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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2129

「恵祥は今年の5月で4歳でしょ」若い夫婦に国際電話での長話は経済的負担が大きいので一度切ってこちらから掛け直した。あかりは呼び出し音で恵祥が目を覚まさないように固定式電話の接続音で出たが第一声は梢からだった。
「そうだよ。島の兄弟たちの年の差から言えば少し遅いけどね」あかりの説明をモニターのスピーカーで聞いて私は梢と顔を見合わせた。確かに沖縄の子沢山には年子や中1年が多く、入学、卒業、受験が連続するので「慣れ」が先行してあまり緊張感=真剣味がないようだった。
「やっぱり雲島も子沢山の家が多いんだね」「ウチ以外は3人以上だよ。一番多い家は男女5人だから家族は9人なの」私も沖縄に赴任してシマンチュウの友人たちの兄弟が4人や5人も珍しくなく、中には女6人の下に弟の7人姉弟もあって、アメリカの統治下で避妊を禁ずるカソリックの影響を受けたのではないかと考えてしまった。尤も、その7人姉弟は父親が「男ができるまで」と子造りに励んだ結果と言うことだった。
「雲島は安心して子育てできる環境なんだね」「車は家と畑と港を往復するだけだから危なくないし、みんな顔を知ってるから恵祥が1人で歩いていても気がついた人が付き添ってくれるの。ハブもいないから安心して遊ばせられるわ」この環境ならば視覚障害者のあかりの育児に関する不安材料が解消されるのは間違いない。
「それに保育所は学校と一緒だから中学生と小学生がお兄さん、お姉さんになって面倒を見てくれるの。中学生は半分親みたいだけど。特に低学年の子が遊んでくれると恵祥も少し背伸びをするから凄く成長してきたわ」あかりの声に自信に似た力を感じて私も安堵した。しかし、子造りは勿論、子育てこそ夫婦の協同作業であり、淳之介の覚悟を確認しない訳にはいかない。そこで梢に手を差し出して受話器を受け取ろうとすると先に「淳之介に代わって」と伝えた。これは2人を結ぶ意思の紅いケーブルではなく阿吽の呼吸と言うものだ。
「あかりの話は聞いたがお前も2人目を望んでいるんだな」「はい、あかりと話し合って出した希望です」淳之介は妙に緊張したような口調だ。人生の転換点とも言える決定を父親に伝える息子の気分なのかも知れない。ただし、私は愛知県の父親にそんな感情を抱いたことはない。私にとって愛知県の実家は人生の足枷、進路の障害物以外の何物でもなかった。
「俺は志織って妹がいるけどあかりは1人っ子だろ。だから志織と暮らしていた頃の話を訊かれてたんだ」考えてみれば私には愚妹がいて、梢も若くして亡くなった恵昇兄の賢妹だ。その意味では今度の子供は女の子かも知れない。ところが淳之介は意外なことを補足した。
「恵祥は安里家の跡取りにするから俺にはモリヤ家の長男としてはもう1人男の子を作る責任があるんだよ」「誰もお前にそんなことは期待してないぞ。俺は愛知の実家とは縁を切ったから消えてなくなっても関係ない。梢や志織みたいな可愛くて賢い女の子が良いな」勢いで女子を希望してしまったが梢や志織のような最高の妹ならば大歓迎でも、何の断りもなく愛知県の実家の跡取りにおさまっている愚妹の出現だけは困る。ましてや玉城家の4人姉弟の3女で淳之介を産んだ美恵子の遺伝子が復活することだけは御免こうむる。話が拙い方向に流れ始めたので序幕まで戻すことにした。
「しかし、お前たちは5歳違いだから志織には兄と言うよりも一緒に暮らしてる小父さんみたいな感じだったんじゃあないかな」「あかりは2人目も首里のオジイとオバアのところで産みたいって言っているから恵祥が小学校に入る前じゃあないと預けられないだろう。だからこのタイミングなんだ」この返事を聞く限り、2人はかなり綿密で具体的な話し合いを続けてきたようだ。淳之介は志織のブラザー・コンプレックスは明かさなかった。
「島に帰ってくるのは産まれて半年後くらいかな。安里の両親もそのくらいなら頑張れるだろう」気がつくと私は同意していた。梢も隣りで笑顔を浮かべてうなずいているから夫婦の父母(両親ではない)は了解したようだ。
「首里のオジイとオバアは2回も島に来てくれてるから心配ないよ」「その時は恵昇伯父さんもついてくるよ」淳之介の説明に電話の向こうであかりが補足した。男同士の話が長くなったようだ。折角、こちらから掛けたのでもう1度、梢に代わった。
「それじゃあお医者さんともよく相談して慎重に頑張ってね」「この間、子造りしてたら恵祥が目を開けて見ていたんだって。見えないと困っちゃう」こちらでは私が電話をモニターしていることを知らないあかりいは母への秘め事を告白した。性行為は夫婦であれば「営み」と呼ばれる日常生活の一部ではあるが、若い日の梢にも重ねて愛しているあかりの痴話を聞かされると少なからず動揺してしまう。それにしても今日は久しぶりに在宅勤務にしていて本当に良かった。そうとも知らずに電話をしてきた淳之介との親子の血縁を実感した。
つ・安里あかりイメージ画像
  1. 2020/12/19(土) 13:17:28|
  2. 夜の連続小説8
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