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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ142

「屯田くん、何があったんだね」屯田局員はバイクで集落内を走り回り、移住してきた島民たちに声をかけた。避難場所として思いついたのは集落の集会場だったので急いで移動するように促したが、この辺りでは田畑を荒らす害獣の鹿や猪の駆除が行われるので拳銃の銃声も猟銃と勘違いしているらしく呑気に理由を訊く人たちばかりだった。
「パトカーが来たな。でも1台だけだ」昼前なので田畑で農作業に当たっている人も多く畦道をバイクで走っていると栗野川の橋の方向からパトロール・カーのサイレン音が聞こえてきた。1台だけなので連絡を受けた栗野駐在所の警察官が駆けつけたのかも知れない。しかし、橋を封鎖すると逃げ道を失った男たちがこの集落に向かってくる可能性もある。そう思った時、屯田局員は遠くの水田の畦道に軽4輪のトラックが停まっているのを見つけて直行した。
バリバリバリバリ・・・、間もなく1機の水色の塗装のヘリコプターが山の向こうから姿を見せ、急速に高度を下げてエンジンを騒音にした。栗野川を渡る橋の下にある河川敷公園に着陸するようだ。山口県警のヘリコプターは宇部空港に配置されていて山口市内の機動隊の駐屯地に寄って隊員を搭乗させてきているはずだから所要時間としては短い。
「あれは救急ヘリかね」対馬からの避難者の代表は小川内地区の上空で停止しているヘリコプターを見上げながら屯田局員に確認した。この地域の自治会では集落単位で組を作って住民の持ち回りで組長を勤めてきたが過疎と高齢化が進んだため自治会長直轄になっていた。そこに多くの島民が移住してきたのだから組長制度を復活させたいところだが、あくまでも一時的な避難であって定住ではないので変則的な二重構造になっているらしい。
「警察のへリです。機動隊が到着しました。これから拳銃を持っている連中を探して逮捕します」代表がエンジンで聞こえなかったのかと思い再度確認しようとすると屯田局員が回答した。ニュースによれば治安出動した自衛隊の家宅捜査の進展で在日中国人の銃器刀剣の不法所持による摘発と強制送還が急増すると不法に持ち込んで配布していた92式手槍=拳銃を在日南北半島人に預け渡し、中国人に代わって全国各地の都市部で発砲事件を続発させているらしい。ところが下関市では鎌倉時代からの守護大名・大内氏が朝鮮王家の末裔と自称していたように元々が半ば在日南北半島人に乗っ取られたような土地柄なので殊更に事を荒立てる必要性を感じていなかったのか同様の事件は起きていなかった。
「屯田が通報した不審車両は森の入り口に駐車したままです」「うん、上空から確認した」警察のヘリコプターが河川敷公園に着陸すると橋をパトロール・カーで封鎖して双眼鏡で監視していた駐在所の警察官が歩み寄って機動隊の指揮官に報告した。やはり着陸前に不審者、特に不審な乗用車を確認したようだ。その間に5人の機動隊員たちも素早くヘリコプターから下りて整列している。駐在所の警察官も制服の上に防弾チョッキを着ているが、機動隊員たちは鉄帽を被り、腰に自動拳銃を提げた完全武装だ。
「おそらく不審者は島民に交付される生活支援金を配達する郵便局員を狙って待ち伏せしたんだろう。しかし、稚拙な手口から見て拳銃を手に入れた素人だ。素人は予測ができない行動をとる危険性がある。不測事態に備えて安全を確保しろ。銃の使用は個人の判断とするが素人には威嚇射撃が有効なことは言っておく」「私は迂回路から奥の集落に向かいます。屯田くんに任せている住民の保護を交代します」駐在所の警察官は機動隊員が出発前の装具品の点検を始めたのを見て指揮官に申し出た。緊急事態とは言え単なる郵便局員の屯田に拳銃を持った不審者から住民を守る任務を与えたのは誰が考えても酷な要請だ。
「そこに隠れていることは判っている。無駄な抵抗は止めて出て来い」「拳銃は地面に置いて両手を上げろ」「お前たちが拳銃を所持している以上、我々も護身のために武器を使用する」屯田局員が集会所の前に止めたバイクの前に立っていると森の中から機動隊がハンド・マイクで呼びかけている声が聞こえてきた。屯田局員は集会所内で郵便物を配ったが、簡易書留だけは印鑑を持ってきていないので保管している。不審者たちが本当に簡易書留を狙ったとすれば郵便局のバイクを見つければ奪われなくても壊される可能性は高い。だから何時でも乗って逃げられるように待機しているのだ。
パーンッ、「勝手に動くな。足下に拳銃を置け」続いて森の中から1発の銃声と少し口調を強めた警察官の声が聞こえてきた。どうやら不審者が逮捕されるようだ。
「至近距離からの銃撃を上手く回避したもんだな」「元自衛隊の坊さんの教育を受けていますから」「あの坊さんは陸上自衛隊からフランス外人部隊に入隊して何人も人を殺したから坊さんになったんだそうだ」事件後に駐在所で警察官と面談していて屯田局員は危険回避の教官にしている坊主の意外な経歴を聞かされてしまった。
  1. 2022/06/01(水) 16:38:27|
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