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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1934

「これは公判記録ですね」ソファーに向かい合って座ると金髪の女性事務員が紅茶を運んできて、そこから本題に入った。私が個人的に保管している1審の公判記録は以前、コピーを渡しているので今回は2審分だけだ。近藤1佐がオランダに着任したのは1年前だから日本で後半の報道を見ていない。私としては仕事の合間に訪ねてきているので分厚い公判記録を読み終えるまでつき合う訳にはいかず概略を説明することにした。
「2審では1審の無罪判決そのものは維持する前提で、横浜地裁が独自に推定した航跡図と位置関係を再検証することを目的に進められました」私の説明で近藤1佐も2審にはそれほど関心を払う内容がないことを察したのか、手に取っていた1枚目を置いて顔を向けた。
「つまり今回は東京高裁が独自の判断で判決を出したと言うことかね」「残念ながら裁判官は艦(ふね)や海については素人ですから論理構成だけを審査したようです」これまでの海難審判や航空事故調査委員会の延長で行われた刑事裁判では裁判官が素人であることを利用した検察側が専門用語と有利な数字で固めた資料を証拠採用させて有罪を奪い取ってきた。被告になった自衛隊側は選挙への悪影響を危惧する防衛庁長官や防衛大臣が開廷前に責任を認め、謝罪したため組織として反論することを封じられ、隊員は無実の罪と罰を課せられてきたのだ。
「それにしても今回の弁護側は堂々の正面突破だったね。マハン直伝の艦隊決戦を法廷で再現したようで観戦していても痛快だったよ」近藤1佐は公判記録を読み終わったような感想を口にした。アナポリス=アメリカ海軍士官学校の教官だったアルフレッド・セイヤー・マハン少将に学んだ日米海軍は第2次世界大戦において太平洋を舞台に艦隊決戦を繰り返した。
「今回は統合幕僚監部の首席法務官が1等海佐だったことが大きかったですね。おかげで組織戦を陣頭指揮して海上保安庁が推測で策定した航跡や位置関係を海上自衛隊の同型艦で検証すると言う荒業も実施できました。まるで日本海海戦の丁(ちょう)字戦法ですよ」「流石に元海軍少年はT(ティー)字とは言わないね」近藤1佐は妙なところに感心してくれた。日本海海戦を描いた映画や漫画では連合艦隊がバルチック艦隊の進路を遮るように転舵した戦術を東郷司令長官の姓の頭文字に重ねて「T」字ターンと呼ぶことが多いが実際は漢字の「丁」なのだ。そうなると2佐の私は作戦参謀の秋山真之中佐の役を演じたことになるが、それでは「坂の上の雲」の元木雅弘ではないか。元木主演でも坊主映画の「ファンシーダンス」ならば代役できる。
「それにしてもあまごのレーダーの探知記録を確認すれば航跡と位置関係は明確になるだろう。横浜地裁がそれを証拠採用しなかった理由は何だね」「要するにあまごのレーダー自体が被告人側の機材であってデーターの改竄の可能性を否定できないと言うのが表向きの理由です。それ以上に検察側を完敗させると海難審判の権威が失墜するから同業他社の法務省が配慮したと言うところでしょう。尤も、控訴した目的自体が完敗と言う印象を回避することでしたから台本通りの結末だったのかも知れません」ここで話が盛り上がって冷めてしまった紅茶を飲んだ。
「ところで海上保安庁と海自は本当に仲が悪いんですか」この質問の背景には沖縄時代に聞いた裏話がある。職場の同僚が禁漁区でサザエを獲っていて海上保安庁の巡視艇に見つかったのだが、職業を訊かれて「自衛官」と答えると「海上自衛隊か」といきり立ったため、「航空です」と説明すると「あまり獲り過ぎるなよ」と声をかけて帰っていったと言うのだ。
「その質問には相互に『接点がない』と答えることになっているんだよ。実際、救難くらいしか共同の任務はなかったんだが、今は尖閣諸島近海で中国の活動が先鋭化して事実上は共同で対処しているんだ」尖閣諸島に接近する中国漁船団には中国海上警察の公船が随伴しており、その背後には海軍の艦艇も睨みを効かしている。そうなれば日本側も海上保安庁だけでなく海上自衛隊も近海で待機するのが国際常識上の対応だが、民政党政権では缶内閣の千石官房長官が海上自衛隊の関与を禁止したため対潜哨戒機と潜水艦によって存在を示しているらしい。
「海上保安庁は現場の制服を着た人間同士は兎も角、中央の官僚は予算の規模が格段に違うことが我慢ならずに海上自衛隊に批判的な言動を弄する輩もいるようだ。そもそも国土交通省は運輸省の時代には国労(国鉄労働組合)を相手にしていたから極左に染まった官僚が多いんだ。それは日教組の相手をしている文部科学省も同様だろう」「航空も運輸省労組の空港職員には悩まされていました。那覇基地では緊急発進を妨害されて間に合わずに領空侵犯されたことも珍しくありませんでした。偵察隊が北方領土への飛行計画を提出するとそれがソ連に筒抜けで偵察飛行にならないと言う話も聞いたことがあります。それでは自衛隊法80条に基づく共同訓練などは実施不可能ですね」自衛隊法第80条では自衛隊が防衛・治安出動した時、必要に応じて海上保安庁を防衛大臣の統制下に入れ、指揮を受けさせることが規定されている。公式には実施していないことになっていても海の上でのことは誰も見ていないので実際は判らない。
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  1. 2020/06/03(水) 13:37:19|
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