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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ68

海上保安庁は警察と同様に「法令=正義を守る」と言う確固たる使命感を負っているため時として自衛隊以上に犠牲的精神を発揮する。中国の海警の一方的な砲撃によって2隻の巡視船が撃沈されて60名以上の乗組員が殉職しても翌日には2隻の巡視船を現場海域に派遣した。それからは2隻の船団で現場海域に到着すると配置に分かれる前に甲板に乗組員が整列する登舷礼で花束を投げて殉職者を慰霊することが習慣になっているがそれも一巡した。
「何を始めたんだ」現場に到着すると尖閣諸島では最大の魚釣島に数隻の大型漁船が接岸して資材を陸揚げしていた。立ちはだかるように主砲をこちらに向けた海警の警備船が低速度=微速で航行している。これも海軍の巡洋艦の転用船だ。
「日本国海上保安庁に通告する。現在、我が中華人民共和国固有の領土である釣魚群島(中国の尖閣諸島の呼称)の周辺海域の安全を確保するため照明式灯台と電波発信機を設置し、勤務員の待機所兼宿泊施設を建設している。当海域に接近すれば実力を以って排除する」今回も海警の警備船は大音響のスピーカーと国際海洋無線の周波数で日本語の通告を与えてきた。前回の事件では中国側の「巡視船が漁船に銃撃を加えたため緊急避難として応戦した」と言う一方的な説明にアメリカ海軍の対潜哨戒機からの情報を入手した石田政権も反論したが、国土交通省が独自の調査を進めないためマスコミが疑問を指摘し始めて、結局は一連の自衛隊と韓国軍の衝突と同様に「加倍政権下の強行外交の弊害」とする世論が形成されている。それを受けて中国は一歩一歩だった尖閣諸島の奪取を三段跳びに変更したようだ。
「これは外交問題だから上級者の判断を仰がなければならんな。本部に今の通告内容を転送しろ」今日は警備船を担当することになっている大型巡視船・こみでは船長が通信士に指示した。この「実力を以って排除する」が前回と同様の砲撃を意味する可能性は高い。あの事件の後の閣議では防衛大臣が国土交通大臣に海上における警備行動の発令を前提にした対潜哨戒機による同行警護と反撃準備を提案したのだが、検討を指示された官僚は軍との一体化を禁ずる海上保安庁法第25条を根拠に即座に否定した。
「中国による尖閣諸島の領有化は断固阻止しなければならない」この連絡を受けた石田政権では珍しく即座に方針が決まった。現在、自民党内では石田首相が韓国の新政権をマスコミが報じる保守派と誤解して対話による解決に執着して、結果的に日本を窮地に引き込んでいることに対する批判が湧き上がっていて政権基盤に震度7級の揺れが続いている。それでも国家安全保障会議を招集せずに外務大臣と国家公安委員長だけで対応を協議するところは石田政権だ。
「そうなると沖縄県警の国境離島警備隊を派遣して制圧しなければなりません」先ず国家公安委員長が具体的対応策を述べた。沖縄県警の国境離島警備隊は2020年4月1日に創設された警視庁のSATに相当する機動戦闘部隊だ。
「やはり迅速な対応が重要です。沖縄県の担当者を交渉に派遣して護衛として沖縄県警の警察官を同行させる。交渉が決裂すれば逮捕を前提に対応するべきでしょう。国境離島警備隊では前回の海上保安庁に続いて武力行使を目的に派遣したと言われかねません」外務大臣は元日中議員連盟の会長だけにあくまでも平和的解決を模索しているようだ。
「国境離島警備隊の派遣にはどのくらいの時間が必要なんだ」「派遣規模によりますが1個小隊程度であれば編成を取って那覇空港に移動すれば沖縄県警の大型ヘリで出動できます」「普通の警察官では危険だな。国境離島警備隊を軽武装で派遣しよう」石田首相の確認に国家公安委員長も渋い顔でうなずいた。問題は沖縄県、特に自治労が担当者を尖閣諸島に派遣することに応じるかと沖縄県警の機動隊に実際は人民解放軍の将兵が変装している漁民を逮捕するだけの能力があるかだが、そこは沖縄空手に期待したい(本土の警察は柔道と剣道の経験者が多いが沖縄県警は沖縄空手の方が多数派だ=警察官の体型が筋肉質)。
「上原さん、県警ヘリで尖閣へ行って下さい」「ニュースで言っている尖閣に中国の漁民が上陸した件ですね」政府の方針が決まれば立野官房長官と配下が手配する。石田政権もデジタル化を推進しているがこのような重大案件では電話で声を聞きながらの依頼になる。官房長官から電話を受けた沖縄県の副知事は執務室の壁に貼ってある幹部職員一覧表の顔写真を見ながら人選した。地方自治体である沖縄県には外交を担当する部署はない。日本のマスコミは訪米した沖縄県知事や派遣された県庁の職員が国務省や国防総省の担当者に在日アメリカ軍の問題を交渉しているかのように報道するが、実際は日本で言う陳情に過ぎない。
結局、副知事は胆力が座った監査委員室の上原に担当外で損な役回りを与えることにした。一歩間違えれば先日の海上保安官たちのように命を落とす危険性もある。日頃は反戦平和を唱えている副知事は部下に死地に赴く命令を下して軍人の気分を噛み締めながら電話を切った。
  1. 2022/03/19(土) 16:47:23|
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