米ソ冷戦が苛烈を極めていた1974年の明日7月4日に太平洋上で浮上不能になったソ連の弾道ミサイル(SLBM)発射型潜水艦=ゴルフ級を極秘裏にサルベージする大作戦=プロジェクト・ジェニファーが始まりました。
この潜水艦は1968年に核弾頭を搭載し、発射可能の状態で太平洋を航行していましたが(原子力推進ではないので連続潜航には限界がある)、3月8日にアメリカ海軍の音響監視システム=SOSUSが爆発音を探知し、偵察衛星や海兵隊の調査船によってソ連海軍の作戦海域を大きく逸脱したハワイ沖の水深5000メートルの海底に沈没している艦体を発見したのです。当時、ソ連海軍も多数の艦艇を太平洋上の作戦海域で行動させて潜水艦を探索しているようでしたが発見できなかったようです。
これを受けてアメリカ海軍は特殊探査装置を搭載した専用改造原子力潜水艦・ハリバットを派遣して沈没している潜水艦を確認しました。23隻が就役していたゴルフ級は1型が3発、2型が6発、3型が4発の核ミサイルを搭載していたためアメリカとしてはソ連の核ミサイルの実物だけでなく核攻撃の命令を受ける暗号システムを入手する絶好の機会ととらえソ連の阻止行動を防ぐため極秘裏のサルベージ作戦を決定しました。
その極めて重大で困難な仕事を請け負ったのがアメリカの軍事産業の頭目的存在だったハワード・ヒューズさんで長さ98・5メートル、幅8・2メートル、水上排水量2820トン(最大)のゴルフ級潜水艦を極秘裏に引き上げるために海底に巨大な機械式鉤爪を下ろして艦体を掴み、引き上げてそのまま船底の扉を開けて船体内に収容する排水量63000トン、高さ189メートルの特殊サルベージ船・エクスプローラーをマンガン団塊の掘削船の名目で建造に着手しました。そして6年後に完成したエクスプローラーは1974年7月4日に現場海域に到着して作業を開始したのです。
その作業手順は船体から海底の艦体に向けて長さ18メートルのパイプを下ろしてつなぐ油田の発掘方式で、その中に鉤爪を垂らして艦体を掴み、引き上げる時は逆にパイプを順番に外していくと言うもので、位置を固定して安定した姿勢で船体内に収容できるはずでした。作業現場には情報を入手したらしいソ連の艦艇が現れましたが作業は海中で行われ、エクスプローラーの巨大な船体の外見にはマンガン団塊の掘削船を疑わせるような特殊な構造物や装置は見当たらないため静観していただけでした。
そうして引き上げを開始してからは漏洩や暴露された記録さえも真偽不明になりましたが、漏洩を受けてアメリカ政府が公式に認めた内容では8月12日に海底で破壊・分散していた艦体を掴んでいた鉤爪の一部が欠落して大半が海底に沈んでしまい11・6メートル分だけを収容したことになっています。しかし、これはソ連が潜水艦の所有権を主張して艦体の返還を求めてくるのを阻止し、情報がアメリカに渡ったことでソ連が暗号システムを変更するのを防ぐための虚偽で、実際は艦体全部の収容に成功してソ連の核兵器や潜水艦の軍事技術を検証し、開戦時にソ連が発信する核兵器発射の指令暗号通信を妨害する装置の開発に役立てたとする説が有力です。
- 2022/07/03(日) 10:30:31|
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