「サンセット(南西防空指令所のコールサイン=仮称)、ディス・イズ・マンタ(第9航空団の飛行隊のコールサイン=仮称)42、ホスタイル(敵機)・ジュディ(アメリカ軍の隠語=レーダーで捕捉した)」「ラージャ、アラート(スクランブル)したマンタ48とターンオーバー(交代)するまでキープ・サービランス(監視を継続)」CAP(戦闘空中哨戒)から中国空軍機に指向されたマンタ42は付き纏うように中国艦隊を監視している第5航空群のPー1に割り込むように誘導された。しかし、通常の対領空侵犯措置とは異なり任務はPー1への攻撃の阻止であり、兵器管制官とパイロットはROE(交戦規定)に基づいて対処する。何よりも今回は「アンノウン=国籍不明機」ではなく「ホスタイル=敵性機」と呼んでいる。
「機上レーダーで捕捉できているのか」「通常の航跡よりも鮮明度が落ちるからやはり殲ー10かも知れん。タリホー(視認)しよう」「危険だ。こちらの誘導に従え」防空指令官はパイロットの職業的好奇心を冷静に制止した。空対空ミサイルの射程距離はFー15が搭載している国産の99式空対空誘導弾は100キロ程度(非公開)、スパローは最新型なら70キロ、サイドワインダーでも5キロ弱だが、長射程から視程外ミサイルと呼ばれている中国空軍のPLー21が相手となると目視確認は危険極まりない。
「ユニコーン(第5航空群のコールサイン・仮称)は中国艦からロック・オンを受けた時、自衛措置として空対艦ミサイルを発射する許可を受けている。マンタ42も同様にロック・オンを受ければその時点で応戦せよ」「ラージャ、ホスタイルが殲ー10ならサイドワインダーの方が良いかな・・・」ここでSOC(航空方面指揮所)が補足した。実は防空指令官とパイロットは第8航空団のデニム27が能登半島沖で韓国空軍機に撃墜された事件以来、航空自衛隊内で秘かに開催されてきた対韓国、対中国の戦術研究に参加していた。確かにステルス機である殲ー10に対してレーダー誘導の99式空対空誘導弾やスパローと赤外線誘導のサイドワインダーの有効性を比較する実験的使用も緒戦の必須事項ではある。
「マンタ42、マンタ48はATC(交通管制)の妨害に遭ってテイク・オフ(発進)が遅れている」「ラージャ、遅れたついでにタワー(管制塔)にブロー(銃撃)してやれ」この軽口は戦闘の緊張をほぐすための冗談だが国土交通省の労組の管制官が傍受していれば沖縄の地元2大紙に電話して夕刊のネタを提供するはずだ。国土交通省は運輸省時代から航空偵察隊が北方領土のソ連空軍基地に配備されている航空機の情報を収集するための偵察飛行で規則通りにフライト・プレン=飛行計画を提出すると何故か格納庫に全機が隠蔽されていて兵員さえも歩いていなかった。そこで前もって千歳基地に移動して根室分屯基地や別海駐屯地、矢臼別演習場の写真撮影を目的とするフライト・プランを提出しながら不意に領空侵犯して通過すると軍用機を撮影できたが、それからは腹の探り合いになった。そのため多大な被害に遭っている海空自衛官の間で国土交通省は「敵性官庁」と呼ばれている。
「マンタ42、ホスタイルのヘディング(進路)はユニコーンに向かっている。前方を遮って妨害せよ」「ラージャ、ジージョと同じことをやるんだな」「交代で前を通過するだけで良い」マンタ42のパイロットも第8航空団の韓国空軍機に撃墜されてベイルアウト=緊急脱出しながら銃撃されて死んだパイロット=タックネーム・ジージョを知っていた。
「サンセット、エレメント(2機編隊)をセパレート(分離)して前方をフライパス(通過)する」「ラージャ、バット(コウモリ=パイロットのタック・ネーム)、ヘディング350」これが空中戦であれば射程距離に入ったところで空対空ミサイルを発射して航空自衛隊では1995年11月22日に小松基地の第6航空団で空中戦訓練中に誤ってサイドワインダーを発射して仇役のFー15を撃墜して以来の撃墜マークを記録するところだ。しかし、現段階では対領空侵犯措置を国際基準で実施しているので警察権の行使以上の対処はできない。中国側が先に戦闘として攻撃を加えてくればミサイルの性能次第で勝負は決まる。仮にPLー21がアメリカ軍のアミラームと同等の性能を持っていれば射程距離は180キロに達する。Fー14の売り物だったフェニックスでも150キロだった。それにしても在韓米軍の最高機密の技術情報を漏洩してロシアの兵器の盗作・模造品しか作れなかった中国に自主開発する能力を与えた韓国の金大中、盧武鉉、文在寅政権は許し難い。
「サンセット、ロック・オンされた。退避する」「ラージャ、ポッポ(鳩ポッポ=パイロットのタック・ネーム)、援護しろ」「ラージャ、AAM(空対空ミサイル)を発射する」「ラージャ、ファイヤー・パーミション(発砲許可)、ただし、空中爆発させる準備をせよ」「ラージャ」SOCの許可を受けたポッポこと鳩屋1尉は99式空対空誘導弾を発射してロック・オンを外すと空中爆発させた。これが日本式警察権の行使の限界だった。
- 2022/04/16(土) 16:17:38|
- 夜の連続小説9
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0