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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ82

航空自衛隊では海栗島の事件を宣戦布告と受け止め、航空幕僚長の独断で組織として戦争体制に移行することを決めた。石田首相は相変らず平和的解決に固執していて加倍派の立野官房長官や浜防衛大臣が武力攻撃事態対策本部の設置を具申しても「沖縄で中国と武力衝突したのは海上保安庁と警察だ」と否定して自分の派閥の外務大臣に和解を指示するだけだった。
「ウチの隊員にも色々事情がありまして・・・」「これは戦争だ。その心構えを教育するのがお前たちの任務だろう」そんな中、防府南基地の航空教育隊司令に浜松基地の航空教育集団司令官から第1教育群の教育職の全隊員を日本海の孤島サイト・海栗島と見島に、第2教育群は佐渡島と奥尻島の警備要員として派遣するように命ずる電話が入った。防府南基地司令を兼ねる航空教育隊司令は1等空佐が最後に一国一城の主を経験するための定年配置と言われていて隊司令も陸海空自衛隊が直面している事態にも傍観者になっている。
「それでも防衛出動どころか待機命令も出ていないのに自衛隊が暴走するのはあまりにも・・・」「お前は海栗島で起こった事件を知らんのか。官舎が不法入国者に襲われたんだぞ。被害者の名誉を守るために報道は押さえたが、あそこのサイトを破壊されれば東シナ海の視界は大きく欠落する」隊司令の意見は建前論ではなく隊員に説明するための根拠づけだった。教育職の空曹たちは自分に使命感や規律心が欠落していても新入隊員を建前で洗脳することを仕事にしているため詭弁を弄して正当化する技に熟練している。隊司令としては隊員に都合が悪い命令を下すには法的強制力が必要不可欠なのだ。
「しかし、有事となれば非常動員した若者を教育する特別課程を実施しなければなりません」「お前たちにその準備があるのか」「いいえ・・・」隊司令の必死の反論も集団司令官にいとも容易く(たやすく)撃破された。航空教育隊には基地警備を趣味にしていて航空機警備員と仇名されていたモリヤニンジン3曹だけでなく多くの幹部や空曹たちが部隊で全く役に立たない教育内容を改革しようと意気込んで転属してくるが、空曹であれば罠にはめられて犯した失敗を処置してもらうことで容易く取り込まれてしまう。幹部は蚊帳の外に置かれて孤立させられたまま2、3年の在任期間が過ぎて転属していく。航空教育集団だけでなく航空幕僚監部も航空教育隊の改革に多くの施策を講じてきたが、隊司令自身が人間心理を操るプロたちが演出する城主気分を満喫しているため利益代表の防護壁になってしまうのだ。日頃からそれを直視している集団司令官は今回の電話ではⅠ佐の隊司令をあえて「お前」呼ばわりしている。
「有事の特別課程については3術校の警備課程が作成している。それに基づいて各航空団の警備職が担当するからお前たちの出番はない。本当はお前たちこそ3術校の特別課程を受けさせなければならないのだが、それは現場に任せることにしよう」第3術科校で有事に非常動員される若者(=いるかも知れない志願者)を対象にした特別課程を作成したのは森田敬作3佐で、1カ月間で基本教練と銃剣格闘に銃の分解結合から始まり、監視と射撃を組み合わせた歩哨訓練、仕上げに捜索と捕獲・制圧の地上戦闘訓練を演練する。第3術科学校の警備課程ではこれに隊舎地区を想定した市街戦やデモ対処のための警察の機動隊式の特別警備訓練、爆発物の捜索と応急処理、生物化学兵器防護、さらに初期消火、号音ラッパなどが加わる。
「間もなく今入っている新隊員を出身地の最寄り航空団に分散配置して特別課程に編入させる。お前は留守になった基地を維持管理する方策にでも知恵を絞れ・・・そう言えば3術校の警備課程の科長は『防府南基地を有事には捕虜収容所にしろ』と言っていたな。それでもお前のところの隊員は教程に書いてある内容以外に戦時国際法の知識など持っていないだろう。離島防衛に役立てば今まで無駄飯を喰ってきた罪も少しは償えると言うものだ。判ったな」教育集団司令官は各級部隊の長として多くの隊員たちを指揮する中で本質的な使命感が欠落していることを痛感してきた。隊員たちの多くは各術科学校で身につけたプロ意識は命を捨てることも厭わないほど強固だが、それはあくまでも自分の担当職務に於いてであって、その先にある防衛と言う任務には目を背けている。集団司令官はその原因が「航空教育隊での基礎教育にある」と認識するようになり、有能な若手空曹を転属させたのだが大半は幹部候補生で逃れてしまった。しかも幹部としての職種選択で教育職は拒否していた。
「確かにお前が言う通り、これは違法命令かも知れん。しかし、政治が動かない以上、自衛隊が独断で必要な準備を整えるしかないじゃないか。これが空振りになれば幸運だ。それを馬鹿どもに判らせ、従わせるのがお前の仕事だ」「何も起きなかった時の責任は・・・」「航空幕僚長以下、将官は最も重い懲戒処分を自己申告する。行政罰を科せられるならそれも進んで受けよう。ただし、戦争が起きない限り自決はしないと申し合わせている」集団司令官の答えに隊司令はようやく腹が決まった。防府南基地は防衛大学校で刻まれた使命感まで喪失させるらしい。
  1. 2022/04/02(土) 15:25:15|
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