某基地に侵入してM5指向式散弾地雷の起爆で骨折した在日半島人2名が治療のために収容された病院には日本だけでなく韓国や中国の記者たちが詰め掛けていた。某基地は地方都市にあるため病院のマスコミ対策が緩く看護師たちは新型コロナ・ウィルス感染症の取材で懇意になった地方支局の記者たちに求められるままの情報を提供していた。
「航空自衛隊は今朝の会見で2人が戦闘機を破壊するために侵入したと発表しましたが間違いありませんね」「昨夜、当院に搬送されてきて弁護士さんと面会してからはその動機を否定しています」意外な回答に記者たちはざわめき立った。2人は在日韓国人連合会に登録している南の人間なので共産党系の弁護士が担当するようだ。
「今はどう言ってるんですか」「2人は弁護士さんに『韓国と敵対している自衛隊に嫌がらせしてやろうと駐車場に置いてある隊員の車をパンクさせるために釘を持って侵入しただけだ』と説明していました」記者たちにはでき過ぎの展開になってきた。
「貴女がそれに立ち合ったのですか」「いいえ、病院としては患者の立場によっては病室などを変更しなければなりませんから弁護士さんに伺いました。すると『あれは自衛隊の警察に脅されて言わされた』とのことでした」深夜、在宅当直だった警務官が衛生隊に駆けつけて実施した事情聴取は刑事訴訟法第198条などで規定されている条件を満たしていないため文書証拠としての調書にはならず、自白した内容を否定しても違法ではない。むしろ弁護士が法廷戦術として不利になる証言を否定させ、それが難しければ誘導尋問や拷問によって強制されたと主張することも珍しくない。
「そうなると2人が警務隊の取り調べを受けている容疑は基地への不法侵入だけになるな」「あれの法定刑は懲役3年以下、10万円以下の罰金だから軽い罪だね」「それじゃあ火傷と骨折の検査と処置が終われば退院になるかも知れませんね」今度は看護師の方が妙に力を入れた。確かに軽い犯罪で在宅起訴になれば、窓とドアは厳重に施錠できて警務官が常時監視できる2人部屋の病室を用意し、他の入院患者に行動制限を加える必要はなくなる。
「ところで刑法130条の住居不法侵入では退去を要求されても応じなかったことが犯罪の成立要件になっていますが、2人は警告を受けて捕獲される時に警備の自衛官に暴行を受けて負傷したんですか」「いいえ、突然何かが爆発したそうです。身体の前面に一過性の炎による火傷がありますから爆発物の発火を受けたようです。その上、同様の部位に細かい粒状の痣が無数にありますから間違いないでしょう」この説明に記者たちは一斉に黙り込み思案を始めた。2003年のイラク侵攻でのアメリカ軍と有志連合軍はイスラム過激派のテロとの戦いだったが、2022年のロシア軍のウクライナ侵攻では軍と軍の地上戦が繰り広げられ、軍事分野には無知・無関心だった日本のマスコミ関係者も多少は勉強することになった。その答えが夕刊と午後からのニュースで発表された。
「航空自衛隊が対人地雷を使用?」勉強したとは言え所詮は素人の記者たちは航空自衛隊が地雷を保有していないことや陸上自衛隊が対人地雷の破棄を終えていることも知らずニュースのテロップと夕刊の見出しには「?」を付けることで断定を避けた衝撃的な短文を躍らせた。ウクライナでロシア軍は撤退する時、占領地域の道路にトラックでも起爆する対戦車地雷を大量に残置し、住民が避難して空き家になった住宅には1983年に発効した特定通常兵器使用禁止制限条約で禁止されているブービートラップを仕掛けっていた。ロシアは特定通常兵器使用禁止制限条約や1999年に発効した対人地雷禁止条約には加盟していないが、日本は両方とも調印・批准している。仮にこの推察が事実であれば日本は中国が一方的に主張している尖閣諸島での化学兵器に続き再び国際条約を破ったことになる。マスコミとしては「無知な素人」と言う評価を逆説的に最大限に利用した報道戦術だった。
「日軍の憲兵が在日の同胞を拷問しました」韓国では同日の夕方のニュースで同じ事件を別の問題として取り上げていた。韓国は対人地雷禁止条約には加盟していないため批判の矛先を換え、在日韓国人の2人が「戦闘機を破壊する目的で侵入した」と自白したのは警務官から拷問を受けたためだと断定していた。日本でも敗戦後には実際は特別高等警察が行っていた思想弾圧を陸軍憎しの宣伝に合わせて憲兵に押しつけてきたが、韓国ではそれ以上に極悪非道の日本のゲシュタポとして断罪してきた。韓国軍が2020年になって「憲兵」を「軍事警察」に改称したのもこの喧伝が徹底し過ぎて悪印象を拭うことができなくなったからだ。そのため現在でも自衛隊の警務隊を憲兵と説明すれば余計な説明はしなくても視聴者は残酷な拷問を想像する。
「日本政府は日軍の暴走を制止することなくその歯牙を我らの同胞に向けています」このニュースはインターネットにも配信しているので日本とアメリカでも視聴できる。まさに扇動だ。
- 2022/04/25(月) 16:29:36|
- 夜の連続小説9
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