fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ174

調査の最終日は第11管区海上保安本部だった。担当者は3等海上保安監だが自衛隊では2佐に相当する。海上保安庁の階級は自衛隊と数字にズレがあって1等海上保安監は将補、2等海上保安監は1佐、1等海上保安正は3佐、2等海上保安正は1尉なのに階級章は海上自衛隊の階級と同一なのだ。海上保安庁が海上自衛隊を敵視していることはイージス艦・あまごと漁船の衝突事故の裁判で実感していたが、階級を1つ下の数字にすることで低次元な優越感に浸っているのかも知れない。あの海難審判でも極めて低次元で悪質な証拠偽造が行われていた。
「モリヤ検察官には弁護士時代、大変にお世話になりました」案の定、出迎えた担当者は敵意丸出しの態度で応対した。沖縄県警の担当者も普天間基地のデモ隊負傷事件の裁判で被告人側の弁護士だった私に敵意を見せていたが、こちらの裁判は日本海海戦並みの完全逆転勝訴だったので腹の中で燃え立たせている敵意は比べ物にならないはずだ。
「証拠偽造を正したことをそこまで感謝されると海上保安庁の懐の深さに敬意を表さなければなりませんね」こちらとしても裁判中の作戦会議で潜水艦・なだしおと遊漁船の衝突事故の証拠偽造とマスコミの報道操作の悪質性を再確認し、航空自衛隊時代に経験した浜松基地のブルー・インパルスの墜落事故や那覇基地のTー33Aテトラポット衝突事故の航空事故調査委員会の悪意に基づく調査報告書の記憶も重なって胸の中にZ旗が掲揚されているのだ。
「私としては今回の日本と中韓の武力衝突の実態調査が目的ですからご協力いただけなければ仮に本件が国際刑事裁判所に告発された時、中韓側の主張を事実と認識するだけのことです」「協力しないとは言っていません。失礼をお許し下さい」横浜地方裁判所でも吐いたような恫喝に担当者は口一杯に詰め込んだ苦虫を一気に噛み潰したような顔で詫びを入れた。どちらにしても警察と海上保安庁は常勝の検察側に立っているので一度の敗訴でもその原因の究明よりも原告と担当弁護人への憎悪に走る傾向が顕著なようだ。その点、自衛隊は航空基地だけでなく演習場の砲声や駐屯地のラッパまで騒音として訴訟を起こされるサンドバッグ状態だったのでSMの性癖で言えばM嗜好のように打たれ強い。
「これが最初の尖閣周辺海域で集団操業していた中国漁船の取り締まりに向かった巡視船・おもとが中国漁船に側面から衝突されそうになって回避行動として船首部分を銃撃した事件の資料です」担当者は散々に嫌味を投げつけていても公務として情報を提供する準備は整えていて案内された小会議室には私に画像を見せるためのパソコンが用意してあった。最初は航跡図からだが航空自衛隊のレーダー航跡とは違い海図に手書きで船舶の位置関係が記してある。巡視船が生還していれば搭載しているレーダーの記録を転用できるはずだが2隻とも撃沈されてしまっては仕方ない。その時、私は意外な事実を思い出した。
「この事案は上空を飛行中のアメリカ海軍の対潜哨戒機が捕捉して探知記録を海上自衛隊に提供したはずだ。対潜哨戒機は航空自衛隊の南西防空指令所にも通報して監視を強化したんじゃあなかったかな」「どうしてそこまで・・・・」私が志織に聞いた経験談を披瀝すると担当者は驚愕したように言葉を飲み込んだ。
「その対潜哨戒機のコパイ(副操縦士)はワシの娘だから個人的に概要は聞いているんだ」「それじゃあサクラは・・・サクラ中尉はモリヤ検察官のお嬢さんなんですか。我が海上保安庁としても巡視船が2隻とも沈没して乗員が全員死亡してしまって中国側の批判に反論するデーターがないと悩んでいたところにアメリカ海軍から詳細なデーターが届き、その上、航空自衛隊にも監視の強化を指示してくれていたサクラ中尉には感謝しているんです」「娘は日本人だから傍受していた巡視船の交信が理解できて緊急事態の切迫を感知したんだそうだ。本当は中国海警の巡洋艦を攻撃したかったが、現場の独断で国際問題に介入することは許されなかったと悔しがっていたよ」「いいえ、本当に助かりました。お嬢さんに連絡することがあれば感謝を伝えて下さい」「今頃はインド洋で飛んでいるから連絡するのは当分先だね」厚木基地の海上自衛隊でも志織はサクラのタック・ネームで呼ばれるアイドルになっていたが、沖縄の海上保安庁では無念の死を遂げた同僚たちの名誉を守った女神のような扱いを受けているらしい。それは私ではなく佳織の遺伝子の力だろう。
「ここが慰霊室かね」「はい、今までは小会議室に職務中に殉職した数人の遺影を掲げていたんですが、巡視船4隻の乗員となると200人を超えますから屋内での慰霊行事の会場にする大会議室に移動させました。それでも遺影はキャビネサイズにせざるを得ませんでした」調査を終えるとここでも殉職した乗員の慰霊法要を勤めさせてもらった。案内された大会議室の壁には撃沈された巡視船の写真に船長以下の乗員の遺影が4隻分並んでいる。私は「海ゆかば」を唄いたくなったが海上保安庁は軍隊を否定しているので加山雄三の「海・その愛」にした。
24・モリヤ志織少尉イメージ画像
  1. 2022/07/03(日) 10:29:01|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<7月4日・非戦闘の大作戦=プロジェクト・ジェニファーが始まった。 | ホーム | 7月2日・京都に嶋原遊廓ができた。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/7754-3172b538
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)