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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ7

「空自のレーダーがロストした位置で機体を発見しました。隠岐島と竹島の中間地点、水深約420メートルの海域です」数日後、航空自衛隊の警戒管制レーダーが航跡を喪失した海域を捜索している潜水艦救難艦の遠隔誘導式の無人潜水艇が海底に横転したPー1対潜哨戒機の機体と2枚の主翼を発見した。Pー1は低空で飛行していたため機関砲弾が燃料タンクに命中して空中爆発したものの主翼がもげた状態で墜落しただけで原形を留めていた。
「浅い海域で助かったな。対馬盆だったら深海用潜水艇でも発見は難しかったよ」防衛部防衛課長が持ってきたUSBメモリーを自分のパソコンで再生しながら海上幕僚長は表情を引き締めた。日本海は中央に大和堆と呼ばれる水深400メートル程度の海底丘陵帯があるが最深部は3742メートル、対馬の東にある対馬盆でも2500メートルを超えるため平均水深は1752メートルになる。潜水艦救難艦に搭載している深海救難艇の限界深度は5000フィート(1524メートル)とされているので「難しい」と言うよりも無理だった。
「この画像を見る限りPー1の主翼のパイロン(ミサイルの固定具)には91式が全弾残っています。つまり・・・」「Pー1が先に攻撃したと言う韓国の発表は虚偽になるな」海上幕僚長の相槌に防衛課長はユックリうなずいた。
「機体の下部には命中弾が多数あります。これは精密照準していなければ不可能です。ASMの発射を受けての応戦にしては命中率が高過ぎるでしょう」「しかし、命中精度の問題は軍事常識の範疇だから韓国には通用しないよ。すでに世論工作では先手を打たれているから明らかな詭弁も正論になってしまう。先ずはPー1がASMを発射した事実がない証拠の画像を突きつけて我が方が先に攻撃したと言う虚構の打ち消しからだ」海上幕僚長の見解に防衛課長の胸に海上自衛隊にとって忌々しい過去が湧き上がってきた。1988年7月23日に潜水艦・なだしおと遊漁船・第1富士丸が衝突した事故では海上幕僚長が記者会見で「事故原因は明らかになっていない」と記者が要求する謝罪を拒否したにも関わらず防衛庁長官が入院している負傷者への見舞いと謝罪に制服を着て同行することを強制し、海上自衛隊側の過失と言う印象が確定してしまった。そのため「遊漁船が乗客に潜水艦を見せるために接近した」と言う生存者の証言が出たが海難審判と司法裁判では採用されず、艦長は有罪判決を受けて免職になった。一方、2008年2月19日にイージス護衛艦・あたごと漁船・清徳丸の衝突事故でも防衛大臣が発生直後の囲み取材で記者に要求されて謝罪したが、海上自衛隊はなだしおの事故の教訓を政治屋の裏切りを含めて研究し尽くしていたためマスコミの断定的な報道にも敢然と反論して司法裁判では海難審判の虚偽を認定させて無罪判決を勝ち取った。
「本日、午前9時20分頃に日本海南西部海域で墜落した対潜哨戒機の捜索に当たっている海上自衛隊の潜水艦救難艦・ちまたの深海救難艇が水深約420メートルの海域で対潜哨戒機の機体と2枚の主翼を発見し、映像の撮影に成功しました」海上幕僚長が防衛大臣に報告すると同行を命じられて首相官邸に向かった。これを受けて昼前に立野(たつの)官房長官による緊急記者会議が開かれた。この冒頭の辞にも日本人の記者たちはスマート・ホンを操作するだけで反応しなかったが、「チュッ」と韓国訛りの舌打ちが起こった。
「映像では乗員の遺骸などの残酷な場面が映っているため、PTSDを発症する惧れがない場面だけを画像にしました。あらかじめ断っておきます」ここで立野官房長官は舞台の横で控えている補佐官に台上に設置してある大画面のテレビの作動を指示した。すると暗い水中で照明が当たった海底に横たわるPー1の機体が映った。
「これは発見時で次第に接近していきます。なお、機体の横に搭乗員と思われる遺骸がありました」テレビに映っている画面が少し飛んだように感じたのは遺骸が見える部分を編集したようだ。日本人の記者たちは安堵したような表情を浮かべたが、それ以外の東アジア系の記者は再び「チュッ」と舌打ちした。
「こちらが主翼ですが、後ほど映るもう1枚を含めて空対艦ミサイルは発射することなく全弾が残っています」ここで立野官房長官は画像の進行を止めさせるとテレビに歩み寄って裏返った主翼に立っているパイロンと4発の91式空対艦誘導弾を指差した。東アジア系の記者たちは身を乗り出して喰い入るようにテレビを注視したが、日本人の記者はスマート・ホンのメールを確認するだけだ。おそらく韓国側の発表を事実と信じ切っているので新たに提起された状況が理解できていないのだろう。
「つまり海上自衛隊の対潜哨戒機が対艦ミサイルを発射した事実はなく、韓国側の一方的な銃撃によって撃墜され、搭乗員11名が消息を絶った可能性が極めて高いことになります」ここまで言われてようやく日本人記者たちも顔色を変えた。ただし、考えたのは反論だけだった。
  1. 2022/01/18(火) 14:53:01|
  2. 夜の連続小説9
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