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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2023

ロンドン・ヒースロー国際空港発のエア・ランカ(スリランカ航空)は時間が早いため前日はロンドン市内のホテルに泊まることにした。ロンドンまではリール・ユーロップ駅でユーロスターに乗り換えてドーバー海峡の海底トンネルを通る。
「青函トンネルとこっちのトンネルではどっちが長いの」リール・ユーロップ駅はドーバー海峡の手前なのでユーロスターに乗り込むと間もなくトンネルに入った。真っ暗になった車窓に映った自分の顔と睨めっこを始めた梢が唐突な質問をしてきた。
「青函トンネルは約54キロ、英仏海峡トンネルは約50キロだから青函の方が長いが、海底部に限定すれば青函は約23キロ、英仏は約39キロで逆転するな」高校時代には鉄道研究会に誘われたくらい鉄道好きな私だから即答できたが、残念ながら青函トンネルは通ったことがない。何よりも鉄道以上の船好きなので青函連絡船の方が憧れは強い。
「スピードは何キロなの」「ユーロスターは時速300キロだけどトンネル内は160キロに制限されているはずだぞ」「すると通過時間は20分くらいだね」やはり数字の計算は梢の方が早くて正確だ。しかし、これは数学と言うよりも算数のレベルだろう。
「ロンドンが見えてきたよ」トンネルを抜けて映画で見たことがある草原と耕作地帯を走って行くと遠くにロンドンの街並みが見えてきた。梢に声を掛けられて身を乗り出すと「イカニモ」と言う感じの石造りの建物が目に入ってくる。
「何だかワザとらしい街だな」私たちが住んでいるスフラーフェン・ハーグも中世の面影を色濃く残す古都だが歴史的建造物と近代建築が自然な形で融和している。ところがロンドンは「大英帝国」の威光を誇示するように塔の時計台や時代物の屋根が街の輪郭を描き、現代の都市の風景を構成していない。確かに私も京都の大寺院の門前に現代的な店舗が建ち並んでいるのを見ると同様の違和感を抱くが寺領内は時代が統一されているので勘弁できる。
「軍事作戦だったバトル・オブ・ブリテンの報復でイギリスはドイツの都市を無差別爆撃したんだからヒトラーは怒り狂ってロンドンに復仇すれば良かったんだ。そうすれば相互に都市での無差別爆撃の悲惨さを学習してカーチス・ルメイもアーサー・ハリスの真似をしなかった・・・はずないか」かなり高度な軍事知識がなければ私の意見は理解できないはずだが梢は難しい顔で考えていた。イギリス空軍のアーサー・ハリス元帥はドレスデンを始めとするドイツの都市に無差別爆撃を加えたが、始めに爆弾で屋根を破壊し、次に焼夷弾で内部から火災を発生させ、消火に当たっている消防団や市民に向かって再び爆撃を加える非人道的な戦術を指揮した。アメリカ陸軍航空軍団のカーチス・ルメイ大将はそれを支援しながらノウ・ハウを学び、日本の都市空爆に応用した。ロンドンが瓦礫の山になれば国際世論が都市空爆を全面禁止したかも知れない。
「あれッ、ユーロスターの終点はウォータールー駅じゃあなかったか」「2007年11月からセント・パンクラス駅に変更になったんだって。ウォータールーだと在来線と並走してたから省略したみたい」車内放送で案内された終点の駅名が鉄道マニアとして調べたユーロスターの情報と違うことに困惑すると梢が解説してくれた。梢とは愛情を全力投球でキャッチボールしているが知識もテニスのスマッシュのラリーのように打ち合っているようだ。
「いきなり駅舎が時計台なのかァ。要するにイギリスはこんな時代から鉄道を運行しているんだぞって言いたいんだな」昔のヨーロッパ映画で見たようなホームから時代臭が充満している駅の構内を抜けて外に出るとセント・パンクラス駅は石と赤レンガ造りの塔の時計台つきだった。
「その割に街全体が縮小サイズだな。大英帝国と言っても島国根性は日本と同じだな」私も別にイギリス嫌いと言う訳ではないが、好きになる理由もない。強いて言えば周囲に押しつけられた私と生年月日が同じ若く美しいスーパー・スターの嫁を捨てて不倫関係にあった1歳年上の元人妻と結婚した王太子には共感している。やはり愛は貫きたい。
「ここからはロンドン・タクシーで市内観光よ」そう言って梢は先に駅前通りに駐車している黒塗りのクラシック・カーのような車に歩み寄った。ホテルは空港への地下鉄が出るビクトリア駅の近くなので在来線に乗り換えた方が安上がりだったが、そこもプロの仕事に任せた。
「大英博物館は何時間くらいで見られますか」ロンドン・タクシーに乗り込んで梢が運転手と市内観光について相談している横から私が質問した。ホテルのチェック・インの時間から考えれば無理なのは判っているが念のためだ。
「旦那さんの英語はかなりアメリカに毒されていますね。少し聞き取りにくいです」すると意外な返事が戻ってきた。沖縄でアメリカ兵相手に修得した私の英語が強いアメリカ訛りなのは自覚しているが、オランダに来て少しは上品になったと思っていた。スリランカはイギリス英語を学ぶため日本の学生が短期語学留学していると聞くから現地で通じない可能性がある。
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  1. 2020/09/01(火) 13:41:13|
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