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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ77

「親父、いよいよ戦争になるみたいだ」事件当日の昼前に勤務中の私のスマート・ホンに淳之介から電話が入った。日本との時差8時間を考えれば淳之介も離島航路の最終便が終わって石垣港に戻り、自家用船で雲島への帰路についている頃だ。それにしても日頃は私の勤務時間は遠慮する淳之介が直接電話してくるのは只事ではない。
「今度は何があった」「沖縄県警の機動隊が毒ガスを使ったって中国が発表したんだ」「エラク唐突だな。事前情報を持っていないから理解できないぞ。経緯を説明しろ」私の返事に淳之介はオランダの住人は日本のニュースを見ていないことに気がついたようで、一呼吸置いた後に少し落とした声で説明を始めた。
「雲島で昼飯を喰っていた時、あかりが午前中のニュースで『尖閣諸島に中国の漁民が上陸した』って言っていたって教えてくれたんだ。それで午後に事務所で見た臨時ニュースだと中国が日本の警察が毒ガスを使って漁民を殺したって発表したんだよ。それで今やってるニュースだと中国共産党のトップが日本を懲罰するって言ったんだってさ」「前は韓国が自作自演の罪を日本に被していたが最近は中国に交代したんだな」「うん、航空自衛隊で失敗してからは海上保安庁が狙われて今度は沖縄県警だ。そう言えば今度も海上保安庁の巡視船が2隻撃沈されたみたいだよ」これで流れは判った。以前から確信している通り、韓国の前政権は北朝鮮と一緒に宗主国である中国に臣従し、その世界制覇戦略に加担することを決定した。その手始めが国際連合の常任理事国と言う立場に利用価値を認めている中国に代わって核兵器と弾道ミサイルの開発と実験を進めている北朝鮮と同様に日本との開戦を正当化する口実を造ることだ。勿論、中国資本が株式を独占したアメリカとヨーロッパのマスコミが全面支援して一方的な印象操作を展開し、在アメリカの移民団体を使って日本の犯罪的軍事行動を糾弾する世論を演出している。当然、アメリカの中央政界にも圧力をかけ、加倍政権のような強固な信頼関係を構築していない石田政権に疑惑の目を向けさせることに成功している。国際連合では事実上の同盟国=一蓮托生の巨悪としてロシアがウクライナ侵攻を擁護した恩返しの共同戦線を張り、安全保障理事会でも非常任理事国の日本を孤立化させているようだ。中国その下準備の熟成具合を見極めて次なる一歩に踏み出したに違いない。
「このままだと沖縄が戦場になりそうだよ。俺はどうしたらいいのかな」淳之介の声が深海に沈んだように重く暗くなった。確かに尖閣諸島は石垣市が管轄しているのだから市内で武力紛争が起きたことになる。ましてや海の男であれば距離感は実際の数字よりもかなり近く、海の彼方から銃声が聞こえてくるくらいの感覚だろう。
「中国軍は海上と航空の輸送力が脆弱だから大量な軍需物資の補給が必要になる離島での戦闘は避けたいはずだ。そうなると前にも言った通りアメリカ軍が駐留している沖縄本島と陸上自衛隊が配備されている宮古島、石垣島、与那国島、航空自衛隊のレーダー・サイトがある久米島は避けるだろう。問題はお前たちが住んでいる離島だが、島民を大きな島に疎開させることは地方自治体として当然の措置だ。そうなるとお前は大忙しだが国の防衛に参加するんだから頑張ってくれ」これは日韓の軍事的緊張状態が発生して以来、茶山元3佐からの定期便を熟読して情報を収集・分析する一方で淳之介とあかり、首里の安里家の両親、モリヤ佳織将補閣下とも電話でやり取りしながら考えた戦争のシナリオだ。惜しむらくは私が定年退官して制服を脱いだため在オランダ大使館の防衛駐在官・木村1佐は防衛秘密に属する情報を口にしなくなり、自衛隊の見解や対応は佳織が漏らす範囲でしか判らなくなったことだ。頼りの佳織も元通信幹部だけに秘匿装置が着いていない電話ではかなり口が堅い。
「離島の人たちを石垣島に避難させて無人島になったら俺の仕事がなくなるじゃない。そうしたら俺も海上自衛隊に入って一緒に戦おうかって思うんだ」思い掛けない淳之介の決意表明に今度は私が絶句してしまった。淳之介は自衛官の息子であり、体内に流れるシマンチュウの血に導かれて沖縄へ行ってしまうまで自衛隊士官夫婦の家庭で育っていたのだから今は船会社の社員でも普通の文民=民間人よりも強固な国防意識を持っていても不思議ではない。
「もうそんな話が出ているのか」「ううん、地元のニュースは加倍政権が沖縄県警を国境離島警備隊って言う軍隊にしてしまったって批判しているだけだよ。それからまた沖縄戦が起きないために戦争になったらアメリカ軍を追い出して大人しく中国軍を迎えようって言ってる奴もニュースに出ているね」どうやら淳之介は事務所のテレビでニュースを見ていて帰宅を遅らせているようだ。昭和16年12月8日に日本軍がマレー半島に上陸し、ハワイ真珠湾を奇襲攻撃して対米対英戦争が始まった時も禅寺では臘八接心で徹夜の坐禅を組んでいたと師僧=祖父から聞いたことがある。結局、開戦は国民生活とは無関係に決定されるものなのだ。
  1. 2022/03/28(月) 14:59:27|
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