「ストレート、ディス イズ デニム27、コリアンの位置は」「そこからライト030(右30度)、レンジ250(距離250マイル=約402キロ)、ヘディング210(進行方向210度)で南下している」「アルチュード(高度)は」「低高度でピックアップ(探知)できていない」「ラージャ、こちらも300まで高度下げる」緊急発進したデニム27はADIZを突破した韓国軍機に向かったが高度を下げたようでレーダー・スコープは航跡を表示しなくなっていた。西部航空警戒管制団の日本海側のレーダー・サイトは島根県でも鳥取県境港市の対岸の高尾山と山口県萩市沖の見島、対馬の最北端沖の孤島の海栗島の3カ所だが、高尾山の海抜は358メートルで50キロ沖に浮かぶ隠岐島は608メートルあるためレーダー波が遮られてしまう。隣の見島は海抜181メートル、海栗島は29メートルなのでデーターを補完するには不十分だ。昭和51年9月6日のヴィクトル・ベレンコ中尉のミグ25亡命事件では日本側のレーダー・サイトが探知できないコースを低高度で接近して容易にADIZを突破されたが、韓国軍も探知不能の空域を熟知しているようだ。
「キムチはレコーンのミッション(偵察訓練)と言っていたから回避行動を採るのは当然と言う訳だ」WADとデニム27の交信をモニター(聴取)しているシニア・ディレクターは独り言で韓国側の魂胆を評価した。しかし、韓国軍が今回実施しているのは偵察ではなく日本への攻撃経路と対処能力の確認に外ならない。
「ルック・ダウンに優れるニュータ(新田原)のFー15を上げるべきじゃあないかな」するとSOCの幕僚も独り言で話に加わってきた。ルック・ダウンとは低空を飛行する目標をレーダー波の地表や海面での乱反射の中で識別する探知能力で、Fー15は機首に大型の電子器材を搭載できるためFー2よりもレーダーの性能は高い。昼間は築城基地のFー2を緊急発進機にしているのは目視による対処が可能だからだ。
「それではこちらがロストしていることを認めることになります。あくまでもFー2で対処します」「ラージャ、デニム27・・・」シニア・ディレクターが幕僚の独り言に反論するとモニターしていたWADが返事をしてデニム27に呼びかけた。
「ストレート、タリホー ターゲット(目標を視認した)。アチラさんはFー16が2機だ」幸い中部航空方面隊の管轄空域の日本海中央で訓練飛行中だった早期警戒管制機・AWACSからの情報で位置を特定したデニム27は機上レーダーで捕捉したのに続いてパイロットが肉眼で確認したことを通報してきた。航空自衛隊のFー2は三菱重工のFー1の後継機として機体まで完全に国産で開発する計画だったが、日本独自の防衛技術の発展を軍事産業の脅威と考えたアメリカ政府がFー16をベースとすることを高圧的に要求し、日本側もFー1の機体構造上の欠陥が発覚したため老朽化を待たない早期更新が必要になり已む無く応じることなった。したがって外観は韓国空軍の主力戦闘機のFー16と共通しているが、主翼の材質やキャノピー(風防)の構造など多くの点では別の機種だ。
「コリアンは警告には回答しない。進路を妨害してADIZ外に誘導したいが、海自の前例があるから領空侵犯させないように近距離で監視しろ」「ラージャ、海自の後を追うのは御免こうむりたいからな」AWACSとの探知情報の接続が完了し、韓国機がレーダー・スコープ上に表示されるようになるとシニア・ディレクターはSOCに到着した西部航空方面隊司令部の首脳陣に確認した指示を伝達した。この首脳陣には撃墜命令を下す権限も与えられているが、今回は慎重に対応することを決めたらしい。
「このヘディングではセクター(航空方面隊管轄区域)のバンダリー(境界線)を超えてしまいます」「そろそろ中空にスクランブルを要請しなければなりません」「総隊は中空に発進準備を指示したようです」SOCでは司令官と防衛部長がシニア・ディレクターからの状況説明を受けて次の対応を話し合っていた。
「ニュー・シンボル、ピックアップ(新たな航跡を探知した)。速度から見てタンカー(空中給油機)の模様」つまり韓国側は帰路の燃料が不足するまでFー16を侵入させるつもりなのだ。
「奇襲攻撃なら兎も角、白昼堂々と軍用機に領空侵犯されては軍人の恥辱も極まりないな」「これが敵性の相手であれば腹の括り様もあるんですが、政府が和解を放棄しない以上、現場が独断で武力行使することは許されません」首脳陣の会話は嘆きになった。韓国は対潜哨戒機の機体を引き揚げて韓国海軍のコルベットが一方的に銃撃して撃墜した証拠を公表しても日本の偽造と言う詭弁に等しい反論を続け、海外では中国資本が買収した大手マスコミを使って事実化を進めている。外交的和解を標榜している石田政権も日本のマスコミが海外の報道の紹介の形で自衛隊の責任を追及するようになると完全に腰が引けてしまっていた。
- 2022/02/04(金) 15:33:20|
- 夜の連続小説9
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0