FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2019

ハワイでクミコ・トミタ少佐と「夫婦水入らず」な時間を過ごした杉本はホノルル=ダニエル・K・イノウエ空港発で成田乗り換えのタイ国際航空機でバンコク=スワンナプーム空港に帰ってきた。成田では入国はしていないが空港内を移動しながら2011年に東北地区太平洋沖地震における自衛隊の災害派遣を取材する外国人記者団に同行して以来の日本の空気を吸った。あの時は本間も一緒に横田基地を利用した。
「バンコクの反政府デモは年末年始も激しくなる一方だったわね。私の我がままで貴方の仕事を邪魔してしまったみたい。ごめんなさい」機内で隣りの席に座り、頭を肩にもたげかけているクミコは呟くように謝罪した。ハワイでもバンコク情勢を報じるテレビのニュースや新聞の記事を目にすると本間にスマートホンで連絡を取っていたが、デモ隊は選挙の阻止だけでなく、年明けからは市内でも外国企業などのビルが建ち並ぶ中心街の主要幹線での大規模集会を続け、事実上の封鎖状態を現出していた。本間には単独での接近を禁じていたが、ニューヨークへの報告ではデモへの潜入を図っていたらしい。
「気にしなくて良いんだ。俺も久しぶりに骨休めができた。お前との姫始めには感激したぞ」杉本はクミコの後悔以上に自分の行動を自責しているのだが、恥じらいを与えることで重くなりかけた空気を軽くした。するとクミコは甘えたように杉本の手を指で弄び、強く握ってきた。
クミコとの姫始めはハワイでも放送されていた北島三郎の最終出演となる紅白歌合戦を見て、6時頃まで仮眠した後、7時過ぎの初日の出を見に出かけた。帰宅するとクミコは和服に着換え、手作りしたオセチ料理とホノルル市内の日系人が経営する酒店で買った日本酒で乾杯し、酔いが覚めた午後からトミタ家の墓参に行った。そうして帰ったところで和服を脱ぐクミコの帯を掴み、一気に引いて身体を回転させる時代劇の定番「独楽回し」を満喫した。独楽回しは成人式の後に初体験して以来だったが、クミコには「殿、お止め下さい」と言う定番の台詞を教えていたので時代劇のレイプ・シーンを堪能できた。ただし、レイプを重大な刑法犯罪と考えるアメリカ人のクミコにこの趣味を理解させるには時間と労力を要した。
「私、貴方の子供が欲しくなっちゃった」機内に朝日が差し込み始めた頃、手を握ったまま眠っていたクミコが目を覚まし、掠れた声でささやいた。おそらく2人で年頭の墓参に行ったことでトミタ家の血を守る責任を再認識したのだろう。ハワイでは年末の姫納めから姫始めに続く床遊びでも避妊だけは十分に気をつけていた。工藤は還暦を過ぎて40歳を超えたジェニファーを妊娠させ父親になった。松山1佐、岡倉も子供がいるが、松本は愛妻家であっても子供は儲けていない。岡倉も危険な任務に赴く前に酒を飲むと妻子への執着が躊躇になることを怖れていた。その岡倉の妻は敬虔なカソリック教徒であり、現役の韓国陸軍大尉だったが父親を明かさないで未婚の母なった。しかし、クミコの性格から言えば妊娠して出産することを決めた時点で入籍し、アメリカ海軍でも必要な手続きを取ることを要求するはずだ。
「子供は困るな。俺はお前と2人だけで人生を楽しみたいんだ。父親に邪魔にされる子供が可哀そうだろう」クミコはこの回答を予想していなかったようで、困惑と失望を目で描きながら手を離し、顔を背けて目を閉じた。
「貴方、おかえりなさい」スワンナブーム空港の到着ゲートを出ると本間が待っていた。本間は満面の笑顔で元気に手を振って駆け寄ってきた。業務連絡のついでに到着時間と便名は教えてあったが、クミコを同伴していることは知っているはずだ。
「何事だ。俺が・・・」「杉本さん、私はここで」杉本が叱責しかけるとクミコは無表情に声をかけて自分のキャリーバッグを引いてエレベーターに向かって歩き出した。確かに今日は空港でクミコと分かれてバンコク市内の本間のワンルーム・マンションに向かうつもりだった。本間が事態の推移を甘く見て任務を押しつけておきながら単独行動を禁止した杉本に憤激しても仕方ない。杉本もスマートホンから聞こえる本間の声が不機嫌なためキャリーバッグの中には山ほど土産を詰め込んでいる。
「先日、反政府デモがバンコク封鎖と言う新たな闘争戦略を表明しました。私も武装したデモ隊にスワンナブームとドンムアン国際空港の管制塔と通信施設を占拠させて国際線を発着不能にする計画を耳にしましたから杉本さんと一緒に現地を確認しようと思って来たんです」本間の説明は杉本が心の中で振り上げた拳を自分の頬に打ちつけさせた。それも口の中が切れて紅い鮮血を噴き出すほど強くだった。奥歯も砕けたかも知れない。
「私、心細くて貴方が帰ってくるのを待ち侘びていました」到着ゲートから出てくる乗客が途切れて、ロビーに取り残されたことに気づいた本間は脱力して立ち尽くしている杉本に声をかけると、キャリーバックのハンドル(=取っ手)を掴み、空いた手を握って歩き始めた。
スポンサーサイト



  1. 2020/08/28(金) 12:42:15|
  2. 時事阿呆談
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<8月29日・洗礼者ヨハネの「斬首」の祭日 | ホーム | 振り向けばイエスタディ2018>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/6352-0c93876d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)