航空幕僚長が東京で開いた緊急記者会見はアメリカのニューヨークでは深夜になったが、その分、翌朝のニュースでは専門家の分析を加えて大きく取り上げられた。中でも編集を全く加えず実際の時間を使って公開した動画は真実であることを証明していて欧米のマスコミも高く評価していた。しかも中国側は想定外の事態に外交部の定期記者会見では取り上げず、外国人記者に質問されても「単なる事故」とはぐらかし、追及されると「調査中」と逃げを打っていた。惜しむらくは脱出したパイロットを中国軍の救難飛行艇に連れ帰られて「証人=捕虜」にし損なったことだが、これも航空幕僚長の「JASDAFの美学」と言う名台詞を引用して「人道主義を優先した」と肯定的に解説されていた。
「中国は空幕長の先制攻撃に完敗したみたいね」「真珠湾以上の大戦果と言うところだな」「トラ・トラ・トラ、ワレ奇襲ニ成功セリ」その日の国連本部での調査を終えて事務所に帰ってきた本間と杉本夫婦の快哉を込めた対話に唯一の航空自衛官の松本が同調した。本間は台湾のフリー・ジャナリストとしてアメリカ国務省を通じて国連本部の個人資格の立ち入り許可証を取得している。今回も安全保障理事会の議場の周囲にたむろする中国人の記者たちの会話を聴取してきたが、落胆と困惑にまぎれて感服や敬意を表していたらしい。
「結局、中国は今回の空軍機の墜落を航空自衛隊のアラート(対領空侵犯措置)機が撃墜したことにして戦争犯罪国の常任理事国に対する敵対行為の懲罰動議を提案するつもりだったんだろう」この杉本の解説は日韓の対立が激化するのと同時進行でアメリカ国内の半島系移民と中国人華僑が反日運動を活発化させている事態が国際連合に波及することを予測した松山1佐が自ら調査に入って確認した情報だが、新人のリンゾーとジューゾーの認識を追いつかせるためには必要な復習だ。国際連合本部では韓国の潘基文が前任者だったため退任時に残置した職員が影響力を維持していて、現在の日韓の対立も韓国側の一方的な主張を事実として議論が進められている。それを常任理事国である中国が強力に後押ししているので加倍政権のような確固たる指導力が欠落していては日本の外務省も反論の実績を確保できていない。
「それでも中国は目的を達するまで手と時を換えて繰り返すから遠からず日本の懲罰動議は提出されるな」「こっちが忘れた頃に考えもしなかった方法で一撃を加えてきて、結果は向うの思う壺なのよね」「今のところ直接対峙している海空が狙われているから次は海上が危ないのかな」「陸も海外派遣の現場でチョッカイをかけられる可能性があるぞ。災害派遣でも油断すれば危ないな」中国には選挙制度がないため政治指導者は世論や支持率を気にする必要がなく、マスコミも共産党の統制下に置いているので実績は思うように脚色できる。だから西側の政権が次の選挙を期限として実績の獲得に躍起になっているのを嘲笑するかのように国際ルールを無視した手段で長期間にわたる策謀を巡らせて相手が関心を失った頃に目的を達成している。まさに中国の大河・揚子江=長江の滔々たる悠久の流れなのだ。
「それでアメリカが拒否権を行使しようとすれば10万人のデモ隊がホワイトハウスを包囲して全米各地で暴動が起こると言う手筈だ」「それだけじゃあないわ」松本の補足を防衛駐在官の交代で国連本部に関わっていられなくなった松山1佐と交代するまでアメリカ国内の中国系と半島系市民団体の動向を調査していた本間が割って入った。
「中国はアメリカ国内のネットワーク企業の機能を停止して情報網を崩壊させると脅迫しているのよ」「それでトランプ政権が指摘していた中国に依存したネットワークの崩壊危機が現実になるんだな」ここで松山1佐が参加すると岡倉にリンゾーとジューゾーも一緒に顔を凍りつかせてうなずいた。しかし、リンゾーとジューゾーがいた頃の日本では新型コロナ・ウィルスの状況把握とワクチン接種の情報連絡が遅れている原因を「文書に頼っている時代遅れな行政の業務処理」と言論人が批判し、大手マスコミが政権批判の材料にしたため政府が主体になって「デジタル化」と呼ぶ電子情報化を推進し始めていた。とは言えアメリカは中国企業の参入を排除しても国内企業でネットワーク社会を維持する基盤を確保できているが、日本は完全に支配されているのでこの判断は軽率の誹りを免れることはできない。つまり中国が日本に第1撃を加えるとすれば人民解放軍に徴兵したコンピューター技術者たちが器材を操作して国家規模のシステム障害を与えてネットワークを崩壊させれば1発の銃弾も放つことなく、一滴の血も流さないで国家を崩壊させすることができるのだ。現在の日本社会の消費生活では現金を使わずカードでの支払いになっている。新聞でさえインターネットで購読する時代だ。
そんな日本政府内でデジタル化を推進しているのは日教組を腹中に飼っていた旧文部省と並ぶ亡国省庁の旧運輸省と旧自治省が巣喰う総務省だ。公務員労組も毛沢東主義で洗脳されてきたのでこれも中国的長期戦術の戦果なのかも知れない。
- 2022/03/06(日) 16:37:58|
- 夜の連続小説9
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