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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ52

「本日、14時25分頃、東シナ海上の我が国の防空識別圏を突破した中国空軍のJー20戦闘機の搭乗員が突如、射出座席で脱出し、後続していた僚機が機関砲で撃墜する事案が発生しました」南西航空方面司令官の意見具申を受けて航空幕僚長が緊急記者会見を開き、今回の事案を公表した。防衛大臣は閣議に引き続き国会があるので夕方まで不在だ。緊急なので通知したのは防衛省記者クラブと外国人特派員協会だけで、集合よりも時間を優先して開始した。
「どう言うことだ・・・」思い掛けない話題に日本人の記者たちが困惑しながら編集部にスマート・ホンをかけ始めたので幕僚長はしばらく待つことになった。そうして記者たちの過半数が顔を上げたところで幕僚長が指示すると壇上の大型テレビの画面が高空の青一面になった。毎度のことながら記者たちはスマート・ホンを突き出して撮影している。
「これは南西航空方面隊第9航空団所属のFー15から撮影した動画です。編集していないので変化がない映像が続きますがご容赦下さい」航空自衛隊は今回、海上自衛隊の対潜哨戒機が撃墜された時、海底で機体を発見した動画の遺骸が映っている部分を編集したことで「偽造」の疑惑を喧伝された轍は踏まないらしい。
「この時点では約3000フィート、約900メートルの距離を取っていましたから機影が小さいですが、防空識別圏に沿って南下しているJー20の2機編隊です」「何故もっと接近しなかったんですか」「まだ対領空侵犯措置の対象ではなかったからです」女性記者の質問を雑音と思ったらしい男性記者が1人舌打ちをしたが、多くの記者は納得したようにうなずいた。本当はかつてのスウェーデン空軍の戦闘機・サーブ・ビゲン37を模倣したような殲―20のデルタ翼で前部にスタビライザー=昇降舵を付けた特徴的な形状を確認させたいのだが、それは用意した写真の拡大コピーで間に合わせた。兎に角、編集は避けなければならない。
「ここでJー20が唐突に編隊を解いて1機ずつ左旋回します。それから8秒後に防空識別圏を突破したので対領空侵犯措置の対象になり、距離を詰めて監視を強化します」元来は戦闘機パイロットの幕僚長は画面の隅に表示されている再生時間を見ながら解説しているようで撮影している記者たちも心の準備ができている。実際、画面のJー20は左から1機ずつ機体を90度横転させて上昇する操縦方法で左旋回し、体勢を戻したところで映像が大きくなった。つまり距離を詰めたのだ。それにしても記者たちは片手で動画の撮影を続けながら旋回した目標機を追尾している航空自衛隊のパイロットの操縦技量には感心するべきだ。
「ここから対領空侵犯措置の対象になったのでFー15は2機で後方約450メートルの距離で監視に当たりました。ところが3秒後です・・・今、ベイルアウト、緊急脱出しました」解説通りに前方を飛んでいる殲ー20の操縦席から白い煙が線を引いて上がり、パイロットが上を向いたのか動画は一瞬だけ殲ー20から外れた。
「さらに2秒後に発砲します。小さく閃光が見えます。今です」「もう一度、発砲の場面を見せてもらえませんか」遠慮を知らない女性記者の申し入れに幕僚長は動画を一時停止させて半ば呆れたような顔を向けた。
「この動画は南西航空方面隊から届いたまま編集していないので見にくいかも知れませんね。後方450メートルからの撮影なので銃口は反対側を向いています。むしろこれから前方の無人になったJー20が火を吹いて墜落していくことで銃撃を受けたと確認できるでしょう。再生」幕僚長の指示で担当者が器材を操作すると画面で大小になっている2機の殲ー20の小さい方(=前を飛んでいる)の1機が火を噴き、進路を乱して降下を始め、やがて視界から消えた。
「ここでパイロットは飛散した部品、破片をエンジンが吸引して破損するフォーリング・オブジェクト・ダメージ=FODを避けるために急上昇しましたから映像からJー20が消えます。この映像は機内で撮影しているため通信の音声は入っていませんが、もう1機のFー15が急旋回して離脱を図ったJー20を追尾しました。なお動画は高度を下げて脱出したパイロットの様子を確認しています」解説通りに映像はパラシュートで降下していくパイロットを捉え、周囲を旋回しながら着水して膨らんだゴムボートまで撮影していた。
「なお、航空自衛隊側に被害はなく、パイロットは那覇基地に帰投して現在は南西航空方面隊司令部で事情聴取を受けています。以上です。質問があればどうぞ」今回は司会を置いていないので幕僚長が自ら会見を進行する。しかし、日本人の記者は編集部からのメールを待っていてスマート・ホンの画面を見ているだけだ。そこでヨーロッパ人の記者が手を上げた。
「JASDF(航空自衛隊)は脱出したパイロットを韓国軍に殺害されましたが今回その仇を討とうとは思わなかったのですか。やはり韓国と中国は別ですか」「戦闘力を失った人間を殺害するのは我がJASDFの美学に反します」この会見は国際社会を駆け巡った。
  1. 2022/03/04(金) 14:58:04|
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