げ、(今回は)苦汁を混ぜて蒸せばフワフワとしたユシ豆腐の出来上がりだ。このユシ豆腐の水気を絞れば島豆腐になる。
「島豆腐の方が早くできるのよ。冬だから冷や奴じゃあなくて温かいまま醤油をかけるね」梢の横から手元を覗くと懐かしい白い固形物=豆腐が湯気を立てていた。手間もかかっているが隠し味は愛情た。心からの感謝は頬と耳、首筋へのキスの連発で示した。
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  1. 2020/05/11(月) 12:17:46|
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