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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ51

「レスキューに救助を指令します」「ラージャ、那覇レスキューを出動させろ」先任指令官=シニア・ディレクターはクラウン31の報告を受けて航空方面隊指揮所=SOCに那覇救難隊を出動させる許可を求めた。航空救難隊は1989年から保安管制群や気象群、輸送航空隊と同じ航空支援集団に所属していたが、2013年の安保関連法の改定で航空総隊直轄に移管された。そのため以前は航空総隊隷下の戦闘機部隊とは指揮系統が異なり、戦闘機が消息を絶ち、墜落事故が発生した時の出動も要請と言う形を取らなければならなかった。確かに救難活動として中国空軍の当事者を連行できれば今後の展開によっては極めて有力な存在になるから戦闘行動に準ずる任務と考えるべきかも知れない。
「クラウン31、状況を説明しろ」「アルプス、リクエスト・シチュエーション・レポート」那覇救難隊への出動の指令を終えるとSOCの防衛幕僚がクラウン31に声をかけ、シニア・ディレクターが捕捉した。アルプスは編隊長の山野1尉のタック・ネームで、長野県出身のため最初に配属された飛行隊で苗字に引っ掛けてアルプスと命名された。
「サンセット、こちらアルプス。アンノウンはエレメント(2機編隊)を解除して1機ずつ旋回したんだが、先行していた1機が突然にベイルアウト(緊急脱出)して後続機がブロー(発砲)して撃墜したんだ」アルプスの困惑した口調は自分でも状況が理解できていないことが伝わってくる。防空指令所は防空識別圏=ADIZに沿って南下していた殲ー20=Jー20の2機編隊が突然、旋回してADIZを突破したため対領空侵犯措置を発令した。すると間もなくクラウン31が異常事態として「ベイルアウト」を報告してきたのだから訳が判らないことに大差はない。それに友軍相撃が加われば困惑は疑惑に変わった。
「SOCだ。ベイルアウトした時、何か問題が発生していたのか」「いいえ、安定した姿勢を維持していましたから呆気に取られました」「パラシュートは開いたのか」「はい、先ほど低空から確認しましたが、無事に着水してボートで浮いたようです」この説明をするアルプスの声は怒りを帯びていた。同じようにベイルアウトしながら落下傘で降下中に韓国軍機に射殺されたジージョを思い出したようだ。バルカン砲で射たれたジージョの遺骸は幾つにも千切れていてメディック(救難員)がヘリコプターから飛び降りて、海面を泳いで収容した。
「救命ボートで海面に浮いていればU125捜索機が発見できる可能性は高い。那覇基地に収容すれば事情聴取もできる」「ラージャ」防衛幕僚の返事にアルプスは相槌を打ったが、シニア・ディレクターは別のことを考えた。このまま戦端が開けば真珠湾作戦で乗っていた特殊潜航艇・甲標的の座礁で捕虜第1号になった酒巻和男少尉の再演ではないか。すると識別担当の空曹の声が暗い防空指揮所に響いた。
「アンノウン、ピックアップ、ポイントXXX、YYY(レーダー画面上の縦横の線の番号)」「チャイナのレスキューだろう。この位置では先を越されるな」Uー125はビーチクラフト社のビジネス・ジェット機の改造なので速度は早いが救難ヘリコプターのUHー60はかなり遅れる。その点、中国軍は真横の基地から発進しているのでこちらが不利だ。
「降下地点はADIZのイーストですからアラートをかけて阻止する手もありますが」「スタンバイ」シニア・ディレクターは防衛幕僚に意見を求めたが珍しく即答はしなかった。その一方で中国軍の体質を考えれば救助に向かう航空自衛隊の救難機を撃墜し、自軍のパイロットを殺害するくらいのことは平然とやって退けるはずだ。
「レスキューはあくまでもレスキューだ。先に到着した方が救助するべきだろう。我々はチャイナやコリアではない。しかし、救難飛行として通知していない以上、ADIZにヒットした時点で通常の国籍不明機として対処しろ」「ラージャ」ここまでで後事をシニア・ディレクターに託した防衛幕僚は航空方面隊司令部でモニターしている防衛部長に連絡した。
「どうやら自作自演のようです」「今度は中国か。拙いな」防衛部長は報告を受けて即答した。韓国が繰り返してきた状況の変質手法を用いれば今回の事態は航空自衛隊側が発砲して撃墜したことにできる。墜落・水没した機体を引き揚げれば弾痕が残っているので完璧だ。さらに殲ー20は中国が独自に開発したステルス機なので航空自衛隊も国産の高性能レーダーの探知能力を暴露することを避けて情報の公開を避けるところまで織り込み済みかも知れない。
「日本政府の公式発表を待っていれば中国系マスコミの世論操作で国際社会で虚偽が事実化されてしまう。防衛大臣も総理には逆らえないだろうからな・・・」「司令官から幕長に緊急記者会見を開いて事実を発表するように意見具申させていだけませんか」実は3佐で兵器管制幹部の防衛幕僚の提言は防衛部長も考えていた。防衛部長は副官に電話をかけると席を立って司令官室に向かった。歩きながらこれが一種のクーデターであることを考えていた。
  1. 2022/03/03(木) 16:41:29|
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