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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ156

「待てよ・・・昌代は曹学の21期だっただろう。まだ50歳にもなってないから定年は10年近く先じゃないか」おそらく自衛隊ではあり得ない非合法な秘密組織に参加している松山千秋の情報を漏らすのに中村准尉が間もなく定年退官を迎え民間人になることが重大な制約だったが、考えてみれば曹候学生の期は私よりも14期後輩、年齢は16歳下だったはずなので定年退官にはかなり間がある。梢や佳織と比べてもピチピチ感が残っているのは当然だ。
「バレましたか。もう会えないからって優しくしてもらおうと思ったんですが、私の出身期を憶えていてくれたことの方が嬉しいです」私が真顔で指摘すると中村准尉は満面の笑顔になって嘘をついたことを認めた。それにしても私が一緒に暮らしてきた梢や佳織とは世代が違うせいなのか、中村准尉の女性心理は完全に理解を超えている。美恵子もいたが除外する。
「そうとなれば自衛官としての守秘義務は堅持できるな」「勿論、私は口が堅いんです」口調は軽いが人間性は間違いない。私はようやく食欲が湧いてきて手作り弁当を平らげた。ところで食べる時、私が中村准尉のお盆に載っている割り箸を取ろうとすると、そのまま自分の箸を使わせたが、これもかなり危ない女性心理ではないか。
「この部屋は普段は使っていませんから秘密の話でも大丈夫です」食事を終えると中村准尉は助教室ではなく最上階の使っていない教場でも窓1枚分の小部屋に案内した。床からは階下の教場の騒ぎ声が聞こえてくる。万事に団体行動の新隊員教育隊や幹部候補生学校とは違い教場への移動は各個前進のようだ。
「実は松山千秋は海外で軍事情報を収集する自衛隊の秘密組織に参加しているようなんだ。そんな組織は非合法だから存在することも漏らせない。秘密を守るために知り過ぎた者を殺害するのは映画の世界だけじゃあないぞ」「中隊長は良いんですか」「ワシは昌代を信じて一滴漏らした。昌代は家族にも漏らしてはいかん。家族とニューヨークにいる妹の命が危ないことになる」私の説明に中村准尉は複雑で不思議な表情を浮かべた。この顔は殺人犯として刑事告発されて東京拘置所に収監されていた私のところに作野曹長と2人で面会に来た時に似ている。あの時の中村3曹(当時)は私の無事を確認した安堵と再会の喜びの一方で刑事被告人としてアクリル・ボード越しに話している現実に打ち拉(ひし)がれて固く凍りついていた。
「自衛隊にもそんな組織があるんですね」「軍事情報はミリタリィー・トゥ・ミリタリィーと言って同業者同士の交換が鉄則なんだ。外務省の外交官では入手できない情報もある。松山は多国語に堪能だったから国際社会の裏舞台で大活躍してるのかも知れないな」「妹も一緒に働いているのかしら・・・危険だわ」中村准尉は固い表情のまま気分の色を暗くした。
「これ以上は漏らせない。昌代の身が危険になる」「中隊長も気をつけて下さい」私は質疑応答を繰り返す危険よりも実態を知らない松山や岡倉の組織の不確かな情報を漏らすことを避けた。佳織であれば十分な説明が可能かも知れないが秘密の漏洩はあり得ない。
「中隊長、嘘がバレちゃいましたけど1つ、お願いがあります」話が区切りになったところで私が退室しようとすると背後から腕を掴まれた。同じWACでも准尉・陸曹の腕力はデスク・ワークの将官とは比べ物にならず私は簡単に引き寄せられてしまった。
「40歳も半ばを過ぎて恥ずかしいんですが・・・私のファースト・キスを下さい」中村3曹は炎天下の25キロ行進訓練で熱射病と生理による貧血で意識を失い私が自分の水筒の水を背中に降り注いで背負って休止地点まで運んだことがある。あの時、人工呼吸をしなかったか考えてみたが、脈は弱くなっても自発呼吸はしていたので心マッサージの方が可能性はある。
「ワシなんかで良いのか」「はい、お願いします」中村准尉の返事を聞いて私は首から威儀細を外して俗人に戻り、頬を両手で挟んで顔を近づけた。至近距離で見ると年齢相応に小じわがある。それでも目を閉じてキスの後は黙るのが作法なのでそこからは暗黙の世界になった。
「バイアグラがジェネリック(=特許権切れによる価格の引き下げ)になったのを知っていますか」最上階から階段を下りながら中村准尉は妙な情報を提供してきた。私はキスをしていて梢との習慣で無意識に乳房を揉んでしまったので願望が1段上がってしまったのかも知れない。下手すれば「私で試して」と誘っているのではないか。
「それは知らないな」「バイアグラは日本では医師の処方が必要ですが海外では薬局で購入できますよ。最近は国際通販で個人輸入する人が増えてるんです」「何の話なんだ」「中隊長も60歳を過ぎれば男性更年期を迎える頃かなって思って」どうやら久しぶりに中村准尉に会って燃え尽きたはずの煩悩にかすかな火が点いたようだ。今思えば中村3曹は佳織と小学生だった志織を除けば拘置所内で会った数少ない女性なのでオナ・ペットにしても良かったのだが、すでに性的能力は消え果てていたらしい。
韓国軍・熱射病で倒れた中村昌代3曹・イメージ画像
  1. 2022/06/15(水) 14:08:18|
  2. 夜の連続小説9
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