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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ56

「クーデターとまで言われてしまっては空幕長(航空幕僚長)を交代させるしかないな」立野官房長官が定期記者会見を終えて執務室に戻ると石田首相に呼び出された。どうやら国営放送の会見中継を見ていたようで執拗にシビリアン・コントロールへの不安を追及する大手新聞の記者が衆議院予算委員会で立権民衆党の議員が口にした「クーデター」と言う例えを引用して「自衛隊がクーデターを起こす可能性」を追求したのに毎度の過剰反応をしているようだ。
「あんな戯言(ざれごと)を真に受けていては政権を維持できませんよ。何よりも今は韓国の軍事挑発に乗らず屈せずの適切な対応を取らなければならない時期ですから航空自衛隊のトップを1議員の発言を理由に交代させることは適切ではありません」立野官房長官は政権交代前の報道バラエティー番組で自民党議員を派手に論破する活躍を演じながら実務能力が欠落していることが明らかになって大いに失望させた民政党の議員たちと同じく松下政経塾出身だが、政治信条としては対極の加倍派に所属し、選挙区は陸海空自衛隊の基地(陸も滑走路がある)が所在する千葉県木更津市なので自衛隊を支持基盤にしている。ただし、専門は文部科学大臣を経験しているように文教政策で、安全保障問題については現実主義を標榜しながらも石田首相と同じく「非核三原則の堅持」を公言している。
「本当は浜(防衛大臣)も一緒に整理したいところだが党内の最大派閥を敵に回すことはできないからな。せめてものトカゲの尻尾として空幕長を切ればマスコミも大人しくなるだろう」「総理は現在の周辺事態をどのようにお考えなんですか。私は空幕長の解任には賛同できません」「誰も解任するとは言っていない。『自発的に辞表を提出するように指導しろ』と浜に伝えろと言うことだ」それでも石田首相は「命令」とは言わない。内心では加倍政権の盤石の支持率を急落させた学校新設問題で流行語になった「忖度(そんたく)」を期待しているではないか。石田首相としては加安倍派から圧しつけられた官房長官の忠誠心を計るつもりなのかも知れないが、立野官房長官は学校新設問題をマスコミが報じ始めた時の文部科学大臣であり、加倍政権が進める学校教育から敗戦直後の反戦亡国の汚濁を一掃する文教政策に反発する文部科学省の官僚が内部情報を漏洩し、それに証拠捏造で失態を演じた大阪地方検察庁特捜部が飛びつき、大手マスコミが無理に巻き起こした水面に滴を落とした波紋を手で掻き混ぜたような実体のない問題であることは誰よりも知っているので今更忖度する気になるはずがない。
「今回の中国軍機の友軍相撃も真の狙いは韓国軍が繰り返している自作自演の敵対行動の模倣なのは容易に想像がつくじゃあないですか。これまでも我々の公式発表が韓国よりも遅れたことでアチラの捏造を事実化されてきた。だから空幕長が先手を打った。それも事実だけを淡々と語って中国の意図への推察は加えなかった。表彰したいくらいの殊勲ですよ」「・・・君はそれをマスコミに言えるのかね。選挙区の支持者に言えるのかな。そんなことをすれば広島なら次の選挙の小選挙区では落選、比例代表並立制で復活当選することになるが、内閣総理大臣の自民党総裁が比例代表の保険をかける訳にはいかないから俺は失職する。そんなことができるか」立野官房長官の見解に石田首相は吐き捨てるように反論した。
「俺の選挙区では防衛問題は支持を獲得する材料にはならないんだ。それでなくても地元のマスコミが『石田は戦争の準備を始めている』って扇動するから事務所には『戦争反対』と言う有権者の電話が殺到している。ヒロシマでは『反戦平和』『核廃絶』でなければ政治家として生きていけないんだ。実際、昭和58年の衆議院選挙では谷川防衛庁長官が在任中に落選している。俺は管(くだ)さんが地元の横浜市長選挙で大敗したのを目の当たりにして自分が衆議院選挙で落選して失職する初めての総理になるのを懼れて退陣したのを踏襲しないぞ」立野官房長官も政治家であり、悪夢の政権交代が起きた衆議院選挙では小選挙区で落選し、比例代表並立制度で救われた経験があるので、石田首相の危惧は現実として理解できる。その一方で2022年のロシアのウクライナ侵攻でプーチン大統領が核兵器の使用をチラつかせて西側を恫喝した時、加倍元首相が在日アメリカ軍に核兵器を日本国内に配備させて核兵器の脅威には使用を要請する「共同運用」を提言したのに対して「広島出身の首相として認めることはできない」と否定したのには私的事情を政治判断に持ち込む公私混同であり、ヒロシマの反核運動に迎合するあまり核の脅威に対抗する手段が他にないことを理解しない態度に側近とは言え総理大臣としての資質に疑問を感じた。実際、広島の反核団体が批判しているのは2度使用した過去があるアメリカの核兵器であってロシアや中国の核兵器はアメリカに使わせないための抑止力として容認しているのだ。
「いっそのこと防衛出動と治安出動の待機命令の同時発令を検討していると言ってやりたいところですが石田政権には無理ですね」水面下では戦争の可能性が高まっている現実を石田首相以上に直視している立野官房長官にとってこれは皮肉でも冗談でもなかった。
  1. 2022/03/08(火) 15:33:44|
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