FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2000

「弁護人」「只今、驚くべき弁論がありました。次席検察官は第2次世界大戦に遅れて参戦してアジア各国を侵略し、搾取と圧政を行った大日本帝国の戦争犯罪者たちの人道に対する罪に極東国際軍事裁判所が下した死刑判決を国際法上の判例と説明しました。つまり21世紀になって開廷された本裁判でも被告人に死刑と言う非人道的な処罰を求刑するつもりなのでしょうか」国籍は失念したヨーロッパ人の弁護士は想いのほか単純に挑発に乗ってきた。ここは打ち合わせ通りモレソウダ首席検察官に逆襲突っ込みを演じてもらうことになる。
「検察官」「当国際刑事裁判所は2004年7月24日に発効した『国際連合と国際刑事裁判所の地位』に関する合意に基づいて存在する司法組織であって、国際連合からも独立していることは弁護団も理解しているはずです。死刑を非人道的な刑罰として禁止しているのはヨーロッパ連合内の自己規制であって支配領域外に強制すること認められません。本裁判に限らず罪状に死刑に相当するだけの重大性が認められた場合、求刑することも我が検察が保持する選択肢です」モレソウダ首席検事が弁論を終えて椅子に腰を下ろすと巨体だけに「ギシッ」と音を立てた。やはりモレソウダ首席検事はベルギー人のリミッド次席検事が頑なに死刑を否定しているため国際法の専門家としての疑問を封印していたらしい。それが今回は明確に主張できたので少し解放感を味わっているようだ。その一方でヨーロッパ人が多い傍聴席では明らかに批判的なささやき合いが始まった。
「弁護人」「我々も国際刑事裁判所は建物がEUの一員であるオランダ王国内に所在しているだけで、何の拘束も受けない組織であることは理解しています。私も個人的にはナチス・ドイツと大日本帝国が犯した人道に対する罪に死刑を適用した先人の判断は正しかったと考えています。ただし人道に反する刑罰は人道に対する罪だけに許されるのであって、乱用することは21世紀の司法では絶対に認められません」この弁護人は一般の刑事事件式の証拠が提示できない我々の回避戦術に過剰反応してワザワザ死刑を阻止するための予防線を張ったようだ。
「検察官」「モリヤ次席検事が首席検事に代わって答弁します」私が立ち上がったところで向かいの席の弁護人たちは嫌悪感をアカラサマにした。これは横浜地方裁判所でのイージス護衛艦と漁船の衝突事故の裁判で検察官が見せた態度と同じだ。私でも少しは相手に圧迫感を与えているのかも知れない。同時に傍聴人席では小さくブーイングが起こった。
「これは本裁判とは直接関係ないのですが、罪と処罰に関する認識を正すために補足します。弁護人は『大日本帝国がアジア各国を侵略した』と言いましたが日本軍が進攻したのはヨーロッパ各国の植民地であり、日本軍は現地で行われていた非人道的な搾取と圧政から解放したのです。これを人道に対する罪とするのならヨーロッパ列強が大航海時代に世界各地を植民地化して搾取と迫害の限りを尽くした暗黒社会を肯定することになります。それでも勝者が敗者を裁けば正義と悪事も逆転する。本裁判で同じような構図を描いていけません」本当は「弁護団の健闘を期待する」と付け加えたいところだが、勝訴の見込みがないことは痛感しているので省略した。しかし、この発言をオランダのマスコミが報じればインドネシアで現地民を奴隷以下の家畜扱いして搾取と迫害しながら日本軍に敗北したことを逆恨みし続けているオランダ人の怒りに油を注ぐのは間違いない。案の定、裁判官の席では外交官の戸崎久仁子判事が険しい顔で私を見ている。それでもオランダ国内のこの裁判に対する関心は低く、新聞やテレビのニュース番組も取り上げたことがないから記者は取材に来ていないだろう。私個人としては今年の4月に即位した国王が遠からず訪日すれば平成の天皇が毎度のように戦前の日本をナチス・ドイツと同一の凶悪国家と断罪する戦没者への裏切りを繰り返すはずだから、その前にオランダの罪科を提起できれば幸いだ。
私は陸上幕僚監部法務官室で勤務している間、東京裁判だけでなく現地で開廷されたB・C級戦犯の軍事裁判も研究したが、オランダは日本初の空挺作戦の指揮官で海軍体操を考案した堀内豊秋大佐を捕虜虐待の罪で銃殺刑に処している。ところが軍事裁判では罪状を証明する事実は全く提示されず捕虜になっていたオランダ軍人の目撃ではない伝聞証言だけで有罪と断定した。アメリカも撃墜されて落下傘で降下したことを僚機が証言してもパイロットの生存が確認できなければ「捕虜虐殺」として現地部隊の指揮官を処刑している。中でも中国では国共内戦で士官クラスが出払っていたため文化大革命の人民裁判のような一方的な糾弾で多くの日本の軍人が処刑された。一方、ナチス・ドイツのB・C級戦犯の裁判では被告人が堂々と自分の正当性を主張したため常識的な公判が維持されたが、自己弁護を恥じる日本人の国民性がこの悲劇を生んだのだ。ところが今回の裁判では私の方が連合軍側だ。平成になって愛国心を喪失した日本人の端くれとしての私は真実の究明だけが関心事で勝敗などは眼中にない。
スポンサーサイト



  1. 2020/08/09(日) 13:38:19|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<8月10日・再軍備じゃあない!警察予備隊が創設された。 | ホーム | 8月8日・長崎出島のスウェーデン人・トゥーンベリの命日>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/6314-464e3bbf
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)