野僧のような映画好きにはたまらないイタリア映画の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」で中年になった主人公・サルヴァトーレ=トトを演じたフランスの俳優・ジャック・ペランさんが4月21日に80歳で亡くなったそうです。
ペランさんは1941年にナチス占領下だったパリで1680年に創設された旧王立・現国立の劇団・コメディ・フランセーズの舞台美術家の父親と舞台女優の母親の間に生まれました。祖父も演出家の血統書つき(長男も俳優の脚本家で写真家、二男と三男も俳優)だったので当然のように演劇の世界に進み、フランス国立高等演劇学校・コンセルヴァトワールを優等の成績で卒業すると1957年に本名のジャック・シモネ(ペランは母親の苗字)として映画デビューを飾り、1961年のイタリア映画「鞄を持った女」で注目を集め、1962年の「家族日誌」ではイタリア第1の名優・マルチェロ・デストロヤンニさんと共演しました。1966年には「半人前の男」と「ラ・プスカ」でヴェネチア国際映画祭の男優賞を受賞し(前年の受賞者は三船敏郎さん)、その後も多くのヒット作品に出演して確かな演技力と整った風貌でアイドル的な人気を獲得しましたが、次第に年齢を重ねても童顔が変わらないことが俳優としての弱点になり(実際、前述の「家族日誌」ではデストロヤンニさんの弟役でしたが1990年の「みんな元気」では親子の役でした)、27歳で事務所を立ち上げると初プロデュース作品の「Z」がアカデミー賞外国語作品賞を受賞するなど制作者としても手腕を発揮するようになって死亡記事にも「俳優・映画製作者」と紹介されていました。
そして1989年に公開された「ニュー・シネマ・パラダイス」では冒頭にローマ在住の有名映画監督になっているペランさんが登場し、幼時から少年時代に映写室で上映している映画を無料で見せてくれた映写技師のアルフレードの訃報を伝える母親からの電話を受け、葬儀に参列するために帰郷するところから回想シーンとしてトトと呼ばれていた幼児の思い出の物語が始まります。ただし、幼児期のトトを演じたサルヴァトーレ・カシオくんは極めてイタリア的で愛くるしく、少年時代のマルコ・レオナルディくんもイタリア的な美少年だったので後半に再び登場したフランスのインテリ的な雰囲気のペランさんとはかなり違和感がありました。
それでもアルフレードの葬儀に参列して少年時代を過ごした街を歩きながら年老いた旧知の人々と言葉を交わし、昔愛したエレナの消息を聞いて連絡を取り、再会を果たして駆け落ちの約束を破ったことを責めるとそれがサルヴァトーレの映画に対する熱意と才能を認めていたアルフレードの説得によるものだったと判り、エレナに「私と結婚していれば素晴らしい映画は撮れなかった」と後悔していなことを告げられました。そしてエレナから「転居先の住所と事情の説明を映写室の上映メモの裏に記しておいた」と教えられると廃墟になった映画館の不用品が山積みになった映写室を探してメモを見つけ、アルフレードが形見に残した古い映画のフィルムを1人で見ながら感慨にふける演技は流石でした。日本では出演作があまり上映されていないことが残念です。冥福を祈ります。
- 2022/04/25(月) 16:30:46|
- 追悼・告別・永訣文
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