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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1986(一部、実話です)

「私、しばらく石垣島に行こうかしら」電話を切った梢が相談するように呟いた。梢としてはあかりが恵祥を連れて歩く自信がつくまで一緒に生活しようと言うのだろう。それは旅行社での仕事で母、祖母として十分な支援ができなかったことの埋め合わせかも知れない。しかし、傍らで会話を聞いていた私は大きく首を振った。
「駄目だ。お前は馬鹿なお母さんになるって決めてここへ来たんだろう。悪いお父さんになったワシから離れることは許さんぞ」私も自分の口からこれほど身勝手な台詞が出たのには驚いた。私は2歳年下の妹が生まれてからは兄として我慢させられ、反抗期と同時進行の思春期には父親への絶対服従を孝行=人の道として強いられてきた。自衛隊に入ってからも過酷な曹侯苛めに遭い、私の中の「私」などは種のまま野鳥に啄まれ、芽が出れば刈り取られ、おまけに除草剤まで撒かれて枯れ果てたのだ。それがオランダで梢と暮らし始めて互いに愛情のキャッチボールを全力投球で再開し、義務や責任=使命感などの理由を必要とせず、自分の歓びとして思うままに愛することができるようになった。それは就職家出で逃れた沖縄で出会った梢との交際で回復するべきだった私の精神上の欠陥のようだ。
「それを25年前に言って欲しかったな。そうすれば・・・馬鹿」私の言葉を黙って受け止めた梢は涙声で返事をして胸に顔を埋めてきた。甚平の開いた襟の間に頬が当たり、薄着の身体を抱き締めると弾力と体温が腕に溶け込んできた。25年前に別れた夜、梢は私の胸で子供のように声を上げて泣いたが、あの時「俺から離れるな」と言っていればこんな遠回りをしないですんだ。となると淳之介とあかりは兄妹になってしまうが、別の幸せを得たはずだ。
「日活ロマン・ポルノとAVって違うの」9月も半ばを過ぎるとオランダの日没時間は8時前になるので梢との散歩=デートも夕食を遅くして食べる前に出かける。今日の話題は「淳之介が完全に毒されている」とあかりが心配していたAVだ。仮に淳之介が無神経にあかりがいる部屋でAVを見ても喘ぎ声くらいしか聞こえないので何をしているのか判らない。レイプ作品であれば脅迫と悲鳴になるのであかりは恐怖を感じてしまうだろう。
「それをワシに訊くのか。お前を日活に連れていったのは『視たい』って頼んだからだぞ」「うん、『あんねの日記』は面白かったな」会話は思い出話に換わった。つき合い始めて1年が過ぎた頃、人気アイドルグループ(始めはキャンディーズ・ジュニアと言う名前だった)・トライアングルの小森みちこが日活ロマン・ポルノに出演した「あんねの日記」のポスターを見た梢がせがんだので一緒に桜坂の日活専門の映画館に入ることになった。それにしても日活を見に来ている男性たちは暗い館内で自慰行為を始めることもあるので非常に迷惑だったはずだ。一方、私は梢のお墨つきをもらった気分になって竹井みどりの「キャバレー日記」のビデオを買ってアパートで観賞すると軍隊式の店員の接客を面白がって気に入ってしまった。
「ワシもリハビリとしてAVを見たことがあるけど本当に挿入しているから犯罪性を疑ってしまったよ」「本当に性行為をしているの。信じられない。あの頃は大島渚の『愛のコリーダ』くらいだったじゃない」続いて梢は妙な知識を自白した。この作品は2人で「戦場のメリー・クリスマス」を見た後、レンタル・ビデオ・ショップで大島渚作品を探していて見つけたのだ。
「一番の違いは姦られてる女優が本当に美人でスタイル抜群、おまけに年齢層やタイプの幅が広くてポルノ女優とは別次元なところだな」「貴方は三崎奈美が好きだったよね」「お前に少し似てるからな。乳が」私の馬鹿な自白に横を歩いている梢が背中を叩いた。私は映画雑誌を何冊も購読していたためジャンルを問わぬ映画情報に詳しく、内務班のポルノ上映会ではミズヤハルオと呼ばれて解説者にされていた。三崎奈美は「白薔薇学園・そして全員犯された」で引率の女教師役だったが、張りがある釣鐘型の乳房が魅力だった。しかし、この作品は梢には見せていないはずなので、行きつけのスナックで酒を飲んだ時、マスターとポルノ談議になったのかも知れない。酔った男の話題が下(しも)に落ちるのは自然な流れであり、若い女性が聞いていると恥らった顔見たさに内容が過激になる。確かに梢の乳房は不思議に筋肉質で豊かに盛り上がっていたが、三崎奈美ほど揉み応えがある美乳ではなかった。
「あかり一直線の淳之介がそんなの過激なビデオを見れば欲求が不完全燃焼して変になっても不思議はないね。やっぱりあかりを早く帰らさないと危ないわ」「でも2人目ができてしまうかも知れないぞ。避妊に注意させろよ」私の下に落とした返事に梢は真顔でうなずいた。とは言え完全受け身のあかりに避妊する方法はないので淳之介に厳しく注意するしかない。
「淳之介はあかりを優しく抱いてるんだろうな」「うん、私は貴方に抱かれていると優しさに包まれているみたいで幸せだったけど、あかりも命が1つになるって言ってるわ」しかし、私は美恵子も同じように優しく抱いて欲求不満を与えてしまったのだから相手によるらしい。
三崎奈美三崎奈美さん
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  1. 2020/07/26(日) 13:10:31|
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