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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2072

「恐ろしいことになりそうね」家に帰ると梢は録画しているテレビを点け放しにしていた。自転車で帰宅する10分間にニュースの内容に進展があったのだろうか。私はエレベーターで運んできた自転車を玄関から入れると洗面所でうがいをしてからテレビの前に移動した。
「博物館の防犯カメラの映像が警察に提供されたみたい。映像が残酷だからって放送はしてないけど・・・」「それは珍しいね。余程の惨状なんだな」欧米のマスコミは視聴者=市民に事実を周知することもジャーナリズムの使命としているため日本人には耐えられないような残酷な事件現場の映像も加工せずに流すのが一般的だ。それは食事時間のニュースでも同様なので日本的な気配りは冷徹な欧米のジャーナリストから見れば一種の検閲に映るのかも知れない。
「防犯カメラの動画を静止画像にしているので不鮮明ですが、犯人は一見してアラブ系の風貌のようです」ここでアナウンサーの説明と同時に人物の画像がテレビに映った。確かに逆光で不鮮明だが、目深にかぶった野球帽の下の顔は彫りが深く、揉み上げから顎と鼻の下にに黒い髭を蓄えていることが判る。これは典型的なアラブの男だ。
「犯人は灰色か水色のジャケットを羽織って建物に近づき、玄関前で持っていたカバンからロシアで製造されているカラシニコフ自動小銃を取り出しました」「無断コピーのAKー74は中国の主要輸出品だぞ。闇ルートの」アナウンサーの説明に思わず突っ込んでしまった。これも画像で紹介しているが、大きくはない手提げカバンから取り出したのは床尾を畳んだAKー74のようだ。ヨーロッパでの中国はアジアで暴君のように振舞っている覇権国家とは別の国のように国際連合安全保障理事会の常任理事国として紳士を演じている。その裏で華僑に国から資金を渡して個人の資格で企業の買収を進めているが、それも経営危機に陥った企業に対する救済と受け取られている。しかし、実際は旧ソ連がアフリカでバラ撒いて部族間の抗争を内戦に発展させた銃器を中国が無断で模造した56式自動歩槍を補充する形で輸出してきて、現在では5・56ミリNATO弾を発射する84式自動小銃が主流だ。
「それでガラスのドア越しに中にいた4人に発砲しています」ここで画像は銃を構えている犯人の姿になった。鉄筋コンクリート製の建物の壁として設置されているガラスには重量を支えるだけの強度が与えられているため小銃弾を貫通させることが難しく弾道は定まらないはずだ。おそらくセンサー式の自動ドアを開けた状態で発砲したのだろう。
「現在、我々は警察当局に動画の公開を要求していますから近日中に事件の実態をお知らせできると思います」ここまででニュースは死亡した観光客の人物紹介に移ったが、フランス人女性の風貌もコートジボワールで会ったフランス陸軍の女性兵士たち、特にオージェ大尉には似ておらず、むしろフランス系ユダヤ人のようだ。尤もブリュッセルに観光に来てユダヤ博物館に立ち寄るのはユダヤ人が中心なのは言うまでもない。
「ベルギーへはスイスの後に行ったじゃない。アントウェルペン(オランダ語の地名=英語のアントワープ)はそれ程でもなかったけどブリュッセルにはアラブ系の人が多かったから、こうなるとイスラム教徒に対する警戒心が強まって排斥運動が起こらないか心配よ」「リミッド検察官も『移民制限するべきだ』と言っていたからその可能性は高いな」私と梢は昨年の夏に「アルプスの少女」を目的にスイス旅行をして非常に感激したので、秋には「フランダースの犬」の舞台になったベルギーのアントウェルペンに1泊2日の小旅行をしてきた。すると梢がスフラーフェン・ハーグの図書館で下調べしている段階からネロを葬った教会が現存し、領主の娘にアロアのモデルがいたことが明らかになり、さらに栗毛で青い目が一般的なベルギー人の中で(金髪に染めている女性は多い)アロアが金髪の巻き毛で黒目がちなのはスペインに従属していた頃の混血の可能性が高く、ネロの祖父の足の障害はナポレオン戦争での戦傷であることまで判った。当然、現地で会った日本人の観光客に教えたが揃ってアニメしか見ておらず、原作で描写されているパトラッシュが茶色で立ち耳であることも知らなかった。
「9・11の後、アメリカでも戦時中の日系移民みたいにイスラム教徒を迫害する空気が蔓延したそうだが、それでもアメリカは多民族の国家だから中立的に解説する人物が登場したけど(日系移民の時には現れなかった)、ヨーロッパはキリスト教一色に塗り潰されているから一度、邪悪な存在と断定すれば魔女狩りのように社会から一掃するまで差別と弾圧を繰り返すんだろうな」9・11後のアメリカの話は志織の小学校での体験談だ。
「確かに人権や児童福祉に環境や動物愛護の問題で反対どころか同じ立場でも視点や見解が違うだけで敵視するのはヨーロッパの団体だわ」「カソリックでは外の異教徒よりも内なる異端者の方が憎悪の対象なんだ」「それが魔女狩りね」梢との夢のように楽しいヨーロッパでの生活に突風が吹き込んだような事態になってきた。それも2人でなら潜り抜けられるはずだ。
ぬ・純名里沙イメージ画像
  1. 2020/10/20(火) 12:41:12|
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