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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ127

「安川2尉、遠隔起爆装置のテストをお願いします」「待て、設置状態の確認が先だろう」第13普通科連隊の安川和也2尉は2名の山岳レンジャー=クレージー13と松本駐屯地に同居する第306施設隊のレンジャー隊員1名を指揮して日本海側の原子力発電所の電力を首都圏に送る高圧鉄塔の根元にアメリカ軍から供与された指向式散弾地雷・クレイモアを設置する作業に当たっていた。陸上自衛隊が採用しているスウェーデン軍の指向式散弾地雷をライセンス生産したFV113は西部方面隊と中部方面隊に配分されたため東部方面隊と東北方面隊、北部方面隊はアメリカ製のクレイモアになった。この使用法に適合させるため本来は有線式のクレイモアの起爆装置を遠隔操作できる無線式に改良している。しかし、経済政策としては防衛装備品の国産化を進めるのは理解できるが、備蓄が不十分で日本の防衛産業に緊急時の迅速な増産態勢が整っていない以上、防衛政策としては賛成できない。それは国産の91式携帯式地対空誘導弾とアメリカ軍から供与を受けたブロック1でも言えることだ。
「これで起爆すれば高圧鉄塔の柵の中は漏れなく散弾で清掃されます」「東京でも実証済みだな」施設隊のレンジャーは険しい岩山の頂上に建てられている高圧鉄塔の根元の四角形のフェンスを菱型に見立てて一角から敷地全体に散弾が発射されるように設置していた。破壊目的で侵入するのであれば「角(かど)」よりもフェンスに手が掛けやすい「辺(へん)」からになりそうだが、支柱の根元の方が見つかりにくい。前回の東京郊外の高圧電線では侵入者が散弾と爆風で一網打尽になることを見事に実証したが、あちらは平坦な造成地でこちらのような断崖絶壁ではない。果たしてレンジャーでもない素人がこのような接近することも困難な場所の高圧電線を破壊しようとするのかは疑問だが、在日中国人や半島人が徴兵を受けて従軍していれば素人とは言い切れず、予期せぬ場所を攻撃するのはゲリラ戦の基本だ。
「それじゃあ東京電力の監視所とテストしてみよう」「テストは接続しないで実施します」「そうだろうな、接続してスイッチを入れれば爆発するぞ」施設隊のレンジャーが記憶していた取扱説明書の注意事項を口にすると安川2尉は呆れたように答えた。同じ第13普通科連隊の陸曹であれば間もなく1尉に昇任して中隊長になると言われている安川2尉を馬鹿にしたような台詞は絶対に吐かないが、施設隊のレンジャーは油断したらしい。実は国産のFV113には熟練している第306施設隊もクレイモアを取り扱うのは初めてで、作業前には勝田の施設学校から派遣された教官の講習を受けていた。その講習には安川2尉も参加したが教官は「翻訳した取扱説明書を熟読しただけだ=全く詳しくない」と正直に告白しながらも「使用目的が同じだから機能に大差はない」と自己弁護のように補足した。つまりこの施設隊のレンジャーも「あまり自信がないのだ」と理解した。
一方、クレージー13は頂上に設置するクレイモアを背負って断崖絶壁を登る運搬係と高架電柱に登って東京電力群馬支社監視所からの作動電波を中継するアンテナを設置する高所作業員を兼務している。別の1名は移動用のジープに残り、載せてあるクレイモアを警護している。妙な話だが治安出動した自衛隊は正当防衛・緊急避難における威力均衡の原則で暴徒が拳銃を使用している場合、自衛隊も拳銃にしなければ過剰防衛になるため小銃は携行できない(=日本刀を振り回す者を制圧するのにはるかに長い銃剣道の木銃は使用できない)。したがって今日のレンジャーたちは拳銃弾を発射する短機関銃になった。
「はい、東京電力群馬支社、高圧電線監視所です」「こちら電線警備設置隊、Gライン1号の作業が終わりました。テストを願います」安川2尉は防衛回線の部内秘匿装置がついた携帯電話で東京電力群馬支社の高圧電線監視所に連絡した。東京電力に限らず全国の電力会社の高圧電線監視所のうちクレイモアを設置した地域の担当部署には陸上自衛隊の隊員が配置され、不法侵入者に対しては重要施設の防護措置として警察権を行使することになっている。この監視所にも今夜から相馬原駐屯地の第48普通科連隊から配置される予定だ。
「はい、スイッチ・オン」「ランプが点いた。正常なようだ」「ご苦労さまです。気をつけて次の設置場所に移動して下さい」東京電力群馬支所の担当者は丁寧に労った。東京電力の保線作業でも同様に危険と隣り合わせなので苦労を共有してくれているようだ。
「よし、次へ行こう」「レンジャー」安川2尉はこの高架電柱にもアンテナを設置して下りてきたクレージー13と施設隊のレンジャーに声をかけた。すると高い場所に登ったクレージー13は定番の返事をした。それにしても100メートルを超える断崖絶壁の上に建っている高さ50メートルの鉄塔の最上部まで命綱もなしに登ることを遊びの木登りのような感覚でやってのけ、戻ってくれば気分が高揚しているこの連中はやはりクレージー13だ。安川2尉はフェンスのシリンダー錠を念いりに確認すると東京電力が設置している通用路を下っていった。
  1. 2022/05/17(火) 14:21:29|
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