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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ15

「危ないな。海栗島と見島に警備要員を派遣しないと初動対処できないぞ」航空自衛隊を定年退官して愛媛県で蜜柑農協の支店長になっている森田敬作定年2佐は最近の日韓の対立の報道に門番=守衛に過ぎなかった警備職を航空陸戦隊=対テロ部隊に改革した現役時代の危機感が身体中に湧き上がってきた。今日の新聞には韓国海軍の艦艇が北朝鮮の工作船と疑われる小型船を護衛して日本海の見島と隠岐島に接近する訓練を実施した記事が載っている。森田定年2佐が警戒管制員として入間基地の中部航空警戒管制団で勤務していた頃、日本海で活動する北朝鮮の工作船を監視して石川県や福井県に接近すると各県警に通報したが「県労組が反発すると本部長が県知事に叱責されるから何もできない」と黙殺された。その工作船が日本人を拉致していたのだが今回は韓国の護衛付きだ。しかし、韓国も李承晩政権が人道上の理由で北朝鮮人を受け容れた新潟県の日本赤十字病院を破壊するため全国各地から多くの工作員を潜入させているので南北協同作戦になっても違和感はない。
「自衛隊を辞めて何年も経つのにまだ戦争をしたいの」森田定年2佐の独り言を聞いて台所で朝食の準備をしている秀子が嫌味を言ってきた。秀子は森田定年2佐が退官して愛媛に帰ってからは自衛隊を批判する言動を公然化していて日に日にその度合いを強めている。先日は韓国空軍が編隊で日本海を南下して航空自衛隊のADIZ=防空識別圏を突破したため緊急発進の増強態勢が発動された記事があり、森田定年2佐が曹侯学生だった1983年9月1日に発生したサハリン上空での大韓航空機撃墜事件の時に敷かれた臨戦態勢を説明しても「自衛隊があるから戦争が起こる」と冷ややかに言い放った。
「自衛隊は我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つために存在するんだ。戦争になって真っ先に死ぬことになる人間が戦争をしたいはずがないだろう」「でも貴方も謙作も嬉しそうに戦争の練習に励んでいるじゃない。好きでなくちゃ有り得ないわ」現役時代の森田定年2佐や北の最前線の陸上自衛隊の森田謙作予備3曹が進んで自らに厳しい訓練を課しているのでは、やり遂げた達成感を満喫するためであって秀子が言う戦争=人殺しを楽しんでいる訳ではない。それにしても定年退官後に妻の精神教育をする羽目になるとは思わなかった。
「自衛隊は戦争を防ぐ力を鍛えているんだ。強い人間が守っていれば敵も手出しできないだろう」「他人を敵と思うところが自衛隊なのよ。貴方は秋山兄弟と同じ根っからの軍人で正岡子規にはなれないわ」唐突に「坂の上の雲」に例えられたが、森田家は代々が農家で戦前は平時に徴兵で軍隊に入っただけで職業軍人はいない。戦後も森田定年2佐は幹部自衛官だったが、謙作予備3曹は即応予備自衛官でも酪農家の屯田兵なのでどちらが本業なのか微妙なところだ。
「仕事に行く前に気分が悪くなることを言うな。お前も予備自衛官の母親なら息子の仕事に誇りを持つべきだろう」「私は謙作を戦争に行かせないわ。あの年増の嫁は許しても私が謙作を守ってみせる」会話の内容を見る限り、売り言葉に買い言葉ではないはずが妙に秀子が攻撃的になった。これでは宣戦布告だ。
「飯はいらん。お前が作った餌なんか喰えるか」流石に森田定年2佐の堪忍袋は緒が切れてしまった。森田定年2佐は新聞を畳むと立ち上がって寝室に向かい農協の作業服に着替えて出勤した。朝食は途中にあるコンビニエンス・ストアで弁当を買ってすませた。
「お前、あの男とはどんな関係なんだ」「あの男って・・・」「K産党の運動員だ」数日後、帰宅した森田定年2佐は夕食の支度をしている秀子に質問をした。先日の口論で2人の間に亀裂が生じ、これまでは妻を信じる気持ちで否定してきた疑惑が反動のように強まって抑えることができなくなっていた。森田定年2佐は支店長になってからは営業に回るようになり、自宅の前を通ることもあった。すると何度か玄関前に同じ乗用車が停まっているのを目撃した。さらに市内で見覚えがある男が運転し、秀子が助手席に座っている同じ車に会った。
「貴方が思っている通りの関係です」調理していたガス・レンジの火を止めた秀子は台所の手前に立っている森田定年2佐の前に歩み寄ると決意を固めた顔で口を開いた。森田定年2佐も覚悟は決めていたが、それが現実になると衝撃は大きかった。
「アイツは独身なのか」「奥さんも市役所の職員よ」「それじゃあどうするつもりなんだ」「私と離婚するの」秀子は不倫しておきながら離婚するつもりはないらしい。確かに実家は同じ集落内にあり家族も先祖代々のつき合いなので今後の人間関係を考えれば離婚は切り出せない。
「お前、俺の自衛隊時代の資料をあの男に渡したな。時々、所在不明になるから職場で保管するようにしたがやはりお前だったのか」「だってあの人が自衛隊のことを知りたいって言うから・・・」「これで終わりだ」森田定年2佐にとっては秀子が自分個人を裏切ったこと以上に自衛隊を売ったことが許せなかった。そこからは離婚協議に移ることになった。
  1. 2022/01/26(水) 14:42:00|
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