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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2002

「結局、コートジボワール内戦はバグボ前政権とワタラ現政権のどちらの罪で起こったと考えているんですか」私の奥歯に物が引っ掛かっているような見解に区切りがついたところでオージェ大尉が本題を持ち出してきた。この質問に次席検察官の法廷服のまま回答するのには問題があるが、迷彩服に着替えているので同業他社の知人の私的発言として応じることにした。
「私は佛教徒だから『罪』と言う発想はないな。ヒトラーとスターリンが共謀したポーランド侵攻のような凶悪で一方的な戦争は別として通常の戦争では相互に動機と原因がある。それを正義不正義で評価するのは勝者敗者と同義語だよ」オージェ大尉は固い表情で私の顔を注視した。日に焼けた赤い顔で汚れた迷彩服を着ていたコートジボワールの時とは違いフランス式の秋の装いを身にまとっていると流石に美しい。梢にも同じ服装をさせて一緒に歩きたくなる。
「アジアではヨーロッパのキリスト教よりも早くから佛教が広まったことで古代社会にも秩序と努力を尊ぶ温和な気風が醸成されていた。南アメリカには独自の文明と統一国家が存在していたが、こちらは徹底的に破壊されて痕跡しか残っていない。ところがアフリカは部族以上の集団は存在せず、体系だった宗教はなく、共通の文化や規範もなく人間も自然の一部として生活していたんだ」ここで2人がコーヒーを飲み終わり、話が長くなりそうなことを察したウェイトレスの小母さんが「おかわり」の確認に来たので頼んだ。
「アフリカに乗り込んだヨーロッパ諸国はキリスト教を広めながらも現地民を人間扱いせず、家畜として労働だけを強いた。20世紀初頭の第2代ベルギー国王・レオポルト2世はコンゴで現地民の80パーセントを殺したが、隣国のオランダがインドネシアを植民地支配したのも同じ方式だった」「でもフランスはコートジボワールの開拓を進め、都市や道路、水道を建設しましたよ」ここでオージェ大尉は私がヨーロッパを一括りにして批判していることに反論してきたが、私はアフリカを一括りにしているのでフランスを個別に評価するつもりはない。
「それは現地を案内してもらったから認めよう。ベトナムでも同様の植民地支配を行っているからそれがフランスの方式なのかも知れないな」私の特別な評価にオージェ大尉が微笑んだところにコーヒーが運ばれてきて、再び甘そうなカフェオレを作った。
「第2次世界大戦後、東南アジア各国は日本の国家建設に向けた指導を受けてヨーロッパ諸国による再支配を拒絶したが、アフリカでは一部のインテリ層がアジアの独立を羨望しても国家と言う概念が存在しなかったから大規模な部族抗争が始まっただけだった。それでもヨーロッパが無責任に手を引いたから国家が乱立したんだ。その証拠にアフリカの国境線は定規で引いたような直線で、地形や部族の支配地域は全く無視している」「それは砂漠地帯やジャングルが多いから仕方ないでしょう」やはり議論に慣れたヨーロッパ人を相手にするのは少々疲れる。私は佳織とのパジャマ・ミーティングで議論を楽しむ習慣は身についているが、梢との会話は常に談笑になるため最近は練度が落ちているのかも知れない。
「何にしてもその無責任な撤退の結果、アフリカ各地で頻発した部族間抗争にソ連が入れ替わるように介入して武器を与え、軍事顧問を送り込み、弓矢や槍で行っていた部族間抗争を内戦に発展させ、それを中国が引き継いだ。今やアフリカの東岸は中国の支配下にある」「それを阻止するためにフランスは西海岸へのインフルレンス(=影響力)を強化しようとしているんです」ここで「ダミネーション・パワー(=支配力)」と言わないところがオージェ大尉の賢いところだ。これであれば私が批判した第2次世界大戦後にベトナムの独立を認めなかったことで毛沢東主義の流入を招いた失策を繰り返さないための対応策にもなる。しかし、実際はアメリカのブッシュ政権が対イスラムの第3次世界大戦を起こして以降、サハラ砂漠沿いにイスラム過激派が勢力を拡大しており、フランスの植民地だった西岸地帯にも影響力以上の支配力を確立していることは今年の1月16日に発生したアルジェリアの天然ガス精製プラント占拠事件でも明らかだ。こうなるとフランスの味方として裁判に取り組まなけれならなくなる。
「フランスの立場と取り組みは理解するが、私としては相互に武器取って殺し合った内戦を勝者の行為は絶対の正義で、敗者の行為は完全な邪悪とする一神教の評価に与するつもりはない。若しフランスが自己の行為の正当性を根拠づけるために国際司法裁判所を利用しているのだとすれば東京裁判におけるオランダのレーリング判事の立場を踏襲するしかないな」オランダのベルナルト・ヴィクロール・レーリング判事はインドのラダ・ビノード・パール判事と共に東京裁判において日本のA級戦犯たちに戦争の経緯そのものが異なるナチス・ドイツと同様の罪を問うことに疑義を呈し、最高刑を終身刑として死刑には反対した。判事と検事では立場が違うが公判を通じて真実を明らかにする使命は同じはずだ。その真実に判定を下すのは判事の仕事だろう。それにしてもコーヒーに2枚ついてくるビスケットは中々美味だった。
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  1. 2020/08/11(火) 13:14:20|
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