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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2337

暗闇の中、高級な香水の匂いに誘われるのか元首相の身体には蚊に限らず大量の虫がたかってきた。手入れが行き届いた白い肌には忽ち蚊が差した腫れが増え、伸ばした爪でかくと血が滲み、汗が染みた。これは華僑の名門家庭の9人兄妹の末っ子として生まれ育ち、同じく華僑の名門財閥の御曹司と結婚した元首相には耐え難い経験だった。
その時、ランウェイ・ライトが点灯し、月がない漆黒の闇の空からジェットのエンジン音が響いてきた。それも小型ビジネス・ジェット機の軽い音だ。
「お兄さま・・・」今回、元首相は2008年8月に「北京オリンピックの開会式に出席する」と言って出国したまま現在はアラブ首長国連邦のドバイで暮らしている兄の元首相が手配したビジネス・ジェット機で海外逃避することになっている。
「あの飛行機に乗ればお兄さまの下(もと)へ行ける」元首相が立ち上がった時、ビジネス・ジェット機は赤や緑のランウェイ・ライトを目がけて着陸し、タイヤが鳴る高い音と逆噴射の太い音を立てて短い滑走路一杯で停止した。
「これは・・・」立ち上がった元首相は太腿の内側を垂れる水滴の違和感に身体を硬直させた。それはボディガードと運転手が女性器の中に注ぎ込んでいった大量の精液だった。元首相はまだ少女だった頃に18歳年上の兄に純潔を捧げて以来、兄と夫以外の男性に肉体に触れさせたことはなかった。その高貴な至宝のような肉体を下賤な男たちに散々に弄ばれた。
日本でも高倉天皇に入内した徳子(なるこ)が兄の平宗盛と肉体関係を持っていたことを落飾して建礼門院になってから告白しているが、そこで「畜生の如き振る舞い」と述べているのは壇ノ浦の合戦の後、源義経に強姦されたことであって兄や天皇との肉体関係は指していない。
「急がなければ」「待て、動くな」元首相が裸足のまま道路を駆け出そうとするとランウェイ・ライトが消えた暗闇から男性の鋭いタイ語が聞こえた。
「誰なの」この場所に潜んでいた男性、然もタイ人が何者なのかは元首相には想像もつかない。下手をすればあの男たちと同じ行為を続けるつもりなのかも知れない。
「この状況では互いに名乗るのは省略しましょう。ただ、この空港はクメール・ルージュの拠点だったので周囲には大量の地雷が埋設されています。ですから迂闊に動くと折角、お兄さまが手配してくれた出迎えの飛行機に無駄足を踏ませることになります。どうか私と一緒に来て下さい」男はそれだけ言うと元首相の返事を待たずに再び暗闇に消えていった。すると間もなくエンジンをかける音が聞こえオフロード用のバイクにまたがった人影が現れた。
「オフロード用なので2人乗りには向きませんが不整地を走るには最適です。とりあえず私のシャツを着て下さい。汗の臭いはご容赦願います」人影は一方的説明すると確かに男性の体臭がする木綿のシャツを差し出した。
「お前は裸なのか」「いいえ、ターバンにしている布を腹に巻いています」元首相がシャツのボタンを止めている間にも人影は饒舌に説明した。そして元首相が着終わると手を伸ばして腕を掴み、座席の後ろの本来は尻を固定する台にまたがらせた。
「それでは出発しますから私の腹に両手を回してしっかり捕まっていて下さい。脚は開いておかないとマフラーで火傷します」元首相は人影に引き寄せられて初めて顔に面のような機械を装着していることに気がついた。これはおそらくナイト・スコープ=暗視眼鏡だ。つまり暗夜に行動する準備をしてこの場所にいたことになる。元首相は男の腰に回した両手に力を入れると汗ばんだ背中に頬を寄せた。疑えば果てしなく怪しいが、殺気や害意を全く発していないので信頼すれば全てを託しても良いと感じていた。
パイリン空港は簡易空港扱いのため夜間は完全に閉鎖されていてゲートは半開きで警備員は待機所内で熟睡していた。杉本は開いていた門をバイクに乗ったまま突破すると駐機場=エプロンに直行した。するとエプロンでは政府の指示で出勤した空港事務所の責任者と管制官、誘導員がビジネス・ジェット機のパイロット2人と重要人物の到着を待っていた。
「諸官がカンボジア政府から指示を受けた重要人物をお連れした。途中で部下の裏切りに遭ってこのような姿になっているが間違いない。顔を確認しろ」杉本が英語で指示すると関係者はエプロンの照明で元首相の美貌を確認して頭を下げた。
「先ずこの女性に服を用意してくれ。シャワーがあれば浴びさせて欲しい」続いて杉本は関係者に矢継ぎ早に指示を与えた。余計なことを考えさせるとそれが疑いを招きかねないのだ。元首相は誘導員が持ってきた作業服を着るとシャツを杉本に返し、関係者たちと空港事務つの建物に向かって歩き出した。そこで杉本はバイクで走り出した。
「お前の名前は」「ハリマオだ」背中に投げ掛けられた質問には手短に答えた。
  1. 2021/07/14(水) 14:43:20|
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