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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ2455

「モリヤ講師ですね」福岡へは幹部候補生学校の夏季休暇が終わった8月19日の月曜日に移動したが空港には総務課長の2佐が迎えに来ていた。実は佳織から夏季休暇明けに予定されていた日韓候補生交流が中止になったため戦争法と国際情勢の特別講座の講師を依頼されたのだ。おかげで私の夏季休暇は8月13日から後ろにずれた上、大幅に伸びてしまった。
「まさか講座も迷彩服で実施されるんですか」「一応、91式の3種は持ってきているけど、戦場の話をするにはこっちの方が迫力は出るな」「座学ですから制服でお願いします」2佐は私が着てきた迷彩服を見て困惑したように確認してきた。本当は法事の後に着替えた70式の3種夏服にして自衛隊ファッション史の教材にしたかったのだが、幹部候補生学校で服装違反を犯せば恐い校長閣下に叱られる。
「業務車1号だね。乗客は1人だから業2で良かっただろう。大体、ワシが鉄道好きなのを忘れたな」ロビーで出迎えた2佐の案内で駐車場に歩いていくと陸上と航空では業務車1号に分類されるOD色のセドリックのライトバンが停まっていた。車種はセドリックやクラウンでもライトバンの後席の乗り心地は良いとは言えず、私としてはカローラ・クラスのライトバンの業務車2号で十分だ。ちなみに佳織の黒塗りの高級車は業務車3号だ。
「閣下も『後払証を送りたい』って言われたんですが、講師の行動日程が不明なので実現しませんでした」「休暇中まで拘束されるのは嫌だからな」佳織は鉄道の乗車券に相当する後払証を送ってくれるつもりだったらしいが、首里の梢の実家に送らせる訳にはいかない。
「久しぶりの日本はどうですか」「国際情勢が全く報じられていないのには呆れたよ。それでも日韓の軍事情報保護協定の破棄の問題はもっと大きく取り上げるべきだろう」官用車が滑走路に沿って南に向かって走り出すと後席の隣りに座った2佐が雑談を始めた。福岡空港は九州縦貫自動車道の福岡インターチェンジに隣接しているのだが久留米からは通り過ぎた位置にあるため太宰府インターチェンジを利用しなければならない。私に言わせれば時間の無駄だが、費用対効果ではなく費用だけを判定基準にする会計検査ではこちらが正解なのだ。
「当校としても日韓との問題は切実でして今回、講師に特別講座をお願いすることになったのも海自の対潜哨戒機に韓国の駆逐艦が火器管制レーダーを照射した事案で士官学校生徒の来訪を中止したことが理由なんです」「日韓軍事情報保護協定の破棄はその延長とは思えないな。韓国は海外では北朝鮮と統一国家で、中国の従属国として反日の市民運動に躍起になっているから完全な敵対国家だよ。ドイツの首都ベルリン市内でも官公庁があるミッテ区の公園にロリ戦時売春婦の像を建てようとしているのを知ってるかね」「従軍慰安婦少女像は日本でも名古屋市と豊田市で開催されている美術展で展示されて愛知県に批判の声が殺到しています」成田空港に到着して売店で買った新聞では「韓国政府が日韓軍事秘密保護協定の破棄を決定した」と断定していたが、理由は日本政府と言うよりも加倍政権が輸出貿易管理令で韓国に与えていた輸出品を無審査とする優遇措置を撤廃したことへの報復、つまり経済問題と断定していた。しかし、私が在オランダ大使館の防衛駐在官から聞いている情報では韓国がベトナムの工場で生産して中国に輸出している軍事転用が可能な電子機器に日本製の最先端の電子部品を使用していることが最大の問題のはずだ。
「閣下も当然のように国際情勢に精通されていますが、講師も驚くほど詳しいですね。これは講座が楽しみです」「インターに入ります」2佐との雑談が盛り上がってきたところでドライバーが声をかけた。私は前川原から防府に帰宅するのに高速バスを利用していたので研修で訪れた水城(みずき)を高架から見下ろすのを楽しみにしていた。これから見る風景はあの頃を思い出させてくれるだろう。
「モリヤ講師、遠路はるばるお疲れさまでした。無理をお願いして申し訳ありません」「いいえ、親も高齢化しているから一度は帰国しなければいけないと思っていたんですよ」佳織は学校本部の正面玄関で待っていた。将補が2佐の来客を出迎えるにしては異例かも知れない。久しぶりの夫婦の対面だが公務中の将補と2佐では会話は他人行儀にならざるを得ない。それでも2人きりなら梢の命令どおりに抱き締めて口づけするところだ。
「あの頃と比べると隊舎が増えて随分風景が変わってしまったでしょう」他人行儀な対面の挨拶を終えると佳織は2佐と副官を従えて校長室に向かって歩き始めた。これでは手を握ることもできない。多分、佳織も腕を組みたいのではないか。
「それでも講堂はそのままですね。あそこで講師として話す日が来るとはね」「モリヤ候補生は講師を質問責めにして苛めていたから覚悟しておいて下さい」この口ぶりでは型に填める一方だった陸上自衛隊幹部候補生学校も少しは自己主張が許される校風に変わってきたようだ。
  1. 2021/11/08(月) 15:57:57|
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