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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ46

「モリヤくん、仮に日韓が開戦に立ち至った時、アメリカはどう動くと思うかね。個人的見解で良いから聞かせてくれたまえ」結局、陸海空の出席者の議論は韓国軍の軍事行動が過激の度を増し、海外で日本を批判する世論が完成しつつあるのに合わせて日本国内のマスコミも自衛隊を加害者とする報道を公然化している現状に日本政府=石田政権の和解に向けた努力も限界に近づき、「開戦は不可避」と言う結論に達した。そこで本部長が出席者とは言わずおそらく現在の陸上自衛隊では最もアマリカ軍を熟知するモリヤ将補に見解の披瀝を求めた。
「日米安保条約と米韓共同防衛条約ではアメリカ軍の位置づけが全く違います」本来は簡易講堂の会議室では机を壁に沿って「コ」の字型に並べてあり、奥の上座の辺には陸上自衛隊教育訓練研究本部の本部長と空海の幹部学校長が座り、向かって左側に陸将補の副本部長と各部長に1佐が先任順に並び、右側には海空で分けて1佐が座っている。紅一点のモリヤ将補は出席者全員の注目を浴びながら口を開いた。
「在日アメリカ軍と自衛隊は対等な軍事組織として双方の国家に対する侵略行為に対処する責任を負っていますが、韓国軍は戦時には在韓アメリカ軍の指揮下に入らなければなりません。つまり韓国軍単独での開戦は有り得ないのです」モリヤ将補の説明に出席者たちは一様にうなずいた。日米安全保障条約は加倍政権が制定した安保関連法でアメリカ本土に攻撃が加えられた時に自衛隊を派遣する任務を加えたことで完全な相互防衛条約になった。一方、米韓相互防衛条約は東西冷戦が終結した1993年に韓国軍の平時の指揮権は韓国政府に移管されたが、2015年に予定されていた戦時の移管=独立は韓国の左傾政権が北朝鮮と中国に擦り寄り、自由主義陣営の防衛戦と言う立場を放棄しようとしているとの危機感から延期になっている。
「したがって現在の戦闘行為を含めて韓国軍が自衛隊に加えている攻撃は平時の自衛措置の枠を超えることはできず、我が国に侵攻してくるとすれば以前から領有を主張している対馬の奪還が限界でしょう」「中国の台湾と同様の論理だな」「琉球も中国皇帝の臣下だって言ってるぞ」席が離れているため隣りとの会話の声量が大きくなり、モリヤ将補の発言を中断させることになってしまい当事者2人は軽く頭を下げた。
「若し韓国がこの一線を超えるとすればアメリカとの軍事同盟を破棄して中国の属国となることを選択したと見るべきでしょう。そうなるとアメリカ軍は中国との直接対決を覚悟しなければなりません」モリヤ将補の見解が厳しくなり、出席者は口を「へ」の字に曲げた。確かにアメリカは2022年2月のロシア軍のウクライナ侵攻でも核保有国同士の直接対決を恐れて隣接するNATO加盟国に駐留するアメリカ軍を増派しただけで軍事行動には踏み切らなかった。逆に独裁者の一存で国民を犠牲にできるロシアや中国は最高権力者の大統領でさえ人気投票で選定されるアメリカの弱点を的確に突いているのだ。
「おそらくアメリカは武器弾薬や燃料、食料は提供しても在日アメリカ軍はグアムまで後退させて事態を静観するのではないでしょうか」「中韓と27万人弱で戦うのか・・・」この人数は陸海空の実際に所属している隊員と即応予備自衛官、予備自衛官を加えた数字だ。モリヤ将補の夫は現職時代、陸上自衛隊が普通科=歩兵、特科=砲兵、機甲科=戦車、施設科=工兵を基幹とする正規軍の編制を取り、明治の陸軍創設期にヨーロッパに留学した後の将帥たちが学んで持ち返った陣地の占領、地域の制圧を目的とする戦術を踏襲していることを否定し、散発・継続的に一撃離脱するゲリラ戦術を研究して自分の中隊に訓練させていた。モリヤ将補も幹部候補生学校長として学生隊の教官や候補生たちにゲリラ戦術を課題として研究させていたが、こちらの指揮幕僚課程では元特科連隊長の担当部長の頑強な抵抗に遭って採用されなかった。モリヤ将補も課程教育の戦術研究で特科戦闘を否定されては立つ瀬がない立場は理解できたので引き下がった。特科からの入校学生もいるから常識的な判断だろう。
「もう1つ私が個人的に懸念しているのは2022年のウクライナ侵攻の時、ロシアはアメリカやEUの経済制裁に全く怯みませんでしたが、それは背後で中国が全面的に支援していたからでしょう。そこで借りを作っていれば今度は返さなければなりません。そうなると・・・」「3正面作戦か。もう終わりだ」ここまでくると流石に出席者の中から悲痛な呟きが聞えてきた。
「ロシアが佐渡島に上陸すれば4正面作戦です。中国も小笠原に手を伸ばしていますが、こちらはアメリカ軍がグアムへの脅威として阻止するでしょう。そうしてもらわないとインド洋と南シナ海を通過するタンカーが中国に拿捕されて燃料が入ってこなくなった時、アメリカからの支援のルートまで封鎖されてしまいます」「・・・」もう誰も声を発しなかった。モリヤ将補にとっては夫がパジャマ・ミーティングで熱弁を奮っていた「日本有事」のシナリオの朗読だが、陸海空自衛隊の高級幹部たちもここまで最悪の事態は考えていなかったようだ。
ま・モリヤ佳織イメージ画像
  1. 2022/02/26(土) 14:22:00|
  2. 夜の連続小説9
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