日本のサルベージ会社が知床半島沖の120メートルの海底に沈没している観光遊覧船に飽和潜水で5本のワイヤーを取り付けてクレーン船で水深20メートルまで吊り上げて斜里町沿岸の浅い海域に曳航していたところワイヤー2本が切断して今度は水深182メートルの海底に再沈没したようです。
切断した原因としては曳航中にかかる衝撃を緩和するため余裕を持たしていたワイヤーが水流などで擦れて切断したと説明していますが、一連の作業を見ていて昭和の時代に考えられない手際の悪さに平成の30年間で劣化した日本企業の実力を痛感させられました。
今回は斜里町沖で船体を引き揚げて作業船に搭載して岸壁まで運び、陸揚げする予定でしたが、吊り上げた現場ではなく斜里町沖で作業船に搭載する必然性の説明はなく、複数の専門家からは移動によるリスクが指摘されていてそれが的中する形になりました。
確かに観光遊覧船が沈没したような荒れた海面ではクレーン船が揺れて吊り上げ作業が困難になるにしても、強い海流に逆行する形で沈没現場から斜里町まで曳航すれば切断は予想しなくてもワイヤーが緩んで再沈没する可能性は素人でも心配になります。
そもそも昭和の仕事は全責任を負うリーダーを立てることから始まり、そのリーダーの下に集まる人間たちは組織の歯車として回転し、その機能を点検しながら潤滑油を点す管理職も絶妙に機能して一致団結した絶大な力を発揮したのです。おそらく昭和の仕事であればサルベージ会社は船体を陸揚げすることを第1義としてそのための最善の策を強力に推進したはずで、ワイヤーが外れる可能性が予測される水中に吊り下げた状態での曳航などは選択肢に上らなかったでしょう。
それが平成になると企業経営に利益だけを求める株主が口を出すようになり、経営者は目的達成のため多くの提案の中から最善の策を選択する直感と言う指揮官としての能力よりも売り上げの確保と損益の回避が至上命題になり、作業では成功・成果よりも失敗しないことを優先するようになりました。このため海面が荒れて安定性が確保できず失敗のおそれがあると指摘されれば海面が安定する海域までの曳航を選択し、曳航する間の脱落を防止するため低速度で移動し、搭載する作業船は作業予定海域で待機することなく到着後に向かわせることが決定されたようです。
その結果、曳航中の転落=再沈没と言う醜態を晒すことになったのですが、損益についてはおそらく保険を掛けているのでサルベージ会社が負うことはなく、飽和潜水で海底の船内に遺骸などが存在しないことは確認済みなので時間的な遅れも大きな問題にはならず、再度の引き揚げは可能なようなのでこちらも責任は回避できそうです。それにしても今回はワイヤーではなく外れにくいベルトを使用すると言うのなら「始めから使えよ」と文句を言いたくなります。
今回の醜態で被害を被ったのは飽和潜水で身体を長時間にわたり高い水圧に慣らすため体力を消耗し、深海での危険な作業が無駄になった潜水士たちですが、こちらも高額な手当てで納得させるのが平成式です。そう言えば元号が換わったのを忘れていました。
- 2022/05/26(木) 15:21:55|
- 常々臭ッ(つねづねくさッ)
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