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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ40

「バババ・・・」兵庫県から山口県にかけての日本海側の漁港では暗夜に強烈な照明で魚や烏賊を引き寄せる漁火(いさりび)漁法が盛んに行われている。今夜も多くの漁船が隠岐島の北の海域に出漁しているが174キロ沖の竹島には近づけない。韓国が独島と呼んでいるこの島に常駐している武装警備隊は12海里内に進入する日本船には実弾で威嚇射撃してくるのだ。そんな新月で漆黒の闇になっている海上で竹島から時ならぬ銃声が響いてきた。
「銃声が聞こえたが誰か射たれたのか」漁師は近くで漁をしている仲間の漁船に漁業無線で呼びかけた。韓国の武装警備隊は慶尚北道警察庁に所属しているが、徴兵で陸軍に入営して狙撃などの技量が優れた者を選抜して出向の形で警察官にしているため、夜間に気づかずに接近すると漁船の照明を目標に銃撃してくることがある。
「異常なし、俺は竹島には近づいていないぞ」「こっちも大丈夫だ。建物の窓がチカチカと光ったのが見えた」漁師たちの情報が集まってくると銃声は警備隊の建物内で発射されたらしい。そこで最も出力が大きい無線機を積んでいる漁船の漁師が漁協に連絡することにした。
「雲海(くもみ)漁協、雲海漁協、こちら第2大国丸、こちら第2大国丸、聞こえますか」「こちら雲海漁協の稲葉だ。お前さんたちの交信を聞いていたよ。しかし、日本の警察に連絡しても何もできないから海保(海上保安庁)に通報しておくよ」「そうしてくれ・・・」第2代大国丸が返事をした時、暗い海面に強い閃光が連続し、数秒の間を置いて先ほどよりも重い砲声が聞こえてきた。第2大国丸は無線のスイッチを握ったままだった。
「ドドド・・・」「何だこの音は・・・第2大国丸どうした。大国丸応答しろ。返事をしろ」雲海漁協の宿直は戦争映画で聞いた覚えがある銃撃音を耳にして第2大国丸に呼びかけたが返事はない。傍受しているはずの他の漁船も応答しなくなった。
「何だこれは・・・」翌朝、ヘリコプターで竹島に降り立った交代要員の武装警察官はスマート・ホンで動画を撮影しながら打ち合わせ通りの演技を始めた。始めに出迎えがいないことに困惑する声を呟き、通路を歩きながら階段に付着している血痕を撮影した。そして警備隊の待機所兼宿舎に近づくとドアには無数の弾痕が残り、窓ガラスは砕け散っていた。
「おびただしい血の量だ。壁の弾痕から見て小銃を乱射したようだな」交代要員がドアを開けると待機所は無人で、転がっている椅子と事務机、床には一面に飛び散った血が広がっている。コンクリート剥き出しの壁には至近距離から連続発射した小銃弾で抉られた丸い穴が広がり、すべての窓ガラスは割れて枠に破片が残っているだけだ。壁際に置いてあるテレビの画面と無線機にも銃弾が撃ち込まれていた。
「遺骸をどこに運んだんだろう」「海に投げ込んだんじゃあないのか」待機室の奥の仮眠室のベッドの毛布と枕も血で真っ赤に染まっている。床には遺骸を引き摺ったらしい赤い線がドアに向かって伸びている。それを撮影しながら後から来た交代要員と会話した。
「これは日軍(自衛隊)の特殊部隊の仕業だな。この絶海の孤島に潜入して精鋭揃いの我々を応戦させずに全滅させられるのは日軍以外に有り得ない」「確かに暗夜に音もなく海上を移動する能力は日軍以外に持っていない。とうとう独島の侵略に踏み切ったと言うことだ」最後に桟橋から海面を映しながら2人で結論を解説した。
「何だその格好は」同じ頃、日本海に面する韓国海軍の軍港で1隻の高速艇が接岸していた。桟橋では基地司令と慶尚北道警察庁の長官が出迎えたが、高速艇から下船してきた黒の警備服姿の警察官の中の3人は下着に毛布を羽織っていた。
「彼らを収容した後に日本の漁船を3隻発見しましたから砲撃して、殺害した漁師の遺骸に3人の戦闘服を着させて独島近くで海面に投げ込んでおきました」最後に下船した艇長が事情を説明すると基地司令と長官は顔を見合わせた。
「それをウチの艦艇が発見すれば動かぬ証拠になると言う訳だな」「はい、施設内は指示取りに小銃を乱射して夕食運搬のヘリで届いた医療用血液を撒き散らしておきましたが、遺骸があれば完璧でしょう」艇長に続いて昨夜の武装警備隊の長らしい警察官が補足説明すると基地司令と長官は満足そうにうなずいた。
「間もなく朝のニュースで『日軍が独島を攻撃して警備隊を全滅させた』と言う第一報が流れるはずだ。それを受けて高速艇が出動するから昼前には政府の公式発表が行われるだろう」「問題は日本の漁師たちがウチの兵士にしては高齢だったことで、遺骸の撮影ではアングルに注意させて下さい」高速艇はレーダーで探知した3隻の漁船に高速度で接近しながら機関砲で破壊し、沈没する前に接舷して射殺した漁師の遺骸を回収した。そこで若い下っ端の警察官に脱がせた警備服を着せたのだが階級章と年齢が合致しなかったらしい。
  1. 2022/02/20(日) 14:54:53|
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