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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1973

「東南アジア地域への中国の政治工作攻勢は想像以上でした。あれでは政治的侵略ですよ」ニューヨークに帰った杉本は松山以下の同僚たちに今回の成果を発表した。「中国」と聞いて身を乗り出すのは言うまでもなく本間だ。
「アメリカでは大きく報じられていませんけどね」本間もアメリカ国内での中国関連の報道や在アメリカ中国人の動向には注意を払っているが、アメリカ人の関心事は中東情勢、軍事的な敵は旧ソ連のロシアと相場が決まっており、殊更に人権問題が発生しない限りは中国の動向が紙面やニュースの時間を占めることはない。
「中国は一帯一路を実現するためにアジア各国に着々と手を打っている。タイで起こっている政治的混乱も華僑政権に対する国民の反発と保守層の危機感が根底にあるんだ」「9月7日に次期最高権力者の習近平がカザフスタンのナオルバエフ大学で行った講演の話ですね」やはり本間は専門家だ。杉本はタイに旅立つに当たり、国務省の友人に現地情勢を訊いた中で「気になる情報」として説明を受けたのだが、本間は独自に注目していたらしい。
「2011年6月に今のアキノ政権がフィリピンが領有している南沙諸島で中国が勝手に海洋調査を実施したことを常設仲裁裁判所に領海侵犯として提訴したでしょう。アメリカでは中国とフィリピンにベトナムを加えた海洋領土紛争と報じていますが、中国の本当の狙いは一帯一路の出入り口の確保なんです」「ウジオストックのロシア海軍が日本海に封印されていることの打開策として幕末に対馬を占領しようとしたようなものだな」本間の研究発表に松山1佐が補足した。以前、防衛庁(当時)が防衛白書にウラジオストックから日本を見た逆転の衛星写真を掲載して、ソ連にとって日本列島が太平洋への出入り口を封鎖している障壁であり、「取り除けないのであれば奪取したい」と考える必然性があることを説明していたが、中国にとってもフィリピンがそれであり、南沙諸島を押さえることがアフリカへの海路を制覇する上での第1歩なのだ。松山1佐の見解に情報要員たちは壁に貼ってある大きな世界地図を眺めた。これは日本列島を中心に太平洋を右、インド洋が中央、大西洋を左の端にしている日本製だ。この地図ならば中国からアフリカまでインド洋を横切る一帯一路も理解容易だが、大西洋が中心で2分した太平洋が両端にくるアメリカ製では問題の重大性は実感できないかも知れない。
「オバマ政権は対立を避けて中国を批判をしないから政治問題にならないんだ。オバマ個人は民政党に失望してからは日本を相手にしていない。折角、加倍政権が復活しても自分とは相容れないA級戦犯の孫の軍国主義者だと決めつけている。韓国も朴槿恵政権になって何とか保守派が継続したが、こっちも大嫌いな独裁者の軍人大統領の娘だ。だから東アジアの同盟国は話にならない思い込んで中国をアジアの交渉相手にしている。それを見透かして中国は目立たないようにインド洋へと食指を伸ばしてるんだ」岡倉の見解は日頃から嘆き合っている共通認識なので誰も反応しない。すると松本が続けた。
「アメリカでも大手テレビ局はユダヤ資本が押さえているけど新聞は購読者数の急減で暴落した株式を在アメリカの華僑が買い進めている。テレビのニュースは時間に追われて世論を喚起するところまではやりませんから、新聞は中国の意図を隠蔽しているんでしょう」これも常識の確認なので特に反応はない。情報要員が黙って聞いているのは同僚同士でも警戒心を与えるのでこれは仕方ないことだ。この間に黙って考えていた松山1佐が結論を述べた。
「今後、我が社は東南アジアでの取材活動を仕事の中心とすることにしよう。一帯一路の背後には有事における日本への海上輸送路の遮断がある。これは防衛問題に直結するから我々の担当業務だろう」松山1佐は8月に着任した諸西将補の後任の渡辺将補と個人的に話し合っていた組織の方針転換を発表した。渡辺将補は陸上自衛隊のエリートには珍しい施設出身で、PKOや国際救援活動、災害派遣などで海外勤務を重ねて国際情勢については卓越した見識を有している。これまでの情報活動が中東と韓国に偏ってきたことを指摘して、今後は中国を重視するように促した。ただし、中国本土への潜入については倉田のような犠牲が発生した場合、国際問題に発展しかねないため、今回の一帯一路戦略を踏まえ華僑を使った海外での政治工作を中心に実態把握を進めることで一致していた。
「日本では民政党政権を成立させたマスコミの策略が国民に知れ渡っているから、加倍政権はそれを利用して国際常識に則った外交を展開するつもりらしい。その意味では我々も少しは世界標準の情報活動ができるようになるかも知れん。非合法なのに変わりはないがね」今年1月に発生したアルジェリアの天然ガス精製プラントがイスラム過激派に占拠された事件で加倍政権は人質になった日本人を救出するためソマリアに展開している陸上自衛隊を現地に派遣することを検討していたと言う。これは軍国主義などではなく為政者としての国際常識だ。
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  1. 2020/07/13(月) 13:27:13|
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