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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ88

「山口県内の過疎地域の空き家を避難者の住居に提供してくれないか」双木(ふたき)外務大臣は同じ山口県選出の浜防衛大臣が緊急記者会見を開き、大臣権限で防衛出動待機命令を発令したことを発表したのを受けて山口県の村山知事に電話をかけた。
「それは何処の人間ですか」「うん、対馬と東シナ海の離島を想定している」村山知事は前任者が就任から1年半で癌を理由に辞任したため1972年生まれの42歳の若さで総務省官僚から就任した。その分、頭の回転が速く反射神経も鋭い。
「朝鮮戦争の時には豊浦郡に亡命政府を設置する計画だったが、今回は日本人の避難民だから心配はいらない。むしろ人が住んでいることは防衛上も治安上も有益だ」「確かに無人の集落は平時でも問題が多いので戦時となれば尚更です」朝鮮戦争では李承晩が釜山に追い詰められ、北朝鮮軍に包囲されて後がなくなった時、マックアーサー司令部の命令で豊浦郡豊浦町の丘陵地帯に20万人規模の都市を建設して亡命政権を設置する計画があり、樹木の伐採など建設に向けた準備作業まで始まっていた。現在は下関市内の企業に通う会社員たちの住宅地になっているが、それは周辺の山村からの移住者でもあり、多くの過疎集落を発生させている。
「浜大臣は防衛出動待機命令を発令されましたが、細部は防衛秘密に属すると明らかにされませんでした。対馬が対象に含まれていると言うことは中国だけでなく韓国からの武力攻撃も想定していると言うことですね」「現在の武力衝突の発端は韓国海軍による海上自衛隊の対潜哨戒機の撃墜だ。新政権に変わっても反日姿勢は維持されている、むしろ中国との一体化は進んでいると見なければいかん。山口県は在日が多いから色々難しい問題もあるだろうがそこは上手くやってくれ」「はい、山口県は明治以来、困ったことがあれば自分たちが作った政府に頼むと言う甘えの体質で固まっていますから、政府は国家防衛に全力を傾注している以上、独自に判断し、自力で解決しなければならないことを理解させなければなりません」村山知事の答えに双木外務大臣も同意せざるを得なかった。山口県では博多までの山陽新幹線が建設された時、東海道新幹線の各県2駅と言う基準を準用したにも関わらず山口県だけは岩国、徳山、小郡(現在の新山口)、新下関の4駅が設置された。これも元国鉄職員だった浜元首相の実弟の元首相の政治力だと言われている。また山口県では国道よりも県道の方が整備されているが、これも国道は国土交通省の交通量や接続する地域の人口と産業などの基準で優先順位が決められるため人口が少なく産業も小さい山口県は先送りにされる。そこで地元選出の大物政治家が国家予算を県に配分することで全国屈指の舗装率を誇る滅多に車が通らない道路網が出来上がった。そんな体質が加倍元首相の「桜を見る会」にもつながっている。
「対馬への上陸を阻止できますか」同じ頃、対馬市長は陸上自衛隊の対馬警備隊長を訪ねていた。対馬警備隊では航空自衛隊の海栗島分屯基地の官舎が不法入国者の集団に襲われ、妻がレイプされた事件を受けて家族を本土に帰している。そのため「やまねこ軍団」と呼ばれる隊員たちは駐屯地内で生活し、今日の発令を待つまで準備を整えていた。しかし、市長個人の素人考えでは航空自衛隊の輸送機や海上自衛隊の輸送艦が頻繁に来航して武器・弾薬を備蓄すると思っていたが、今日も正門から本部庁舎に来るまでに見た限り、目新しい車両や武器はない。ただ出合った隊員たちの目は殺気を帯びていた。
「中国が侵攻してくれば西部方面隊の戦力は2分(にぶん)しなければなりません。そうなると増強は期待できないので我が隊単独で対処せざるを得ず・・・無理でしょう。上陸させて島内での遊撃戦に持ち込むしかありません」「そうなると当然、市街地も戦場になりますね」「敵が市街地に駐留すれば攻撃を加えることになります」警備隊長の答えに市長の胸に2022年のウクライナ侵攻でロシアが行った住民虐殺の惨状が甦った。日韓の緊張が高まる中、市長は自衛官たちから「韓国軍とロシア軍の残虐さは世界で双璧だ」と聞かされて朝鮮戦争やベトナム戦争で韓国軍が犯した住民虐殺を調べるようになった。それも海栗島の官舎の事件で実証されている。つまり韓国軍が上陸すれば元寇や李朝による応永の外寇と同様に多くの島民が殺され、女性はレイプされた上で命まで奪われるのだ。
「確か自衛隊法77条の4項には防衛出動待機命令の段階で国民を保護するために自衛隊の派遣を要請する規定がありましたよね」「はい、ただし要請できるのは都道府県知事になっています」警備隊長の答えに対馬市長は長崎県知事の顔を思い浮かべた。2022年に当選した現在の長崎県知事は医師であり、防衛問題に関して積極的に指揮を執っている記憶はない。
「以前、隊長は大型フェリーを使えば1隻で全島民を移動させられると言いましたが、今回は海上自衛隊に要請するべきでしょう。市役所に戻り次第、県知事に依頼します」市長の言葉に隊長は難しい顔をしてうなずいた。腹の中には西部方面総監からの密命があった。

  1. 2022/04/08(金) 14:39:02|
  2. 夜の連続小説9
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