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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2343

「当レストランの夕食セット・メニューのテクス・メクス料理のコースでございます。メイン・ディッシュとしては4種類の料理を出していますから見比べて次回にオーダーして下さい」ここでウェイター2人が料理を載せたワゴンを押して歩み寄ってきた。テクス・メクス料理で有名なのは西部劇でもカウボーイが宿営地で作っている牛肉と野菜にトウモロコシの薄焼き煎餅のようなトルティーヤを合えたタコスだが、4人の前に出された皿と鉢の料理は都市部の高級レストランのような装飾的な盛りつけはしていないもののボリュームは満点のようだ。特に体力勝負の生活を送っている志織は目を輝かせた。
「私、夏季休暇中は空いているフライト・シュミレーターと水泳に励んでるからお腹が空いちゃって」「やっぱりスクイド(烏賊=ミリタリー・スラングの海軍)は泳ぎが上手くないとな。空を飛ぶよりも舟を漕いで泳ぐことだ。そう言えばスクイドも少し飛ぶな」志織の衝撃の告白に父親の裁定が下っていることを知り、ノザキ中佐は皮肉を再開させた。
「志織はハワイ育ちだから水泳は得意でしょう」「得意なんだけど泳ぎ方が日本式だからヨーロッパ系の教官からはパワー不足に見られてるの。それは訓練全部に言えるけどね」スザンナの確認に志織はチリコンカーン(肉と豆、野菜の煮込み料理=テキサスでは豆やトマトを入れない)を口に入れかけていた匙を止めて答えた。
「日本人はパワー不足を技で挽回するからね。水泳も筋力の強化よりも水の抵抗を極限しながら最大の推進力を発揮する技を練習するじゃない。スポーツはパワーを競うものと思い込んでいるヨーロッパ人には理解できないよ」「私もハワイでベース・ボールを見て日本の野球と同じスポーツとは思えなかった。日本の野球では小学生にも打ち難いコーナーへ投げることや変化球を教えてたけど、ベース・ボールは速い球をストライク・ゾーンに投げる練習だけ。大体、日本みたいに大人が指図して雁字搦めにしたら子どもたちが止めちゃうよね。その点、居合道は習ったことを鏡の前で繰り返すだけだから私には向いていたわ」話が母娘の日本批判になりノザキ中佐とスザンナは困ったように食事を進めた。
「ところで志織はダディの若い頃のセックス・フレンドを知ってたけど・・・」ご飯代わりのブリート(薄く広げたトルティーヤに具を詰めた料理)を頬張った佳織は先ほどから気になっていることを質問した。志織がモリヤ2佐の若き日の遊び相手を特定するには提供したヒントが少な過ぎる。モリヤ2佐と梢の間では「意識が接続されているから言葉の説明は不要」と聞いたことがあるが、志織まで接続されたとなると佳織の立場がない。
「ジュディ・アイランド曹長は練習機の列線整備班の先任下士官なの。若い頃に普天間や岩国で勤務していたから『日本が大好き』って私の面倒を見てくれてるわ。ジュディは『日本には素敵な思い出がある』って言ってるけどダディのことなのかしら。あの逞しくて強いジュディを惚れさせるなんてダディって男性として凄いよね」「私だって惚れてるよ」志織の熱弁に佳織は小声で補足した。フィリピンで再会する前の佳織であればこのような台詞は口にできなかったはずだ。ジュディ曹長からモリヤ3曹との関係を聞き出した時も嫉妬は全く感じておらず、単なる自衛隊の幹部の身上把握=事実確認として受け止めていた。
「それで志織が今乗っているTー44はどんな練習機なんだ」話題が航空機整備員になるとノザキ中佐の関心はジュディ・アイランド曹長ではなく扱っている航空機に向かった。
「空軍では固定翼機のコースに入るとTー38までキャリアー(輸送機)からファイター(戦闘機)やボンバー(爆撃機)も一緒に教育を受けるが、海軍には艦載機と地上基地の違いもある。お前は地上基地の対潜哨戒機だから艦載機とは別コースだろう」「私たちWAVESのパイロット学生も練習機の後席に乗って空母に着艦してアレステイング・フックでの急制動を体験する機会はあるわ。ただ空母艦載の戦闘機がFー35CになるとVTOLだから急制動が必要なくなるの。そうなるとWAVESの体験着艦がなくなる可能性が高いわね」話は反れたが興味は強まった。ノザキ中佐の視線を確認して志織は話を続けた
「私はペガサス(Tー44)からオライオン(Pー3C)、そしてポセイドン(Pー8)に進むけど、ポセイドンはボーイング737の改造だからグラダディのスターリフター(Cー141)と大差ないわ」「それでもCー141は旅客機の737ほど乗り心地が良くないぞ」ここでノザキ中佐が妙な空軍の優越性を口にすると志織も海軍軍人らしく反論した。
「軍用輸送機も安定飛行に入ればオート・パイロット(自動操縦装置)を使うでしょう。哨戒飛行中の対潜哨戒機は操縦桿から手を放すことができないのよ。私はペガサスで操縦持久力を鍛えているの」「そうか・・・スクイドとして頑張れよ」皮肉でオチをつけながらもノザキ中佐は息子の和人を空軍の戦闘機パイロットにした時と同じ感慨を噛み締めていた。
お・千葉すずイメージ画像(スクイドの志織)
  1. 2021/07/20(火) 13:56:57|
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