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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ111

「戦時中でもないのに完全な戦闘態勢だな」田島3佐は協力者のスリランカ軍士官たちに感心したように呟いた。田島3佐はスリランカに潜入して以来、日本大使館の在外公館警備官と交代でハンバントタ港の中国海軍の基地に出入りするスリランカの業者の車両や外出する中国人を監視し、時には市内で東アジア人を探して背後で会話に耳をすませ、コロンボ市内の中華料理店で来客を確認していたが、出入りする業者は全てスリランカに進出している中国系の企業で車両に乗っている人間も中国人だけだった。外出する時は必ず複数で、これが相互監視なのは日本で処理してきた工作員でも明らかだ。そのため中華料理店に入店しても言動態度につけ入る隙はなく、接触して基地内に入る人脈にすることもできなかった。
「メジャー(3佐)・田島は今回の任務をどのように実施するつもりだったんだ」「俺たちになら良いだろう。戦友じゃあないか」黙り込んでしまった田島3佐にニサンタ少佐が声をかけた。特殊任務の詳細を漏らすことは中国軍ではあり得ないことだが、田島3佐は西側の諜報工作員の作法に則って協力者には報酬として可能な限りの情報を与えることにした。
「先ずは燃料に不純物を混入してエンジンを爆発させるつもりだった。ディーゼル燃料の軽油にガソリンを混入すれば可能だったろう」「中国が配備しているのは宋級潜水艦が中心だから効果的だが、中国の給油船が直接基地のタンクに補給していてはどうしようもない」この第1案にディサヤナケ大尉は同情するような顔で相槌を打った。中国海軍がこの基地に宋級攻撃潜水艦を配備していると言うことはインド海軍の出撃を阻止するだけでなくインド洋の制海権を確保するのに水上艦艇で臨検や拿捕するのではなく始めから撃沈するつもりなのだ。
「次にセスナ機で上空に進入して燃料タンクを空爆するつもりだった」「それは2009年2月20日にタミル人ゲリラもやったな。セスナ2機でコロンボ市内にダイナマイトや手榴弾を投げ落として2人死亡、44人が負傷したんだ」実は田島3佐もその事件を参考したのだが、セスナ機とパイロットの手配が必要になるのであくまでも案だった。
「しかし、遊覧飛行やマスコミのセスナやヘリが上空を通過すると屋上の機関銃を向けるくらい臨戦態勢で警戒しているから無理だよ」「そうなるとカミカゼになるな」「自分で操縦していればそれもあり得るが、イスラム過激派のテロリストのパイロットを雇わなければならない」議論が深刻になり過ぎてジョークをまぶさなければ続かなかった。
「納入する食料品に毒物を混ぜて殺す手も考えたが・・・後は乗組員を個別に殺害することくらいしか思いつかないがそれも駄目だった」流石の田島3佐もお手上げだった。乗組員を個別に殺害するのは中国が開戦時に基地に向かう航空自衛隊の戦闘機のパイロットを殺害して初動対処能力を喪失させるために北朝鮮軍の殺し屋を沖縄に潜入させた実例を参考にしたのだが、これも同伴外出で封印されている。沖縄の殺し屋を始末するために養成・創設されたのが朝山元3佐たちの秘密組織だったが、全て事故死や変死、自死として処理されていた。その秘密組織の活動が首都圏に移り、今では田島3佐が引き継いでいるのだ。
「我が国は中国に戦費の返済期限を延長させる代償として完全に属国化されているが、アフリカのジブチにも2021年に軍港を建設したからインド洋は中国の手中に落ちたと見るべきだな」「ジブチと言えば紅海の入り口だからスエズ運河を利用する船舶を押さえることも可能だ。アジアとヨーロッパの物流の大動脈は中国が握っていると言うことだ」田島3佐の任務遂行が実施不能になっていることを察したスリランカ軍の士官たちがさらに厳しい国際情勢を語り始めた。田島3佐も表向きは都内の某駐屯地の閑職に就いているとは言え裏稼業としては一般の自衛官以上に国際情勢に関する情報を与えられ、独自に研究もしている。しかし、日本のマスコミ報道では東アジア以外はアメリカとヨーロッパでもイギリス、フランス、ドイツだけが対象で、加倍政権だった当時のスリランカの中国海軍の軍港建設までは散発的に報じていたが、アフリカのジブチに関しては1行の記事も見たことがない。日本では中曽根政権時代の戦略的外交で国際感覚を身につけた世代の官僚が加倍政権の積極外交で鍛えられ、今回の危機に際しても先行的にアメリカ政府と交渉して太平洋航路で原油などを輸入する施策を講じているが、スエズ運河が通行できなるとアフリカ大陸最南端の喜望峰を迂回しなければならなくなり大幅な遠回りになる。日本のマスコミがアフリカに触れないのは読者・視聴者の関心の低さよりも中国が支配を進めている実態を隠蔽するためなのかも知れない。
「あの国に勝ったベトナムは凄いよ」「フランスとアメリカとの戦争で支援を受けた時、勉強しながら手の内を探っていたんだろう」中国に勝ったとなると1975年から77年のカンボジア侵攻で中国の傀儡・ポルポト政権を打倒し、1979年の中越戦争にも勝利したベトナムになる。それでも経済面では市場として依存しているので勝敗は明確ではない。
  1. 2022/05/01(日) 14:35:56|
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