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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2017

穏健なイスラム教徒のモレソウダ首席検察官は私と同様にクリスマス休暇とは言わないが年末年始休暇は取得した。ただし、閏月を設けない太陰暦であるヒジュラ暦1436年の新年=ムッハラムは2014年10月5日からなので単なる避寒の帰省だったようだ。オランダで過ごした私には土産はないが、梢手造りの伊達巻きを差し出した。沖縄のオードブル式オセチしか知らない梢が茶山夫人に作り方を訊くと手書きの解説書が届いたらしい。
「美しいお菓子ですね」ソファーで蓋を開けたモレソウダ首席検察官は伊達巻きを指で摘まむと1枚食べた。甘党だけに気に入ってくれたようだ。伊達巻きは長崎では「カステラ蒲鉾」と呼ぶように味つけと食感が菓子に近いからあえて誤解は解かなかった。
「昨年はアムステルダムのウェイスターモスクの建設が始まりましたが完成が待ち遠しいですね」新年の挨拶はイスラムの話題にした。2013年からアムステルダム市西バージェス地区の運河沿いに本格的なモスクの建設が始まっている。テレビや新聞の説明によると周辺の建物と調和を図るために外壁にはオランダ製の赤レンガを使うそうだ。
「モリヤ検察官は北キボールで殺害した暴徒たちの慰霊のために日本でモスクに通っていたって言ってましたね」年頭早々いきなり「死」に触れてしまった。尤も「死」を忌み嫌い、死につながる数字の「4=シ」まで避けるのは神道の言霊信仰だから佛教徒としては関知しない。
「はい、コートジボワールでもウラマー(=聖職者)と一緒に祈ってきましたが、オランダではコーランの詠唱のCDを流しながら祈るだけです」「しかし、イスラム法廷でもモリヤ検察官の行為は正当だと認定されたのでしょう。罪人は応分に罰せられるのがイスラムの法です。罪なき日本人の男女を凌辱の上、残酷に殺害したのだから死を受けるのは当然です。過剰に責任を感じ続ける必要はありません」こう手の話題を語るモレソウダ首席検察官は奈良の大佛に見えるから不思議だ。前置きが長くなったので本題を切り出した。
「公判は証拠調べに入れば私よりも調査担当のリミッド検察官の方が役立つでしょう」「しかし、モリヤ中佐(2佐)は法廷内の誰よりも軍事のプロフェッショナルですから素人の弁護人では太刀打ちでないはずです」日本的には謙遜によって否定する対応もあるが普通の外国人には理解されない。そこで単刀直入に希望を述べた。
「実は在スリランカの日本大使館で勤務している友人が『是非来てくれ』と懇願してきて、私としては早い時期に行きたいと思っているんです」「スリランカですか・・・それは私的旅行ですよね」やはりモレソウダ首席検察官には魂胆を見透かされているようだ。
「はい、夫や息子をテロに参加させるための人質にされて、撤退時には虐殺された老人や妻子たちの慰霊に行きたいのです」「その内戦の実相は誰に聞きましたか」私の説明が国連人権委員会の報告と異なっていることに気がついたモレソウダ首席検察官は大きな目を厳しくして確認してきた。こんな時は不動明王に近い。
「タイの僧侶の友人から聞きました。彼は日本の人権団体がヨーロッパのキリスト教系人権団体のスリランカ政府軍が少数民族弾圧や文民殺害の戦争犯罪に対する批判に同調しているのを阻止せよと詳細な資料を送ってきたんです。残念ながら私は重大な公判を抱えていたので何もできませんでしたが、義勇隊員としては佛敵・タミル・イーラムの虎との戦闘に参加したいと願っていました」「つまりタイの僧侶から聞いた内戦の詳細が事実であるかを検証したいと言うことですね」「いいえ、南方佛教の古代史跡を観光したいだけです」ここで迂闊に認めてしまうと私的旅行にならないので先ずはとぼけた。
「それでも私は日本の(いわゆる)従軍慰安婦の強制連行を事実と認めた1996年1月4日の国連の人権委員会の『女性に対する暴力とその原因及び結果に関する報告書』については意図的な事実誤認だと確信しています。おそらくスリランカ内戦に関する戦争犯罪の報告も同様の政治的意図によって虚偽の証拠を捏造したのでしょう」「そう言えば女性に対する暴力の報告書を作成したラディカ・クマラスワミはスリランカ人ですよ」「スリランカで会えば罵倒してやりますよ」本当はこのニューヨークで活躍する人権活動家を惨殺したいほど憎悪しているのだが、そこは社会人としての常識を保った。
「現在の公判はフランスが常任理事国として圧力をかけてきたから抗し切れず証拠固めも不十分なまま告訴することになったのです。スリランカ内戦で失敗を繰り返さないようにプロフェッショナルの目で事前調査しておくのは私個人としては賛成です。ただし、あくまでも休暇に同意するだけですよ」モレソウダ首席検察官は事実上の許可を与えると残り3枚の伊達巻きを立て続けに頬張った。糖尿病患者としては甘い伊達巻きの後に甘いコーヒーを飲む味覚を注意したくなる。モレソウダ首席検察官の前世は蜜蜂、むしろ花虻(アブ)なのかも知れない。
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  1. 2020/08/26(水) 12:05:13|
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