fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ76

「金城同志、ご苦労だったな」事件当日、金城事務官は浦添市の牧港漁港から出漁する漁船に乗って東シナ海を西に向かっていた。漁船には業者として沖縄県内に住んでいる中国人の工作員が同乗していた。金城が職場から姿を消したことで捜索が始まれば、探すのはプロだけに軽い依頼として那覇市内の派出所に手配が回り、経路が一車線の糸満漁港では移動中に発見される可能性がある。そこで交通量が多い那覇市から北上する国道58号線を私有車で移動したのだ。密航する漁船の手配を含む全ての準備はこの工作員が整えた。今頃、金城の私有車もナンバー・プレートを交換して中国系の中古車輸出業者に持ち込まれているはずだ。
「金城(ジンチョン)」久米島を通り過ぎた日中両国の中間海域で待ち合わせていた中国の漁船には職員旅行で知り合って以来、何度も沖縄で逢瀬を重ねてきた中国人女性・陳雅花(チャン・ヤーファ)が待っていた。陳は船上で両手を振り、全身で歓びを表現していた。
「雅花(ヤーファ)」金城は横付けした漁船に飛び移るのを待って抱きついてきた陳を受け止め、求められるままに口づけをした。40歳代の金城には家庭があり、同世代で専業主婦の妻がいる。陳は数年前の公務員労組の旅行で上海へ行った時のガイドだった。今までも北京や洛陽、万里の長城、南京などを旅行したことがあり、上海も2010年の国際博覧会に行っていたが、予定していた香港で民主化運動が激化して急遽変更したのだった。そのため2度目の参加者たちは若いガイドの陳の説明に興味を示さずに好き勝手な行動を取っていたが、警察署の職員である金城の注意には素直に従ったので何度も助けていた。そうして最終日の夕食後に陳は飲酒に誘い、酔ってアパートに送らせて肉体関係を持った。金城が結婚して20年近い妻とは違い、若く美しい陳の肉体に溺れるのにはこの一回で十分だった。その後は年に数度は沖縄に来て肉体関係を持ち、気がつけば沖縄在住の工作員を紹介されて、不倫関係の暴露を臭わせて指図を受けるようになった。今回は以前に要求された催涙ガス弾の画像に酷似した弾頭を手渡されて、それを出動する国境離島警備隊に供与するように命じられた。金城も国境離島警備隊が尖閣諸島に上陸した中国の漁民を逮捕するために出動したことは知っているが、その弾頭が何であり、何を目的に交換させたのかはあずかり知らないことだった。ただ、この逃避行の先には日本を超えた繁栄を続ける中国国内で陳との甘い生活が用意されているはずなのだ。
「そろそろだな」本来は漁網を収める船倉で陳を抱いていると突然、上蓋を開けて船長が声をかけてきた。漁網の上で仰向けになって金城に抱かれていた陳も今までの恍惚の表情が嘘のような冷たい目つきになり、腰を引いて挿入している金城の男根を抜いた。
「愛しのジンチョン、終わらせて上げられなくて悪いけど、ここが指定されている場所だから諦めてね。ここまでは夢を見させて上げたの。それも我が中国共産党が与えた恩恵よ」呆気に取られている金城を押しのけた陳は立ち上がって下着をつけ、脱いであったワンピースを頭からかぶって一瞬にして服装を整えた。それを待つように2人の漁民が下りてきて手際よく金城の両腕と身体を紐で縛り、甲板から斜めにかけた長い板の上を滑らせて引き上げた。見回しても甲板からは陸や船影が視界に入らず全ては海だった。
「愛しのジンチョン、お別れね。我が中国共産党のために働いてくれて謝々你(シェシェ・ニン=どうもありがとう)。御褒美にキスしてあげる」いまだに事態が理解できてない金城に陳は凍りつくような冷たい笑顔で声をかけ、頬を両手で挟んで口づけしてきた。それが終わるのを待って船長が声をかけてきた。顔には皮肉な笑みを浮かべている。
「もう1つ教えて上げよう。君が我が中国共産党のために果たした貢献により、日本国沖縄県警国境離島警備隊は釣魚群島に上陸していた漁民20名を毒ガスによって殺害し、その懲罰として我が海警の警備船・定遠による砲撃で全滅し、同時に海上保安庁の巡視船2隻も撃沈された。これにより我が中華人民共和国は国際連合安全保障理事会に懲罰動議を提出し、日本への軍事行動を常任理事国としての正当な懲罰行為とすることができる。これで君が生まれ育った琉球も中国の支配下に戻るのだ。トゥーファー(祝賀=おめでとう)」この台詞が合図だったようで背後に立っていた漁民が蛮刀で首を斬りつけた。
ブシュッ、シュー。頸部大動脈と一緒に気管支も斬られた金城は噴出音と共に血飛沫を撒き散らしながら倒れ、手足が痙攣を始めた。その時、陳は服が汚れないように距離を取り、漁民が額を蹴って死んだことを確認するのを好奇心一杯で注視していた。
「これだけ血を吹けば遺骸は鮫が処理してくれるでしょう」「先ほど豚の血を撒いておきましたからすでに集っているはずです」漁民2人は金城の遺骸の足と両脇に手をかけて持ち上げながら雑談を交わした。実際、2人が遺骸を海に投げ込むと大型の鮫の背ビレが集り、沈まない金城の遺骸に喰らいついて引き千切った。これで実行犯=証人は存在を消した。
  1. 2022/03/27(日) 16:29:39|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<3月28日・日本人の愚かさの犠牲者・空閑昇少佐が自決した。 | ホーム | やはり今の日本人は駄目だ!成人年齢の引き下げ騒動>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/7553-340dc2c8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)