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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ149

「やっぱりガラガラだね。簡単に予約できたから予想はしてたけど」「治安出動を戒厳令って報じている新聞が多いからな」私と梢がアムステルダム空港に行くと日本に向かうKLM=オランダ航空の搭乗手続きのカウンターでは並ぶ必要がなかった。オランダに限らずヨーロッパ各国のマスコミは日本で自衛隊に「治安出動(セキュリティー・オペレーション)」が発令されるとそれを「戒厳令(ディレクション・オブ・ロウ)」が布告されたと報じた。私は目についた新聞社やテレビ局に電話をかけてニュアンスの違いを説明した上で訂正を求めたが、対応した編集部は「交流があるA日新聞の現地駐在記者に説明された」と口を揃えて反論した。以前からA日新聞の海外駐在記者は日本国内のニュースを日本に不利になるように歪曲して流布することを専らにしているが、今回は私の国際刑事裁判所の次席検察官と言う肩書の権威の方が勝った。それでも私の目に入らない英語以外の新聞やテレビ局は放置せざるを得ないので在オランダ大使館の河瀬直道防衛駐在官に電話で指摘しておいたが効果は不十分なようだ。しかし、戒厳令が布告されれば外国政府は国民に渡航禁止措置を指示するので民間航空会社が通常通りに運行していることでも状況は判るはずだ。
「まだマスクをしてるんだね」「日本じゃあ予防が全ての対策の基本だからな」成田空港に着いた私と梢は入国手続きの列に並んで周囲を見回すと妙な気分になってしまった。ヨーロッパではワクチン接種が進んで中国の細菌兵器の猛威に沈静化の兆候が見え始めると早々に市民が屋外でのマスクの着用義務の解除を要求し、政府も驚くほどアッサリと承認した。そのためマスクをはめて歩いているとPCR検査で陽性反応が出たのに外出している不心得な保菌者と疑われてしまう。ところが日本ではカウンターに立てたアクリル・ボードの向こうで対応している女性職員たちは全員マスクをはめている。機内でも日本の領空に入った時に「日本では政府から屋外でのマスク着用を要請されています。お持ちではない方には無料配布します」とアナウンスされたが、命令とは言わなかったためヨーロッパ人の大半は無視していた。案の定、カウンターでは手続きを終えたヨーロッパ人の入国者に職員が「日本ではマスクの着用をお願いします」と言いながらマスクを押しつけるように手渡していた。義務化しているヨーロッパよりも要請の日本の方がマスクの着用が徹底しているのは不思議だ。
「空港の外は自衛隊が守ってるんだな」「これが治安出動なんだね」到着ロビーから地下の東急スカイライナーの駅に向かうと要所要所には迷彩服を着て短機関銃を肩に提げた自衛官が2人組で立っていた。考えてみれば空港内の警察官も今までは制服姿で単独で立っていた位置に防弾チョッキと鉄帽を借用して2人ずつ配置されていた。
「市街地にも自衛隊が配置されてるんだなァ・・・」今夜はOBのモリヤ元2佐として予約したグランドヒル市ヶ谷に宿泊するが、梢は明日の夕方には羽田空港から沖縄へ行ってしまうため東京での買い物に歩き回った。すると都内各所に短機関銃を提げた自衛官が2人組で立っていた。どうやら警視庁の警察官は国と都の官公庁舎と駅や変電所などの重要施設に配置され、市街地の警備は自衛隊が担当しているようだ。私は現役時代、陸上幕僚監部法務官室で勤務する法務幹部だったが、治安出動は警察力では対処できない暴動・騒乱を自衛隊が銃器で威嚇しながら鎮圧すると考えていた。確かに治安出動した自衛官には警察官と同様の職務権限が与えられるので機動隊に限らず一般の警察官の業務を代行・補完しても問題はない。これも日本的な予防式治安対策だろう。そもそも陸上自衛隊は警察予備隊=ナショナル・ポリス・リザーブとして創設されたのだから先祖帰りと言えないこともない。
「公園の道路と芝生の境界線に柵が立ててあるのも日本的ね」「なるほどヨーロッパじゃあ見ないよな」私の買い物は法衣と佛具が中心なので陸上幕僚監部で勤務していた頃に利用し、定年退官で来日した時にも購入した上野や浅草の専門店になる。そんな店から店を巡り歩きながら公園を通過すると梢が足元の柵を見て意外なことを指摘した。ヨーロッパは公園の本場だが、芝生は腰を下ろし、寝そべる天然のカーペットのように思われていて遮るための柵は設置していない。ところが日本では気候が合わない芝生が踏み躙られ、剥げると修復・維持する経費が増大するため目立たない低い柵で囲んで立ち入り禁止にしている。公園の使用目的よりも管理者の都合を優先する対応も日本的と言えばその通りだ。治安出動した自衛隊はこの柵のような役割を果たし、それが治安の維持に大きな効果を上げていることを実感した。海外では敵の攻撃が発生することを前提に軍隊は攻撃力を準備・訓練し、警察は犯罪が起きた時の捜査が主任務だ。ところが日本では防衛や治安にしても不断の警戒監視による予防を最優先する。疾病対策も感染・発症した後の治療よりも予防・検査を重視し、ウガイ手洗いと共にマスクの着用もその1つなのだ。実際の効果の検証は誰も要求しない。
ふ・純名里沙イメージ画像
  1. 2022/06/08(水) 15:07:45|
  2. 夜の連続小説9
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