「北側からフェンスを越えて侵入したようです。ランウェイ(滑走路)に近づいていましたから横切ってAWACSを狙ったのかも知れません」川村2曹が警衛所に来た基地当直幹部の3佐に状況を説明していると爆発音で目が覚めた警衛隊長の曹長以下の警衛隊員たちも起きてきた。そこに衛生隊と基地内泊だった警務隊の当直も到着して捜索に出ることになった。川村2曹は警備職の空士2名に防弾チョッキを着させ、鉄帽を被らせた上で実弾20発入り弾倉を装着した64式小銃を持たせると巡察車両で現場へ向かった。滑走路のイースト・エンド(東端)から遠望すると滑走路を挟んだ南北地区の隊舎の窓には灯りが点いていた。
「暗視眼鏡の電源を入れろ。発見すれば誰何しろ」「はい、福島士長」「丹野士長」、現場に到着すると川村2曹は空士2人に注意を与えた。これも交戦地域において行動する戦闘員には不要な手順だが、治安出動が下達されたことで警察官の捜索要領を準用しているためだ。
「副長、1人倒れています」川村2曹を中心にして左右に広がって歩いて行くと右側の福島士長が声をかけた。顔を向けると片膝座りの姿勢で小銃を構えている。これも第3術科学校警備課程の教育成果であって航空教育隊の新隊員課程ではない。
「呻き声が聞こえます・・・生きています」「発砲できるように近づいて拳銃を奪え。衛生と警務、確認を願います」福島士長の続報に川村2曹は指示を返し、振り返って外周道路で待機している衛生隊と警務隊の当直に声をかけた。暗視眼鏡が街灯の光線で明度過剰を起こして見えないが2人は爆発音で集まってきた野次馬と外周フェンス越しに質応答しているようだ。
「こっちにも1人・・・生きています」今度は丹野士長が報告してきた。丹野士長は機転が利くので指示を与える前に銃口を向けながら慎重に近づき「拳銃を取りました」と追加した。
「警備は前へ」「また倒れています。今度も生きています。助けてくれって言っています」衛生隊と警務隊の当直が右側で福島士長が発見した負傷者=侵入者の確認を始めたのを確認した川村2曹が前進を指示するとすぐに福島士長が続けざまに報告してきた。今度は衛生隊と警務隊の空曹の当直が間近にいるので拳銃を奪うことだけを指示した。
「侵入者3名を確保しました。3名とも負傷しています・・・」川村2曹はトランシーバーで警衛所の基地当直幹部に報告しようとしたが、本人は当直室にマスコミからの電話が殺到したため呼び戻されていて警衛隊長の曹長に説明することになった。
「アンビ(アンビランス=救急車)に運ぶから手伝ってくれ」衛生隊の当直は空士2名と連れてアンビランスから担架3本持ってくると1人目を手際よく上に寝かせた。その時、身体の側面に散弾を受けて血だらけになっている侵入者が弱々しく「お願いします」と殊勝な言葉をかけた。この様子では凶悪事件を起こそうとした割に家庭環境や人間性は比較的マトモなのかも知れない。しかし、この3人はインターネットで「日本人女性に従軍慰安婦の罪を償わせる」と称してレイプした動画を見て豊橋市内で模倣犯罪を繰り返してきた。それも罪の意識は全くないので心理面に凶悪性を帯びなかったようだ。
「単なる不法侵入で重傷を負わせるのは過剰な実力行使ではないのか」浜松基地では夜が明け、朝8時の課業開始と同時に緊急記者会見が開かれた。マスコミ各社は「朝のニュースに間に合わせたい」と強く要望してきたが、警務隊による事情聴取は搬送先の病院で行われていて、現場検証は日の出の後になったためこの時間になった。それでも基地広報室長以下の監理部の隊員が出勤し、発表内容の検討と会場の設置を進めていた。
「特別警護対象を防護するための武器使用ですから違法性はありません」この質問は防衛出動待機命令が発令されて基地警備での武器使用を決定した時から折り込み済みだった。前回のM5の使用でも同様の質問が出たが、今回は治安出動が発令されているので自衛隊には警察権の行使が認められている。記者の質問もそれを知った上での嫌がらせに近い。
「しかし、基地に侵入しただけだろ」「3人は航空警務隊による事情聴取でAWACSを銃撃して爆破する目的で侵入したと証言しています。実際、日本国内で押収されているのと同じ中国製の92式手槍を携帯していました」「ホー・・・」これは記者会見に当り基地広報室長が病院の警務官に電話で確認した証言内容だ。国会議事堂へのデモや密入国、銃器の不法所持で逮捕された在日中国人たちは何者かの厳命を受けているかのように完全黙秘を続けているだけに今回の容疑者の証言には記者たちも呆気にとられた。
「それでは身元も判っているんだな」「はい、愛知県田原市在住の在日韓国人で名前は・・・」事件発生直後の緊急記者会見で全員の住所、氏名、年齢、職業まで明確に説明されると事件の凶悪性そのものに疑問を感じてしまう。これが心理戦術であればかなり高度なテクニックだが、単に3人には罪の意識と行為の重大性に対する自覚がないだけだった。
- 2022/05/10(火) 13:56:57|
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