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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ94

「総理に連絡はついたか」「いいえ、依然としてシステム障害が回復しないので官房長官を伴って内閣府の対策室に籠っておられるようです」浜防衛大臣は石田首相に防衛出動の発令を上申するために内局の担当者に首相官邸への連絡を指示しているが、中央指揮システムは通じても官邸と内閣府の別館を結ぶ連絡装置が機能せず、携帯電話も使用不能のため官房長官室の官僚たちは来客の要件を伝えに現代の飛脚と化していた。
「自衛隊法76条では防衛出動は総理の代行者は規定していないんだよな。臨時代理は立野官房長官だが一緒に不在では話にならん」担当者の説明を聞いて浜防衛大臣は苦々しげに正面の大型画面を睨んだ。画面にはPー1が伝送してきた中国艦隊の画像に海上幕僚監部が艦種とデーターを加えた静止画像と現在の位置、さらに那覇基地から発進したEー2Dが探知している航空機の情報が表示されている。画面によると中国空軍の戦闘機が発進したため戦闘空中哨戒=CAPしている航空自衛隊機が指向されたようだ。
「自衛隊法82条の海上における警備行動と82条2項の海賊対処行動であれば防衛大臣の職務権限で下令できます」航空自衛隊が自衛隊法第84条の対領空侵犯措置で対処するのを見て海上幕僚長が意見具申した。海上自衛隊の幹部にも濃紺上下の作業服があるがイギリス海軍の貴族趣味を模倣した帝国海軍が「士官が汚れ仕事をすることはない」と作業服を制定しなかった伝統を踏襲して戦闘中も制服だ(潮風に晒され海水を浴びる航海中の甲板士官は着用する)。
「しかし、海上における警備行動も内閣総理大臣の承認を必要とします。大臣は防衛出動待機命令の時も・・・」すると内局の事務次官が反論したが、防衛出動待機命令の時に石田総理の承認を受けずに連絡だけで強行した現在進行中の過去に触れてしまった。初めての下令となった能登半島沖の北朝鮮工作事件の時には野中広務官房長官が強硬に反対したと言われている。石田総理も反対しそうだが連絡がつかないのは再び独断専行するには好都合だ。
「判った。海上における警備行動を発令しよう。幸い海上保安庁は九州南西沖不審船事件で北朝鮮の工作船と銃撃戦だけじゃあなくてミサイルまで発射されている。それを前例にすれば戦闘も実施できるだろう」「はい、自衛艦隊に下達します」海上幕僚長は浜防衛大臣の言葉に深くうなずくと振り返って背後に歩み寄った幕僚に指示を与えた。
「東海(=東シナ海)を東進している中国人民海軍の艦隊に警告する。日本国政府は貴国艦隊の領海への侵入を拒否し、接近を阻止するための防衛行動を準備している。危険防止のため進路を変更せよ」那覇空港に同居する海上自衛隊沖縄航空基地の第5航空群司令部の庁舎前の3本旗竿には海上自衛隊旗と部隊旗に並べてZ旗が掲揚された。これは海上幕僚長の指示だが「皇国の興廃この一戦にあり」の覚悟を示している。そして司令部は急速整備で全機稼働状態になっているPー1の出撃準備を発令し、中国艦隊に国際海洋周波数で英語、日本語、北京語の警告を与えた。それにしても中国と台湾では東シナ海を「東海」と呼ぶが韓国と北朝鮮では日本海を指す。半島で東シナ海は位置関係上「西海」なのだ。韓国政府はこれを国際用語にしようと言うのだから単なる日本への嫌がらせとしか思えない。
「中国艦隊に変化はありません」「ラージャ、Pー1を5機発進させろ。別命あるまで上空待機」海上自衛隊は防衛出動待機命令が下令された時点で自衛艦隊を太平洋上に展開させ、中東の原油をパナマ運河経由で太平洋を横断する海上交通路を確保する作戦準備を進めている。アメリカ海軍も在米中国人や半島人の目に触れない海上では長年にわたり兄弟海軍として信頼関係を構築してきた海上自衛隊に全面協力して事実上の協同作戦になっていた。そして日本近海は各地方隊の艦艇と航空部隊で迎撃し、その先鋒は対潜哨戒機だ。
「幕長は日本海海戦の気分のようだが俺たちはマレー沖海戦だぞ」「そうだな。艦載の攻撃機や爆撃機じゃあ空自っぽいですからね。やはり1式陸攻に96式陸攻でイギリス艦隊を撃滅したマレー沖海戦でしょう」操縦席に座り、前に立った整備員と最終点検を終えたPー1は順番に誘導路に進み管制塔の発進許可を待った。しかし、民間の国際線、国内線は維持されている上、航空自衛隊も緊急発進増強態勢を発令しているので雑談するほど待ち時間は長い。おまけに国土交通省の管制官は地元2大紙の取材に「違法にならない範囲で自衛隊の戦争を妨害する」と公言したように着陸する民間機を優先して海上自衛隊以上に時間を争う航空自衛隊の戦闘機も待ち惚けさせられている。中国空軍の戦闘機が上空から監視を続けているPー1を狙っているとすれば許し難い暴挙だが他の離島のローカル空港の使用も国土交通省が認めず、嘉手納基地は兵員家族を避難させるための輸送機の大幅増便が予想されるため実現しなかった。
「サクラも参加したかっただろうな」「モリヤ志織ちゃんかァ、俺のコパイ(副操縦士)にしたいな」待ち時間が長く雑談に日米共同訓練で会ったサクラ=モリヤ志織中尉まで出演した。
17・モリヤ志織イメージ画像
  1. 2022/04/14(木) 14:10:36|
  2. 夜の連続小説9
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