「国会もオンラインにしてもらえないかな」在日中国人や南北半島人のデモ隊が24時間体制で集結するようになって以来、国会の会期中には全国から動員された警察の機動隊が議事堂の背後に建つ議員会館との連絡路や1・3キロの外周を警備している。加倍政権が国家特定秘密保護法や安全保障関連法を提出して審議していた時にもデモ隊が押し寄せたが、市民団体に参加している主婦やネットで招集された学生、教師に引率された高校生が中心で左翼タレントが扇動する「反戦祭り」と言うような軽い雰囲気だったが、今回は先輩たちから話には聞いている学園紛争や成田闘争を追体験しているような気分になっていた。
「流石にこの人数が殺気立っていると恐ろしいよな」機動隊は防護衣で身を固め、地面に盾を立てて国会議事堂側の歩道に並び、車道を挟んだ歩道を埋め尽くしているデモ隊と対峙しているが、数え切れないほどの巨大な五星紅旗が紅い波を作っている光景は異様だ。
「今日も社人党の唯一の生き残りは車でご出勤らしいな」「車を下りて激励するんだろう」政府と警視庁は各政党に国会の会期中は議員会館に滞在するか、東京メトロなどの公共交通機関で登院するように要請しているが、社人党の徳島水子参議院議員は警備を妨害するように私有車で登院して機動隊の隊形を破り、衛視に南門を開けさせている。それだけでなく徳島は車を止めさせて下車するとデモ隊の前で激励の演説を始めている。
「噂をすれば来たぞ」「あの車は徳島だな」国会の正門前で右折して参議院の北門に向かってきた黒塗りの高級車が歩道に寄せて停車すると先に下りたドライバーがドアを開けた後席から見覚えがある赤いスーツ上下を着た徳島が姿を現した。徳島は助手席から下りた秘書と思われる男性が手渡した移動式拡声機のマイクを口に当てると毎度の演説を始めた。それにしてもヒステリックな口調は相変わらず耳障りだ。
「大日本帝国として東アジアと東南アジアで重大な戦争犯罪を繰り返して敗戦後の国際司法裁判所で断罪されたにも関わらず戦後もアメリカの傀儡として帝国主義のお先棒として振る舞ってきた日本国を懲罰するために今日も多くの同志が集まっていることに心から敬意を表します」この熱いエールにデモ隊は反応しなかった。しかし、最近の徳島は選挙の街頭演説でも強制動員された自治労や日教組の活動家以外に聴衆が集まらず、素通りする市民に無視されることが普通なので無反応には慣れていた。
「皆さんの声は私が国会で代弁していますから安心して下さい」徳島は異舟同夢=党是は同じでも看板だけ別の立権民衆党から分けてもらった質疑時間で中国の主張を代弁していて、一連の武力衝突を日本の戦争犯罪として糾弾している。以前であれば選挙への影響を考えてこのような本音を公言することは控えていたのだが、もう日本が選挙を実施する機会はなく、中国によって樹立される人民政府で上手くいけば首相、少なくとも主要閣僚に就任できると確信しているらしい。珍しく出演できたマスコミでも今までは男女同権や反戦平和のオブラートに包んでいた反米反日親中親北朝鮮の政治姿勢をアカラサマにしている。
「最早、日本は国家として存在してはならないのです」「あの赤いスーツを背後から射ってやりたいものだな」無反応なデモ隊に向かって勝手に興奮した徳島の熱弁を聞きながら機動隊員の間で極めて不謹慎な呟きが広がった。警察の機動隊は戦前に思想犯を取り締まっていた特別高等警察の影響下で組織が作られたため陸上自衛隊以上に帝国陸軍的な面があり、徳島のような左翼政治家には嫌悪を超えた憎悪の感情を抱きがちだ。
「この間、水上署(水上警察署)が中国船から大量の弾丸を押収したんだが、弾丸だけ密輸しても意味がないから、国内戦を始める準備を進めているんじゃないかって言っていたよ」「拳銃を携帯しているのは幹部だけだから俺たちは射たれれば『その場に伏せ』だな」「それって自衛隊だろう」デモ対処が長期化して機動隊の編制も混成にしているため警視庁と他の都道府県警の隊員が並んでいて地方の県警では恒例化している対テロなどの陸上自衛隊との共同訓練の成果を口にした。参加した警察官たちは自衛隊が銃撃を受けた時、反射的に身を伏せて敵弾を回避することに感心しているが、警視庁などの首都圏の県警ではマスコミの批判や市民団体の反発を懼れて目立つようには実施していない。
「それにしても俺たちが東京に派遣されている間に地元の重要施設が襲撃されればどうするつもりなんだ」「自衛隊の治安出動しかないな」ここで徳島が反応がない独演会を終えて車に乗り込みこちらに向かってきた。その車を凝視するデモ隊の参加者の視線には殺意さえも感じられる。それは戦場に動員される兵士のものだった。それにしても水上警察署が掴んだ在日の中国人と南北半島人による内乱の準備を石田政権は全く公表していない。治安の維持に当たる者の1人として国会に乗り込んで質問してみたくなる。
- 2022/05/03(火) 15:23:19|
- 夜の連続小説9
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