「やっと中国が公式発表したのか」今年も私には全く関係がない12月25日から年末年始休暇に入ったが、10月くらいから中国旅行から帰国した人たちがインターネットに書き込みを始めた中国の武漢市の新型肺炎が心配で、路面が凍結していない時間帯に自転車でスフラーフェン・ハーグ市内に外出はしても公共交通機関を利用した近傍の国への小旅行は控えている。中国では太陰暦1月1日の春節前後が正月休暇だが、学生や外国企業はカレンダー通りなので旅行費が割安になるこの時期に来ている可能性は否定できないのだ。そんな12月31日に武漢市の衛生健康委員会が開いた記者会見をオランダのテレビが報じた。それにしても日本で言えば政令都市の地方自治体に過ぎない武漢市の会見に欧米を含む海外のマスコミが多数参加しているのはこの問題が、すでに世界中に知れ渡り、注目を集めていることの証左だろう。
「ネットやテレビでは秋から武漢では新型肺炎が流行していて危険だから行ってはいけないって警告が載っているのに初めて患者が確認されたのは12月8日ですって」「何で成道会なんだ」先ず武漢市での発生状況を説明する担当者の中国語を同時通訳する英語を聞いた梢の呆れたようで少なからず憤りが籠った言葉に私は茶化して応えた。マトモに受けては大晦日の朝から2人で怒ってしまいそうなのだ。それにしても日本軍のマレー半島上陸作戦と真珠湾攻撃も釋尊が悟りに至った佛教三大法会の成道会だ。
「おまけに海鮮市場だけで集中的に発生していて患者数は27人で7人が重症で2人は間もなく退院する。武漢市としては明日に市場を閉鎖して感染の封じ込めに着手するんだって」「病気の感染拡大は1日の遅れが致命的になるぞ」やはり武漢市の中国的対応とそれを悪ぶれることなく説明する担当者の厚顔無恥に腹が立ってきた。
「原因は新型のコロナ・ウィルスの可能性が高いのではないですか」「申し訳ありませんが、我が国の人民が理解できる中国語の質問を優先します」記者会見が質疑応答に移っても担当者はひるむことなく平然と当局の見解を強弁している。この胆力は地方自治体の職員のレベルではない。おそらく北京から派遣された放送関係者ではないだろうか。
「それでは中国語で質問します。10月末に武漢市の公立病院の医師が過去に症例がないインフレンザが発生している。爆発的な感染拡大で市民に蔓延する可能性が高いと言う報告を学界のページに書き込みましたが・・・・」「貴方の中国語は聞きとれない」「その書き込みが削除されて医師は所在不明になっている。何を隠しているんだ」「それでは湖北日報の延が質問します」ヨーロッパ人の記者の質問を封殺すると担当者は中国人の記者を指名した。これがマスコミが操作する世論が政治を左右する西側では有り得ない荒業なのは間違いない。
「コロナ・ウィルスって知ってるか」「私もネットの読みかじりだけど風邪の病原体になっている4種類のウィルスのはずよ。それにSARSやMERSも加えられてこれでもう1つと言うことね」記者会見が大本営発表になったので私たちは梢が淹れてきたコーヒーを飲みながら雑談を始めた。梢が口にしたSARSが流行したのは私が南キボールPKOに参加し、殺人容疑で刑事告発された2002年で、東京拘置所内で有り余る時間を読書で過ごす中、自費購入していた週刊誌で不要な知識を溜めこんでいたが、「コロナ・ウィルス」と言う専門用語は記憶にない。
「SARDSの時には中国の細菌兵器研究所からウィルスが漏れたって噂があったが、今回もネット上では事実認定されてるよな」これも当然、週刊誌で仕入れた見解だが、当時の欧米でも同様の推察が流れていたようで、この話題がインターネット上に踊り始めた当初から書き込みが続出し、意外に高度な軍事知識を持つ人物が加わって完全に事実になっていた。
「貴方はプロとしてどう思ってるの」「ワシも果てしなく怪しいと思ってるよ。中国の核兵器とロケットの技術情報はマッカーシーの共産主義者狩りで追放された在アメリカ華僑の研究者が持ち帰ったが、生物化学兵器は731部隊が残した資料を掻き集めて再構築したんじゃあないかな」731部隊は第2次世界大戦中の満洲で防疫と治療に当たっていた医療衛生専門部隊で人気作家の森村誠一が新聞赤旗に連載した小説「悪魔の飽食」で生物化学兵器の開発を任務として人体実験を繰り返したと断定していた。731部隊はソ連軍の満州侵攻当日に施設と器材、標本を爆破・焼却して撤収しているが、部隊長の石井四郎軍医以下の証言と持ち帰った資料はアメリカ軍が押収しても破壊した施設はソ連軍と国民党軍が接収・調査した。おまけに下働きなどの中国人から聴取した目撃談は中国が独占したはずだ。
「それでもWHOは中国の発表をそのまま請け売りするのね」「WHOが信用できないのは人類の危機だな」WHO=世界保健機関は国際連合に属する専門機関だが、私が勤務している国際刑事裁判所は国際連合からは独立していて「国際連合と国際刑事裁判所の地位に関する協定」に基づいて存在・機能している。したがって批判することに遠慮は必要ない。
- 2021/11/24(水) 16:20:28|
- 夜の連続小説8
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0