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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ122

「国際刑事裁判所のモリヤ検察官ですが」「知ってますよ。ジャパン・グランド・ジエータイ(日本国陸上自衛隊)のモリヤ元中佐でしょう。こちらは語学に堪能な秘書のコズエさん」次の週末、梢と買い物に出たついでに表通りにある銃砲店に寄ってみた。オランダでも外国人には銃器の所持資格は与えられていないので入店したことはなかったが、応対した店主は何故か私たちのことをよく知っていた。やはり人口50万人弱の国際都市スフラーフェン・ハーグでも常に迷彩服を着用していた私は目立っていて、興味を持った人が肩書を訊けば詳しく説明されるくらい個人情報が漏れていたようだ。その点、梢の語学力への評価は誇らしくなる。
「実は中国のメリンコのタイプ92ガン(92式拳銃)を見たいんだ。申し訳ないが買わないよ」「それも判っています。我が国の法律の規定ですから仕方ありません」店主は私が英語しか話せないことも知っているらしく英語で応対した。梢は「英語とオランダ語やドイツ語は言語として兄弟だから方言に近い、沖縄方言が理解できたならマスターできるはずだ」と言っているが似ている分、単語の混乱も犯しやすく腰が引けている。何よりも梢と言う有能な通訳を身近に置いているので必要性を感じていないことも大きい。
「ワルサーPPKに似ているな」「当店ではヘッケラー・ウント・コック(H&K)のMP42の模造品と言われています」「しかし、ヘッケラー・ウント・コックの2人はモーゼル出身でワルサーじゃあないだろう」「流石に詳しいですね。やっぱりグランド・ジエータイの元中佐だ」店主がガラス・ケースに出してくれた92式手槍は自動拳銃としては小型で、アドルフ・ヒトラーが護身用に携帯していて自決にも使ったと言うワルサーPPKを思わせた。一方、ヘッケラー・ウント・コックの社名は敗戦によってモーゼル社を退職したエドムント・ヘッケラーとデオドール・コッホ(英語読みではコック)が創設したミシン製造会社の社名だったが、ドイツ連邦軍の創立で1950年に銃器製造に参入したのだ。
「機能的にはベレッタM8000に近いと言われています」「ベレッタならアメリカ軍のM92には触ったことがあるよ」「グランド・ジエータイの拳銃は何を」「SIGのP220だよ」中国が日本に大量に持ち込んで在日中国人を武装化させている拳銃の現物を確認する目的の来店だったが案の定、拳銃談義が始まってしまった。
「P220じゃあなくてP226でしょう。SIGのP220は弾倉に7発しか入らないから15発入る226の方が少しはましです。しかし、どちらも安全装置が付いていない上に強度不足で軍用には向かない。ヨーロッパでは警察用です」「スイス軍はP226を採用しているよ」「あそこは民兵ですからね。安価で国産なのが採用理由じゃあないですか」このオチはスイス軍のアレクサンダー・レーア大尉に確認したいところだが、民兵制度のスイス軍でも士官は中国の細菌兵器への対応に動員されているため今年もバートラガーズの民宿は営業を再開できないようだ。そのため私たちはロシアのウクライナ侵攻以来、夏季休暇の旅行ではフィンランドの対ソ戦跡を訪れて教訓を学び、慰霊に勤めてきた。
「それでタイプ92は現在も滞りなく入荷しているんですか」「いいえ、一方的にキャンセルになりました。オランダ国内の同業者はどこも同じ通知を受けているようです。オランダに限らず全てのヨーロッパ諸国も同様でしょう。それでもタイプ92はメリンコ側が売り込みを依頼してきた商品だから固定客はいないので困りません。自国の都合を優先するのは中国相手の商売では珍しくないので始めから期待していませんでした」店主は私の検察官としての質問に異様に熱心に答えてくれた。ヨーロッパでは細菌兵器の流入・蔓延に続き、ウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁に消極的だったことで中国に対する不信感と敵対芯が強まり、作務衣を着て日本人を演じている私に協力するつもりなのかも知れない。これで中国のメリンコ社が製造している92式手槍の大半が日本に持ち込まれていることを確信した。
「あのハンド・ガン(拳銃)が日本に持ち込まれているのね」「うん、小型だから隠蔽するには適当だろう」銃砲店を出て次の店に向かって歩き始めると梢が深刻な顔で訊いてきた。私たちは相変わらずマスクをしているので目しか見えないが口調で梢の気分は理解できた。一時期はオランダでも外出時の着用を義務づけられていたマスクは歩道を見渡しても目に入らない。それでも私たちは毎年冬になるとはめていたので観光客以外は違和感を持たないはずだ。
「淳之介がこの間の電話で沖縄でも治安出動した自衛隊が在沖中国人の銃刀法の家宅捜査を始めて、石垣観光港の縁冠(ペリカン)食堂も調べられたって言ってたわ」「縁冠食堂ってラー油料理が美味い店だろう。何か疑惑を持たれるようなことがあったのかな」日本の司法制度から考えれば捜査令状の交付には合理的必要性が不可欠なはずだ。結局、オランダで暮らしている私には日本国内で起こっている危機的状況が十分に理解できていなかったようだ。
  1. 2022/05/12(木) 14:09:59|
  2. 夜の連続小説9
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